22 / 40
3章 血染めの髑髏
4 憂愁の海
しおりを挟む
どこへ行こう。
また行く所がなくなった。
景司はあてもなく、いつかのように、街道を南に向かって歩いた。
初めは逃げるように足早だったが、次第に鈍り、止まりがちになる。
海が見たい。
トボトボと海に向かって歩いた。
地元だから、大体の地理はわかっている。
景色は違うが、海の場所はきっと同じだ。
学校があるわけでもなく、仕事と言ったって、何をしていいかわからない。
そりゃ、鼻つまみ者だわな。
蔑まれても、文句は言えない。
なのに、なんで悲しくなるのだろう。
暇人ほど悪いことを考える、とばあちゃんがよく言ってたっけ。
ろくでもないことしか浮かんでこない。
おれ、何やってるんだろう。
今更ながら、おかしくなる。
考えてみたら、酷い目に遭っているよな。
今までそれほど考えてこなかった、生きるの死ぬのの世界に放り込まれた。
歴史が好きだから、大河ドラマでよく戦のシーンとか見ているし、人よりはそういう世界に慣れていると思っていた。
でも、目の前で人が死んでいくのには耐えられない。
そして、熱すぎる男たちの思いを受け止めきれない。
まるで、命の種を植え付けるように抱いてくる。
激しすぎてついていけない。
死が目の前にあるから、激しくなるのだろう。
今の体は景三郎のものだから、耐えられるが、そうじゃなかったら、やわな体では耐えられない気がする。
帰りたい。
強烈にそう思う。
ここは安住の地じゃない。
このままじゃ壊れそうだ。
体も、心も、ボロボロになる。
海へ・・・。
潮の香りがしてきた。
街道を外れていき、松林を抜けていく。
視界が開け、砂浜に足を取られながら、波打ち際を目指す。
綺麗だ。
秋が深まり、頬をなぶる風は冷たい。
が、空の青と海の青の美しさに見惚れ、寒さを忘れた。
あの世か・・・。
ビルもコンビナートも貨物船もない。
飛行機が雲の尾をひいて飛んでいない。
波消しブロックもない。
草履を脱いだ。
内海だから、波はそれほど高くない。
波打ち際。
水が冷たい。
静かだった。
波の音と、風の音と、鳥の囀りしか聞こえない。
帰ろう。
何かがぷっつりと切れてしまったような気がする。
右京がひょっこりと現れて、救い出してくれる、なんてことも永遠にない。
小さな波が、足をくすぐってくる。
もう、どうでもいいや。
海に向かって歩いた。
膝まで波が来る。
寄せては返す波に押されたり、引かれたりと翻弄されるままに任せる。
誰だろう。
誰かが追ってくる。
何か言ってる。
振り返る気にもなれず、そのまま入って行ったら、腕を掴まれた。
そこで初めて振り返る。
「あんた誰?」
見たことのない侍が景司の腕を掴んでいた。
また行く所がなくなった。
景司はあてもなく、いつかのように、街道を南に向かって歩いた。
初めは逃げるように足早だったが、次第に鈍り、止まりがちになる。
海が見たい。
トボトボと海に向かって歩いた。
地元だから、大体の地理はわかっている。
景色は違うが、海の場所はきっと同じだ。
学校があるわけでもなく、仕事と言ったって、何をしていいかわからない。
そりゃ、鼻つまみ者だわな。
蔑まれても、文句は言えない。
なのに、なんで悲しくなるのだろう。
暇人ほど悪いことを考える、とばあちゃんがよく言ってたっけ。
ろくでもないことしか浮かんでこない。
おれ、何やってるんだろう。
今更ながら、おかしくなる。
考えてみたら、酷い目に遭っているよな。
今までそれほど考えてこなかった、生きるの死ぬのの世界に放り込まれた。
歴史が好きだから、大河ドラマでよく戦のシーンとか見ているし、人よりはそういう世界に慣れていると思っていた。
でも、目の前で人が死んでいくのには耐えられない。
そして、熱すぎる男たちの思いを受け止めきれない。
まるで、命の種を植え付けるように抱いてくる。
激しすぎてついていけない。
死が目の前にあるから、激しくなるのだろう。
今の体は景三郎のものだから、耐えられるが、そうじゃなかったら、やわな体では耐えられない気がする。
帰りたい。
強烈にそう思う。
ここは安住の地じゃない。
このままじゃ壊れそうだ。
体も、心も、ボロボロになる。
海へ・・・。
潮の香りがしてきた。
街道を外れていき、松林を抜けていく。
視界が開け、砂浜に足を取られながら、波打ち際を目指す。
綺麗だ。
秋が深まり、頬をなぶる風は冷たい。
が、空の青と海の青の美しさに見惚れ、寒さを忘れた。
あの世か・・・。
ビルもコンビナートも貨物船もない。
飛行機が雲の尾をひいて飛んでいない。
波消しブロックもない。
草履を脱いだ。
内海だから、波はそれほど高くない。
波打ち際。
水が冷たい。
静かだった。
波の音と、風の音と、鳥の囀りしか聞こえない。
帰ろう。
何かがぷっつりと切れてしまったような気がする。
右京がひょっこりと現れて、救い出してくれる、なんてことも永遠にない。
小さな波が、足をくすぐってくる。
もう、どうでもいいや。
海に向かって歩いた。
膝まで波が来る。
寄せては返す波に押されたり、引かれたりと翻弄されるままに任せる。
誰だろう。
誰かが追ってくる。
何か言ってる。
振り返る気にもなれず、そのまま入って行ったら、腕を掴まれた。
そこで初めて振り返る。
「あんた誰?」
見たことのない侍が景司の腕を掴んでいた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる