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3.気持ち重なるミル・クレープ
3ー7
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それだけなら自分の気持ちの折り合いをつければ良いだけの話だけなのだけど、それができないのはきっと体育館の隅でこっそりと吹奏楽部の演奏を聴く浜崎さんを見てしまったからだ。
「なーに? もしかして、その話、続きがあるんじゃない?」
「え? いや……」
「もう、何勿体ぶってるの。この前助けてもらったんだから、あたしも綾乃の力になりたいのよ」
「ええっ!?」
やけにしつこく聞いてくると思ったが、そういうことだったのか。どうやら京子さんは、前回のお返しに私の問題を解決したいのだろう。
さすがにこれは私自身の問題じゃないし、これ以上話してしまうのは気が引けるところがある。
「少し他人に話すだけでも、楽になることもあるんだから! それにあたし、こう見えて口はかたいのよ」
だけど、得意気にする京子さんの熱意に負けたと言えば聞こえはいいが、私はそんな京子さんの厚意に甘えることにした。
「はい……。実は私、今日、明美……あ、さっき話した吹奏楽部の部長なんですけど、明美が部活に来なくなった一年生から退部届けを渡されているところに遭遇してしまって……」
「あら、そうだったの……」
京子さんはさっきの話の続きに、あからさまに残念そうな表情を浮かべる。
「でも私、どうしてもその一年生の子……浜崎さんっていうみたいなんですけど、浜崎さんが吹奏楽部をやめたいと思っているだなんて思えないんです」
そのとき、私の頭にゴンとかたい何かが軽く当てられた。
「痛っ」
「無駄話してないで、仕事しろ。ってか、この程度、痛くも痒くもないだろ」
「……なっ」
見ると、至ってすました表情で、私の後ろに坂部くんが立っている。
どうやら私はいつもお客さんにドリンクやケーキを運ぶ際に使う黒色の盆で頭を小突かれたようだ。
「す、すみません……」
何もお盆で叩くことはないのにと思うが、実際、バイト中に接客の枠を超えた雑談を京子さんとしていたわけで、言い訳はできない。
いくらこの開店直後の時間帯はいつもお客さんが少なく、今日もまだ京子さんしかいないとはいえ、店主の坂部くんからしたら私がここで立ち話をしているのは好ましくないだろう。
現に、ミーコさんは外の掃除をしているし、坂部くんときたら次から次へと仕事を用意してくるのだから。
一方で、京子さんは不服そうに坂部くんをにらんだ。
「ちょっとギン。悩める綾乃に何するのよ」
「そんなの悩んだって仕方ないだろ。外野がギャーギャー言ったところで、本人がやめると決めた以上、どうしようもないんだから。部活なんてやりたい人がやるもんなんだから、やめたいやつはやめればいい」
「坂部くん、酷い! ってか、坂部くんも聞いてたの?」
「聞きたくなくても聞こえたんだよ」
本当に坂部くんは私たちの話を聞いていたらしい。
坂部くんたちと関わっていく中で気づいたが、どうやらあやかしは人間よりも聴力が優れているようだ。
聞こえてしまったこと自体を責めるつもりはない。けれど、私たちの話を聞いた上でその切り捨て方はないだろう。
「……でも、浜崎さんは明美に退部届けを手渡したあと、吹奏楽部の演奏をこっそり体育館で見てたんだよ? しかも涙まで流して」
「泣くほど吹奏楽部が嫌いになったんじゃないのか?」
「そんなに吹奏楽部が嫌いになったなら、そもそも演奏なんて聴きに行かないでしょ、普通。吹奏楽部の演奏を聴きに行くかどうかは、うちの文化祭では必須じゃないんだし」
「そんなの俺に言われても知るかよ」
坂部くんはうるさそうに私に近い方の耳の穴を塞ぐように、彼の細長い小指を突っ込んだ。
本当に失礼しちゃう。
「客だ。ちゃんとやれよ」
坂部くんがドアの方を見てそう呟いたあと、カランコロンとカフェのドアのドアベルが鳴る音が聞こえる。
坂部くんは「いらっしゃいませ」と一言発して、厨房の方へ戻っていった。
「一名様、ご来店です」
ドアの方を見ると、さっきまで外で窓を拭いていたミーコさんが、一人の女子学生を連れて入ってくる。
なんと馴染みのある制服は、うちの学校のものだった。
「なーに? もしかして、その話、続きがあるんじゃない?」
「え? いや……」
「もう、何勿体ぶってるの。この前助けてもらったんだから、あたしも綾乃の力になりたいのよ」
「ええっ!?」
やけにしつこく聞いてくると思ったが、そういうことだったのか。どうやら京子さんは、前回のお返しに私の問題を解決したいのだろう。
さすがにこれは私自身の問題じゃないし、これ以上話してしまうのは気が引けるところがある。
「少し他人に話すだけでも、楽になることもあるんだから! それにあたし、こう見えて口はかたいのよ」
だけど、得意気にする京子さんの熱意に負けたと言えば聞こえはいいが、私はそんな京子さんの厚意に甘えることにした。
「はい……。実は私、今日、明美……あ、さっき話した吹奏楽部の部長なんですけど、明美が部活に来なくなった一年生から退部届けを渡されているところに遭遇してしまって……」
「あら、そうだったの……」
京子さんはさっきの話の続きに、あからさまに残念そうな表情を浮かべる。
「でも私、どうしてもその一年生の子……浜崎さんっていうみたいなんですけど、浜崎さんが吹奏楽部をやめたいと思っているだなんて思えないんです」
そのとき、私の頭にゴンとかたい何かが軽く当てられた。
「痛っ」
「無駄話してないで、仕事しろ。ってか、この程度、痛くも痒くもないだろ」
「……なっ」
見ると、至ってすました表情で、私の後ろに坂部くんが立っている。
どうやら私はいつもお客さんにドリンクやケーキを運ぶ際に使う黒色の盆で頭を小突かれたようだ。
「す、すみません……」
何もお盆で叩くことはないのにと思うが、実際、バイト中に接客の枠を超えた雑談を京子さんとしていたわけで、言い訳はできない。
いくらこの開店直後の時間帯はいつもお客さんが少なく、今日もまだ京子さんしかいないとはいえ、店主の坂部くんからしたら私がここで立ち話をしているのは好ましくないだろう。
現に、ミーコさんは外の掃除をしているし、坂部くんときたら次から次へと仕事を用意してくるのだから。
一方で、京子さんは不服そうに坂部くんをにらんだ。
「ちょっとギン。悩める綾乃に何するのよ」
「そんなの悩んだって仕方ないだろ。外野がギャーギャー言ったところで、本人がやめると決めた以上、どうしようもないんだから。部活なんてやりたい人がやるもんなんだから、やめたいやつはやめればいい」
「坂部くん、酷い! ってか、坂部くんも聞いてたの?」
「聞きたくなくても聞こえたんだよ」
本当に坂部くんは私たちの話を聞いていたらしい。
坂部くんたちと関わっていく中で気づいたが、どうやらあやかしは人間よりも聴力が優れているようだ。
聞こえてしまったこと自体を責めるつもりはない。けれど、私たちの話を聞いた上でその切り捨て方はないだろう。
「……でも、浜崎さんは明美に退部届けを手渡したあと、吹奏楽部の演奏をこっそり体育館で見てたんだよ? しかも涙まで流して」
「泣くほど吹奏楽部が嫌いになったんじゃないのか?」
「そんなに吹奏楽部が嫌いになったなら、そもそも演奏なんて聴きに行かないでしょ、普通。吹奏楽部の演奏を聴きに行くかどうかは、うちの文化祭では必須じゃないんだし」
「そんなの俺に言われても知るかよ」
坂部くんはうるさそうに私に近い方の耳の穴を塞ぐように、彼の細長い小指を突っ込んだ。
本当に失礼しちゃう。
「客だ。ちゃんとやれよ」
坂部くんがドアの方を見てそう呟いたあと、カランコロンとカフェのドアのドアベルが鳴る音が聞こえる。
坂部くんは「いらっしゃいませ」と一言発して、厨房の方へ戻っていった。
「一名様、ご来店です」
ドアの方を見ると、さっきまで外で窓を拭いていたミーコさんが、一人の女子学生を連れて入ってくる。
なんと馴染みのある制服は、うちの学校のものだった。
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