嘘彼

あめ

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青葉香る

入寮の日

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「紫乃、起きて!」

いきなり耳元で大きな声が聞こえて、ゆっくりと目を開けてみる。
目の前には僕と似た顔をしている双子の弟、蘭がいた。不機嫌そうに頬を膨らませている蘭は、もうすでに着替えも終わって身支度が整っていた。

「朝から声が大きすぎませんかね、蘭さん。」

「いつまでも寝てるから僕が母さんから頼まれて起こしに来る羽目になったんだからね。」

「そうは言うけどさ、まだ時間早いよ。」

「そんなんだから昔から紫乃は皆からバカにされちゃうんだって。何事も時間に余裕を持って行動!これ当たり前!今日なんて特にさ。」

そう言うと勢いよく僕の布団を剥いだ。
ここまでされたら起きない訳にはいかない。渋々体を起こすと、蘭は満足したようで僕の部屋から出て行った。


今日は確かに普段と違う。高校の入寮の日だからだ。
家族に馴染めず、両親の勧めもあって全寮制の学校を選んだところまでは良かったが、同じ学校には蘭も入学することになった。
正直に言うと、蘭のことは少し苦手だ。苦手なだけで、嫌いなわけではない。
遠慮のない言い方をするというか…歯に衣着せない言い方が自尊心に突き刺さるのだ。

慌ただしくなるこれからを考えて少し憂鬱な気持ちになるのをなんとか抑えつつ着替え、顔を洗い歯も磨いてからリビングに入ると、すでにテーブルには朝ごはんが用意されていた。
焼いた食パンに目玉焼き、ベーコン、ジャム、牛乳。
子どもっぽいと思われるかもしれないけど、僕たち双子が小さい時から好きな定番メニューだ。
父さんはもう食べ終わっていて、テレビをBGMに新聞を読んでいる。
母さんはまだ台所に立って、洗い物をしている。
一見するといつもと全く変わらない朝の風景だけど、朝のこのメニューには母さんなりの気遣いを感じた。

元気よく食べている蘭の隣に座り、僕も食パンに手を伸ばした。
洗い物をしながら、母さんがちらりとこっちを見た。

「二人とも持ち物は大丈夫なの?学校まで片道3時間はかかるんだから忘れ物とかしないでね。」

僕たちは声を揃えて平気だと答えた。
それを聞いてか、父さんも口を開いた。

「親の目が無くても、くれぐれも立派にやりなさい。」

はいはい、そうですね。
心の中でとげとげしく返した。
明日からはそんな小言も言われなくなる…そんな罰当たりなことを密かに思いつつ口に含んだ目玉焼きは美味しくて、少し寂しく感じた。
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