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4.思い出のアップルパイ
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だからと言って、本当に考えていた由梨ちゃんの話をするわけにはいかない。
何て返そうと悩んでいたところで、私は坂部くんのことを考えていたことにされてしまったようで、明美はにんまりと得意気に笑った。
何だか、してやったりな感じだ。
「あー、お腹すいた。早くお昼食べよー」
明美は私の机にお弁当を置くと、前の席の椅子に腰かける。
私も椅子に腰かけると、机の上にお弁当を広げる。
バイトのことがバレてから根掘り葉掘り聞かれているうちに、私が坂部くんのことを好きになりかけてるんじゃないかと明美には言われた。それからというもの、明美はいつもこんな感じだ。
そりゃあ人の恋バナを聞くのは楽しいけどさ、何でそんなに私と坂部くんのことをくっつけたがるかな。
明美がそんなだから、私だって変に坂部くんのこと意識しちゃうじゃない……。
実際、気になってると言われれば嘘じゃないから、困ったものだ。
さりげなく横目で坂部くんの席の方を見てみると、坂部くんは教室では食べてないみたいで、坂部くんの席はもぬけの殻だった。
「そういえば坂部、さっき先生に呼ばれて教室出てったよ」
「……え」
まさか私が坂部くんの席を見てたのに気づいてたの……?
明美の方を見ると、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべてる。
「ははっ。綾乃のこと怒らせたかもと思って心配したけど、本当に坂部のこと気にしてただなんて」
「こ、これは! 明美が坂部くんの話をするから、つい……」
「いいのいいの。綾乃も素直になりなよ。坂部くん、良いと思うよ、イケメンだし」
「だから、そうじゃなくて……。それに良いって何? この前まで明美は坂部くんのこと、顔は良くてもダメだって」
「んー、そんなときもあったね。でも最近、何か坂部変わったじゃん。クールのなのは相変わらずだけど、見えない壁のようなものが少し薄くなったような感じがするんだよね」
確かに明美の言う通り、坂部くんの雰囲気は少し変わった。
私が無理に引っ張り出さなくても、クラスメイトと話しているところを目にするようになった。
人間に混ざって暮らしながら、以前の坂部くんは、どこか人付き合いを避けているような感じだった。
ミーコさんが言うには、それは人間に対してだけじゃなかったらしい。
今でもめちゃくちゃフレンドリーになったというわけではないが、少なくとも来るもの全てを否応なしに突っぱねてるような感じはなくなった。
もし坂部くんの中の何かが変わったのなら私は嬉しい。
「ちょっと、何ニヤニヤてるの?」
「え、ニヤニヤなんてしてた?」
もしかして、嬉しいという気持ちが顔に出てしまっていたのだろうか。
思わずギョッと身体を硬直させてしまった瞬間、私のお腹の辺りを何かが転がり落ちる感覚が走る。
「ああーーっ!」
なんと見事に照り焼きソースで味付けされたミートボールが私の制服のベストの上を転がっていた。
不幸中の幸い、ベストの腰のゴムのところでミートボールは止まっていたために、制服のスカートが汚れることはなかったが、ベストにミートボールの足跡がものの見事についている。
「うわっ、派手にやったねー」
あわてふためく私のところに、明美はティッシュを持ってこちらに来てくれる。
「ありがとう……」
丁寧に明美は私のベストを拭いてくれるが、当然ながらティッシュで簡単に落ちてくれそうにない。
「……一度洗ってくるしかないね。ま、上着じゃなくてよかったじゃん。こういうのは早いうちに落としとく方がいいから、洗ってきなよ」
「う、うん……。じゃあ行ってくるね。続き、先に食べてていいよ」
明美の言う通り、これが制服の上着じゃなくてよかった。
ちょうどさっきの授業中、体育のあとの授業だったから暑くて上着を脱いでそのままになっていたんだ。
一番近い手洗い場に向かうと、私はベストを脱いで、汚れてしまった部分を軽くもみ洗いする。
ベストを脱いだことで上半身は長袖のブラウスのみになってしまったことと、冷たい水に触れたことで、一気にさっきまで感じていなかった寒さが戻ってきて、思わずぶるりと身を震わせる。
「……綾乃?」
「さ、坂部くん……!」
思わず聞こえた低い声に顔を上げると、先生に呼ばれて教室を出て行っていたという坂部くんの姿があった。
思わずドキンとしてしまったのは、さっき明美に坂部くんのことでからかわれたからなのだろう。
何て返そうと悩んでいたところで、私は坂部くんのことを考えていたことにされてしまったようで、明美はにんまりと得意気に笑った。
何だか、してやったりな感じだ。
「あー、お腹すいた。早くお昼食べよー」
明美は私の机にお弁当を置くと、前の席の椅子に腰かける。
私も椅子に腰かけると、机の上にお弁当を広げる。
バイトのことがバレてから根掘り葉掘り聞かれているうちに、私が坂部くんのことを好きになりかけてるんじゃないかと明美には言われた。それからというもの、明美はいつもこんな感じだ。
そりゃあ人の恋バナを聞くのは楽しいけどさ、何でそんなに私と坂部くんのことをくっつけたがるかな。
明美がそんなだから、私だって変に坂部くんのこと意識しちゃうじゃない……。
実際、気になってると言われれば嘘じゃないから、困ったものだ。
さりげなく横目で坂部くんの席の方を見てみると、坂部くんは教室では食べてないみたいで、坂部くんの席はもぬけの殻だった。
「そういえば坂部、さっき先生に呼ばれて教室出てったよ」
「……え」
まさか私が坂部くんの席を見てたのに気づいてたの……?
明美の方を見ると、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべてる。
「ははっ。綾乃のこと怒らせたかもと思って心配したけど、本当に坂部のこと気にしてただなんて」
「こ、これは! 明美が坂部くんの話をするから、つい……」
「いいのいいの。綾乃も素直になりなよ。坂部くん、良いと思うよ、イケメンだし」
「だから、そうじゃなくて……。それに良いって何? この前まで明美は坂部くんのこと、顔は良くてもダメだって」
「んー、そんなときもあったね。でも最近、何か坂部変わったじゃん。クールのなのは相変わらずだけど、見えない壁のようなものが少し薄くなったような感じがするんだよね」
確かに明美の言う通り、坂部くんの雰囲気は少し変わった。
私が無理に引っ張り出さなくても、クラスメイトと話しているところを目にするようになった。
人間に混ざって暮らしながら、以前の坂部くんは、どこか人付き合いを避けているような感じだった。
ミーコさんが言うには、それは人間に対してだけじゃなかったらしい。
今でもめちゃくちゃフレンドリーになったというわけではないが、少なくとも来るもの全てを否応なしに突っぱねてるような感じはなくなった。
もし坂部くんの中の何かが変わったのなら私は嬉しい。
「ちょっと、何ニヤニヤてるの?」
「え、ニヤニヤなんてしてた?」
もしかして、嬉しいという気持ちが顔に出てしまっていたのだろうか。
思わずギョッと身体を硬直させてしまった瞬間、私のお腹の辺りを何かが転がり落ちる感覚が走る。
「ああーーっ!」
なんと見事に照り焼きソースで味付けされたミートボールが私の制服のベストの上を転がっていた。
不幸中の幸い、ベストの腰のゴムのところでミートボールは止まっていたために、制服のスカートが汚れることはなかったが、ベストにミートボールの足跡がものの見事についている。
「うわっ、派手にやったねー」
あわてふためく私のところに、明美はティッシュを持ってこちらに来てくれる。
「ありがとう……」
丁寧に明美は私のベストを拭いてくれるが、当然ながらティッシュで簡単に落ちてくれそうにない。
「……一度洗ってくるしかないね。ま、上着じゃなくてよかったじゃん。こういうのは早いうちに落としとく方がいいから、洗ってきなよ」
「う、うん……。じゃあ行ってくるね。続き、先に食べてていいよ」
明美の言う通り、これが制服の上着じゃなくてよかった。
ちょうどさっきの授業中、体育のあとの授業だったから暑くて上着を脱いでそのままになっていたんだ。
一番近い手洗い場に向かうと、私はベストを脱いで、汚れてしまった部分を軽くもみ洗いする。
ベストを脱いだことで上半身は長袖のブラウスのみになってしまったことと、冷たい水に触れたことで、一気にさっきまで感じていなかった寒さが戻ってきて、思わずぶるりと身を震わせる。
「……綾乃?」
「さ、坂部くん……!」
思わず聞こえた低い声に顔を上げると、先生に呼ばれて教室を出て行っていたという坂部くんの姿があった。
思わずドキンとしてしまったのは、さっき明美に坂部くんのことでからかわれたからなのだろう。
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