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第394話 魔族召喚
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レントーク決戦より数カ月が経過していた。季節はすっかりと夏になっている。大抵の居場所は城の最上階近くに作った臨時の執務室だ。ここは涼しい風が入ってくるので気に入っている場所だ。城下の様子もすっかりと変わり、建設中だらけだった建物も今では営業をしていたり、人が住んでいたりと賑わいが一層増えている。
公国全体の人口も増え始めていることもあり、各地から都への人の流入が多くなってきている気がする。そのおかげで、都周辺の開拓も順調に進んでおり、公国でも一番の穀倉地帯へと変貌を遂げている。都周りに村がいくつも立ち上がり、その村々に水車が置かれ季節に応じて、機械を入れ替えながら脱穀をしている。
変化と言えば、それくらいなのだが王国兵の捕虜についても変化があった。ルドとグルドが説得をしてくれたおかげで六割に当た十二万人が公国への正式な帰属を求めたというのだ。やはりルドが言うように王国で仕事にあぶれた者たちが集まり、日銭を稼ぐために志願した者たちだから王国への忠誠がない。それに王国に家族もいない者たちばかりだったので、公国への帰属に然程抵抗はなかったようだ。
残りの四割については王国に家族が残していることもあり、釈放することにしたのだ。しかし、面白いことにその釈放した捕虜たちは一月もしないうちに再び公国へ戻ってきたのだ。どうやら王国の政情はかなり不安定になり、いつ内乱が起きてもおかしくない状態だというのだ。
その点、公国は安心できる土地で仕事も用意してくれると言うので家族を引き連れて移住してきたのだ。そのため王国兵二十万人すべてが公国に帰属することとなったのだ。さらにその家族を合わせれば三十万人以上にもなった。よく無事に公国に来れた事を感心していると、それを止めるだけの力が王国にはないようなのだ。
考えてみれば、亜人の流入もかなり増えているらしい。ライルやグルドが守っている砦では日に何十組もの亜人が押し寄せてきているというのだ。サルーンにも聞くと、同じような答えが返ってくる。レントークに戻ってくるのは全員、元レントーク人らしい。自国民を売っていたレントーク王家がすっかり入れ替わり、自国民保護に強い姿勢に臨んでいることがわかったことが原因のようだ。
これらの動きのせいで王国の食料供給は不安定さを増しており、軍優遇を続ける王国は必然的に住民からの反発が強まってきている。そんな中、ついに待ち望んでいた報告がやってきたのだ。
魔導書を奪取したというものだ。この奪取に関わった忍びの里の者は実に百人程度に及び、実際に実行したものはひどい手傷を置いながらも命からがらで魔導書を手に入れることが出来たようだ。その者に対しては回復魔法をかけ、休ませることにした。
そしてその魔導書が目の前にある。古びた様子もない使った様子も感じられないほどきれいな本だ。開けば見たこともない文字の羅列が書いてあり、とても読めそうにない。しかし、めくっていく内に不思議と読めるようになってきて、そこには召喚の儀式の内容やそのルールが書かれていた。
それを熟読する内に面白いことが書かれていた。この本の所有に関する項目だ。この本の真の所有者は魔王であるらしい。おそらく話に出てきたことがある一の魔王だろう。使用者は誰もでよく、手に取ったものに本を行使する資格が与えられるというのだ。
そして真の所有者から所有を譲り渡されることが出来るらしい。それが対価の超過払いをすることで出来るらしい。ミヤが言っていた負債のことだろう。これが完済されると魔族は自由になると言っていたな。その負債を使用者が肩代わりすることで魔族は自由を得ることが出来るということか。正確には所有者が変わるだけだから自由とはいい難いが。
その本を手にして、ミヤのところに向かった。ミヤはのんびりとした暮らしに飽きてきたのか、僕が面白そうなものを持ってきたと思ってすぐに出迎えてくれた。
「何? なにか面白いことでもあったの?」
「実はな……」
そういってミヤに本を手渡した。ミヤはおもむろに本のページをめくり始めた。最初のうちは何の反応もなかったが、次第にその本の正体が分かってくると見開いた目を僕に向けてきた。
「これは……カミュの魔導書……やっと手に入れてくれたのね。ありがとう、ロッシュ」
そういってミヤはその本を抱きしめた。
「早速召喚しましょうよ」
ここではまずいのではないか? 一応ミヤの知り合いとは言え、あれだけの破壊力のある魔法を使える魔族だ。城が吹き飛ばされては困ってしまうではないか。
「大丈夫よ。使用者に対して召喚された魔族は危害を加えることは出来ないはずよ」
「そうなのか?」
ミヤは自信たっぷりに答えるものだから、安心して召喚の儀を行うことにした。といっても至極簡単なものだった。魔法陣が描かれたページを開き、詠唱をする。
「魔族よ、来たれ」
その言葉を発すると魔法陣が光り……何も起こらない。
あれ? おかしいな。手順は間違っていないはずなのに。ミヤも首を傾げている。本を振ったり落としたりしたが反応はない。それでも魔法陣は光り続けている。一応は儀式は成功しているらしいが、魔族が出てこないのでは意味がないぞ。
一時間経っても現れる様子はない。僕とミヤは半ば諦めたように二人ベッドでイチャイチャしていると本の上空にシルエットが浮かびだし、魔族が現れた。前に一度見たカミュという魔族の娘だ。澄ましたような顔をしながらの登場だ。一方、僕達は一糸まとわぬ姿でベッドにいる。
カミュは誰に言うでもなく言葉を言う。
「我を召喚せし者、対価を払い我に願いを伝えるがいい。我の全力を持ってその願いを叶えよう」
その台詞にミヤが食いつく。
「何が全力よ。貴女が全力でやったら全部失敗するじゃないの!!」
「誰よ!! 私の愚弄するのは……げっ!! なんでミヤがここにいるのよ……それにあの時の人間。そう、貴女が私の呼び出したの。それにもう準備万端ということね。分かったわ。私の体を好きに使うがいいわ。その代わり対価はたくさんもらうからね」
「はぁ? 冗談はやめてよね。なんで貴女ごときがロッシュの体に触れていいと思っているの? ロッシュは純血にしか興味ないの。貴女のような……失礼。それがお仕事ですものね。貴女にできることは体を売ることと破壊くらいしかないものね」
「ぐぬぬぬ。じゃあ、なんだってそんな姿なのよ」
「決まっているじゃない。夫婦の営みよ。貴女にはそんな相手がいないから分からないでしょうけど。それよりも召喚が遅いじゃない!! 何をしていたって言うの? 使用者を待たせるとか終わっていると思うの」
「それは……悪いと思うけど、本をしっかりと読んでくれた? 召喚できる時間帯が書かれているはずよ。私が休憩中に呼び出しが来るんだもん。色々と準備とか必要なの。分かるでしょ? 全くロクに本も読まないような人が使用者とか、本当に困るわ。それで願いは何? 私、忙しいんだけど」
カミュは一通り喚いた後、ようやく仕事モードに入ったようだ。先程までのふざけた感じではなく、真面目な顔をしたのだ。その表情には一瞬だが胸が高鳴ってしまった。その前にとにかく服を着なければな……と思ったらミヤが僕を押し倒し始めた。一体、何をするんだ?
「どうせカミュは喚び出されれば、しばらくは魔界に帰れないわ。ちょっと見せつけてあげましょうよ」
なんと意地の悪い趣味をしているのだ。僕にはそんな趣味は……やってしまった。結局流されるままに。その間、カミュとずっと目が合っていたような気がする。なんという羞恥。
「凄い」
カミュが時折つぶやいていた、なにが凄いのか分からないが、どうやら僕の印象はかなり良くなったみたいだ。僕のことをロッシュと呼ぶようになっていた。ミヤは様をつけなさいと強要していた。
「ミヤがつけていないのに私が付ける理由がないわ!! さあ、ロッシュ。願いを言いなさい。その……私の体でもいいのよ」
「ダメって言っているでしょ!! 貴女の体は誰とも寝るように出来ているんでしょ?」
「違うもん!! 私の体はキレイなままよ!! 私の種族は夢を見せることで快楽を与える魔法を使うだけで、本当の肉体関係があるわけじゃないんだから。ミヤも知ってるでしょ? どうして、そんなにイジワルするの?」
なんだかカミュの感情が崩壊していくのを感じる。
「ふん!! カミュがなんだか澄ました顔しているからイジメたくなるのよ。貴女は昔っからドジっ子なんだから、そんな顔は似合わないわ」
「えっ……じゃあ、ミヤはまだ私を友達だと思っていてくれているの? 私、ミヤに酷いことをしたのに……」
「それは……貴女が一の魔王の娘だったからでしょ? 今は違うじゃない。ただのカミュなんでしょ? だったら関係ないじゃない」
「ミヤぁ!!」
すっかり二人の世界のようだが……美女二人が抱き合う。一方は裸だ。この絵は何だろ……すごく刺激的に映るのは僕だけか? それにしても二人の間に何が会ったというのだろう? 気になるが、二人から明かされることはなかった。どうやら二人の間だけの秘密のようだ。
二人がしばらく抱き合っていると、カミュがミヤを突き放した。
「こんなことをしている場合ではないわ!! 早く願いを言って。そうじゃないと魔界に戻っちゃう。それに願いを言わないで魔界に戻すと本も新たな使用者を探して消えちゃうわよ。私はあの爺のもとに戻るのは嫌。気持ち悪いし、ケチくさいし。何でもいいから願いを」
何でもいいと言われても急には出てこないな。カミュに願いを言うために出てきてもらったわけではないからな。するとミヤがぼそっと呟いた。
「だったらここにずっといないさいよ。私達と暮らしなさいよ」
「ずっと? 永遠に? でもそんな願いだと対価が凄いことになるわよ。絶対貴方達に払えると思えないわ」
「違うのよ。ロッシュはね。カミュの所有を考えているの」
「でも、私の負債はとんでもない大きさよ。絶対に払えないわ」
「話は変わるけど、一番対価の安い仕事って何?」
カミュはしばらく考えてから答えを出した。
「爪切りかしら?」
「じゃあ、爪切りでお願いするわ」
契約が成立したようで魔法陣の色が俄に変わったのだった。
公国全体の人口も増え始めていることもあり、各地から都への人の流入が多くなってきている気がする。そのおかげで、都周辺の開拓も順調に進んでおり、公国でも一番の穀倉地帯へと変貌を遂げている。都周りに村がいくつも立ち上がり、その村々に水車が置かれ季節に応じて、機械を入れ替えながら脱穀をしている。
変化と言えば、それくらいなのだが王国兵の捕虜についても変化があった。ルドとグルドが説得をしてくれたおかげで六割に当た十二万人が公国への正式な帰属を求めたというのだ。やはりルドが言うように王国で仕事にあぶれた者たちが集まり、日銭を稼ぐために志願した者たちだから王国への忠誠がない。それに王国に家族もいない者たちばかりだったので、公国への帰属に然程抵抗はなかったようだ。
残りの四割については王国に家族が残していることもあり、釈放することにしたのだ。しかし、面白いことにその釈放した捕虜たちは一月もしないうちに再び公国へ戻ってきたのだ。どうやら王国の政情はかなり不安定になり、いつ内乱が起きてもおかしくない状態だというのだ。
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考えてみれば、亜人の流入もかなり増えているらしい。ライルやグルドが守っている砦では日に何十組もの亜人が押し寄せてきているというのだ。サルーンにも聞くと、同じような答えが返ってくる。レントークに戻ってくるのは全員、元レントーク人らしい。自国民を売っていたレントーク王家がすっかり入れ替わり、自国民保護に強い姿勢に臨んでいることがわかったことが原因のようだ。
これらの動きのせいで王国の食料供給は不安定さを増しており、軍優遇を続ける王国は必然的に住民からの反発が強まってきている。そんな中、ついに待ち望んでいた報告がやってきたのだ。
魔導書を奪取したというものだ。この奪取に関わった忍びの里の者は実に百人程度に及び、実際に実行したものはひどい手傷を置いながらも命からがらで魔導書を手に入れることが出来たようだ。その者に対しては回復魔法をかけ、休ませることにした。
そしてその魔導書が目の前にある。古びた様子もない使った様子も感じられないほどきれいな本だ。開けば見たこともない文字の羅列が書いてあり、とても読めそうにない。しかし、めくっていく内に不思議と読めるようになってきて、そこには召喚の儀式の内容やそのルールが書かれていた。
それを熟読する内に面白いことが書かれていた。この本の所有に関する項目だ。この本の真の所有者は魔王であるらしい。おそらく話に出てきたことがある一の魔王だろう。使用者は誰もでよく、手に取ったものに本を行使する資格が与えられるというのだ。
そして真の所有者から所有を譲り渡されることが出来るらしい。それが対価の超過払いをすることで出来るらしい。ミヤが言っていた負債のことだろう。これが完済されると魔族は自由になると言っていたな。その負債を使用者が肩代わりすることで魔族は自由を得ることが出来るということか。正確には所有者が変わるだけだから自由とはいい難いが。
その本を手にして、ミヤのところに向かった。ミヤはのんびりとした暮らしに飽きてきたのか、僕が面白そうなものを持ってきたと思ってすぐに出迎えてくれた。
「何? なにか面白いことでもあったの?」
「実はな……」
そういってミヤに本を手渡した。ミヤはおもむろに本のページをめくり始めた。最初のうちは何の反応もなかったが、次第にその本の正体が分かってくると見開いた目を僕に向けてきた。
「これは……カミュの魔導書……やっと手に入れてくれたのね。ありがとう、ロッシュ」
そういってミヤはその本を抱きしめた。
「早速召喚しましょうよ」
ここではまずいのではないか? 一応ミヤの知り合いとは言え、あれだけの破壊力のある魔法を使える魔族だ。城が吹き飛ばされては困ってしまうではないか。
「大丈夫よ。使用者に対して召喚された魔族は危害を加えることは出来ないはずよ」
「そうなのか?」
ミヤは自信たっぷりに答えるものだから、安心して召喚の儀を行うことにした。といっても至極簡単なものだった。魔法陣が描かれたページを開き、詠唱をする。
「魔族よ、来たれ」
その言葉を発すると魔法陣が光り……何も起こらない。
あれ? おかしいな。手順は間違っていないはずなのに。ミヤも首を傾げている。本を振ったり落としたりしたが反応はない。それでも魔法陣は光り続けている。一応は儀式は成功しているらしいが、魔族が出てこないのでは意味がないぞ。
一時間経っても現れる様子はない。僕とミヤは半ば諦めたように二人ベッドでイチャイチャしていると本の上空にシルエットが浮かびだし、魔族が現れた。前に一度見たカミュという魔族の娘だ。澄ましたような顔をしながらの登場だ。一方、僕達は一糸まとわぬ姿でベッドにいる。
カミュは誰に言うでもなく言葉を言う。
「我を召喚せし者、対価を払い我に願いを伝えるがいい。我の全力を持ってその願いを叶えよう」
その台詞にミヤが食いつく。
「何が全力よ。貴女が全力でやったら全部失敗するじゃないの!!」
「誰よ!! 私の愚弄するのは……げっ!! なんでミヤがここにいるのよ……それにあの時の人間。そう、貴女が私の呼び出したの。それにもう準備万端ということね。分かったわ。私の体を好きに使うがいいわ。その代わり対価はたくさんもらうからね」
「はぁ? 冗談はやめてよね。なんで貴女ごときがロッシュの体に触れていいと思っているの? ロッシュは純血にしか興味ないの。貴女のような……失礼。それがお仕事ですものね。貴女にできることは体を売ることと破壊くらいしかないものね」
「ぐぬぬぬ。じゃあ、なんだってそんな姿なのよ」
「決まっているじゃない。夫婦の営みよ。貴女にはそんな相手がいないから分からないでしょうけど。それよりも召喚が遅いじゃない!! 何をしていたって言うの? 使用者を待たせるとか終わっていると思うの」
「それは……悪いと思うけど、本をしっかりと読んでくれた? 召喚できる時間帯が書かれているはずよ。私が休憩中に呼び出しが来るんだもん。色々と準備とか必要なの。分かるでしょ? 全くロクに本も読まないような人が使用者とか、本当に困るわ。それで願いは何? 私、忙しいんだけど」
カミュは一通り喚いた後、ようやく仕事モードに入ったようだ。先程までのふざけた感じではなく、真面目な顔をしたのだ。その表情には一瞬だが胸が高鳴ってしまった。その前にとにかく服を着なければな……と思ったらミヤが僕を押し倒し始めた。一体、何をするんだ?
「どうせカミュは喚び出されれば、しばらくは魔界に帰れないわ。ちょっと見せつけてあげましょうよ」
なんと意地の悪い趣味をしているのだ。僕にはそんな趣味は……やってしまった。結局流されるままに。その間、カミュとずっと目が合っていたような気がする。なんという羞恥。
「凄い」
カミュが時折つぶやいていた、なにが凄いのか分からないが、どうやら僕の印象はかなり良くなったみたいだ。僕のことをロッシュと呼ぶようになっていた。ミヤは様をつけなさいと強要していた。
「ミヤがつけていないのに私が付ける理由がないわ!! さあ、ロッシュ。願いを言いなさい。その……私の体でもいいのよ」
「ダメって言っているでしょ!! 貴女の体は誰とも寝るように出来ているんでしょ?」
「違うもん!! 私の体はキレイなままよ!! 私の種族は夢を見せることで快楽を与える魔法を使うだけで、本当の肉体関係があるわけじゃないんだから。ミヤも知ってるでしょ? どうして、そんなにイジワルするの?」
なんだかカミュの感情が崩壊していくのを感じる。
「ふん!! カミュがなんだか澄ました顔しているからイジメたくなるのよ。貴女は昔っからドジっ子なんだから、そんな顔は似合わないわ」
「えっ……じゃあ、ミヤはまだ私を友達だと思っていてくれているの? 私、ミヤに酷いことをしたのに……」
「それは……貴女が一の魔王の娘だったからでしょ? 今は違うじゃない。ただのカミュなんでしょ? だったら関係ないじゃない」
「ミヤぁ!!」
すっかり二人の世界のようだが……美女二人が抱き合う。一方は裸だ。この絵は何だろ……すごく刺激的に映るのは僕だけか? それにしても二人の間に何が会ったというのだろう? 気になるが、二人から明かされることはなかった。どうやら二人の間だけの秘密のようだ。
二人がしばらく抱き合っていると、カミュがミヤを突き放した。
「こんなことをしている場合ではないわ!! 早く願いを言って。そうじゃないと魔界に戻っちゃう。それに願いを言わないで魔界に戻すと本も新たな使用者を探して消えちゃうわよ。私はあの爺のもとに戻るのは嫌。気持ち悪いし、ケチくさいし。何でもいいから願いを」
何でもいいと言われても急には出てこないな。カミュに願いを言うために出てきてもらったわけではないからな。するとミヤがぼそっと呟いた。
「だったらここにずっといないさいよ。私達と暮らしなさいよ」
「ずっと? 永遠に? でもそんな願いだと対価が凄いことになるわよ。絶対貴方達に払えると思えないわ」
「違うのよ。ロッシュはね。カミュの所有を考えているの」
「でも、私の負債はとんでもない大きさよ。絶対に払えないわ」
「話は変わるけど、一番対価の安い仕事って何?」
カミュはしばらく考えてから答えを出した。
「爪切りかしら?」
「じゃあ、爪切りでお願いするわ」
契約が成立したようで魔法陣の色が俄に変わったのだった。
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