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3章 血染めの髑髏

5 新たな敵

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「放せよ」
「死ぬ気か? まだ死なせるわけにはいかないな」

 振りほどこうとするが、鍛えられている侍には敵わない。
「放っといてくれ」
 あっという間に肩に担がれて、砂浜に連れ戻された。

「まだガキじゃねえか」
 肩から景司を下ろして、まじまじと見てくる。
 海側に立っているのは、また入られないように警戒しているからだろう。

「殺しに来たんじゃないのかよ」
 突破できそうにないから、大人しくする。
「殺すつもりならそのまま放っておくさ。勝手に死んでくれるんなら、こんな楽なことないだろう。だが、まだ生かしておかなきゃならん。上からのお達しでな」
「なんで?」
「それは、上の方がそう決めたからだろうが。取引だろう。詳しいことは知らんぞ」
「で、おれを見張ってどうするの?」
「いちいちうるせえガキだな。生かしておかなきゃならん野郎はどんな奴なのか、見にきただけだ」
「それで、おっさん誰なんだよ」
「お前・・・」
 と、肩に手を置いて、顔を近づけてくる。
「本当に死のうとしてたのか? 悲愴感まるでないぞ」
「おっさんのせいで削がれただけだよ」
「じゃあ、なんで死のうとしてたんだ」
「・・・」
 帰りたかっただけだ、という言葉を飲み込んだ。
 帰ることは、死ぬことと同じだから。

「もっと楽しんだらどうだ」
 俯いた景司に、侍がそう言った。
「迷ったら、楽しい方を選べ。おれもそうしている」
「それで死んでも?」
「そうだ。後悔はしない。己が選んだのならな」
「・・・」
 相良たちと同じことを言うと思った。
 同じタイプなのか。

 いつの間にか、並んで海を眺めている。

「そんなの、身勝手だ。人を巻き込んではいけない」
「好きで巻き込まれるやつもいるぞ。・・・おれのように」
「・・・」
「頼まれもせんのに首を突っ込む。今度のこともそうだ。そんな奴のことまで気にするな。気にせず、己の生きたいように生きればいいんだ。背負いすぎだな。それこそ身が保たんぞ」
「おっさんはいったい・・・」
 今度は父上と同じことを言う。

「おれか。服部八郎と申す」
「服部? まさか・・・」
「まさかの伊賀組だ」
「半蔵の身内なのか?」
「まあな。言っておくが、おれは忍びではない。侍と同じだ」
「へえ・・・」
「怖がらんのか。死にたがりのくせに、度胸があるんだな。おかしなやつだ」
 毅八郎が笑った。
「それで、お前は何者だ?」
 急に真顔になって、景司を横目で見た。

「・・・」
 景司は、海を見る。
「上の方の人に聞いてないの?」
「教えてくれんのだ。おれは口が軽い方だからな」
「だろうね」
「ガキに言われたくないな」
 今度は景司も笑った。
「だから本人に聞くのが早いと思った」
「言うと思うの?」
「言わんか? やっぱり」
 苦笑している。

「それを聞いたら、あんた死ぬよ」
「おれを脅すのか」
 毅八郎の気が一変した。
 殺気が押し寄せてくる。
 刀に手をかけたかもしれない。
 景司は海を見たまま、動かない。
「言え」
 溺れて死ぬのも、斬られて死ぬのも同じだろう。
 目をつぶった。

「やめた。丸腰のガキは斬れねえ」


 
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