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3.気持ち重なるミル・クレープ
3ー8
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「いらっしゃいま……えっ?」
さらに、うつむき加減に歩く女子学生の顔が見えた瞬間、私は思わず思考がストップした。
というのも、今話題に出していた浜崎さんが来店したのだから。
浜崎さんとは体育館裏から走り去るときに遭遇しているものの、あのときの彼女は私の顔を見ていなかったのか、私と顔を合わせたことを気にするような表情はなく、むしろあからさまに不自然な私の態度を疑問に思っているような表情を浮かべている。
「こちらにどうぞおかけください」
が、それも束の間。すぐにそう声をかけたミーコさんに促された席へ浜崎さんは腰を下ろした。
「何よ、綾乃の知り合い?」
「え? まぁ……」
さすがに浜崎さんと同じ空間で、実はさっき話してた一年生の子が彼女なんですだなんて、小声でも言えるわけがない。
でも、なんで浜崎さんがここに……。
まさかとは思うが、浜崎さんも実はあやかしだとか?
人間に見えた京子さんがあやかしだったことから、最近では来るお客さんはみんなあやかしかもしれないと思って対応している。
あやかしも人間の姿で現れる中、私には見た目で区別することができないのだから。
「……人間のお客さんね。きっとここが必要で来た子だろうから、しっかり癒してあげないとね」
京子さんがそう言うということは、浜崎さんは人間で間違いないのだろう。
「……えっ?」
「ここはそういうところだから。綾乃だって、そうでしょ?」
少し疑問に思って京子さんを見るけれど、彼女はそう言って微笑むだけだ。
浜崎さんだけでなくて、私もって……。
確かに、ミーコさんに初めて会ったときも同じようなことを言われた。
全くもって京子さんの言わんとしていることはわからないけれど、お客さんが入ったからいつまでもここにいるわけにもいかず、私も厨房に戻ったのだった。
*
一人で寄り道カフェを訪れた浜崎さんは、本日のケーキセットを食べて、十分もしないうちに帰ってしまった。
純粋に来て、注文して、食べて、会計して帰る。口を開いたのも必要最低限。一人で来てるなら普通とはいえ、やっぱり終始浜崎さんを取り巻いていた空気は重かったように感じる。
「……浜崎さんは、どうしてここに来たんだろう?」
浜崎さんは、何を思って一人でここにスイーツを食べに来たのだろうか。
今日あった明美とのゴタゴタでできたストレスや傷を癒すため、また新しい明日に向かって頑張る元気をつけるため、それもあるかもしれない。
もしかしたら浜崎さんは単純にスイーツが好きだから来たのかもしれないし、考えたところで彼女の本当の来店理由はわからない。
そんなことを考えてしまうのは、きっと京子さんが浜崎さんが“ここが必要”と言ったのが気にかかっているからだろう。
「……そんなこといちいち考えたって、本人にしか分かんないだろ。手を動かせ、帰りが遅くなられて何かあったら、こっちが困るんだから」
閉店後に食器を片付けていた私の呟きに、少し遅れて坂部くんが返してきた。
坂部くんは、明日のケーキに使うフルーツソースを鍋からボールに移して、ラップをかけたところのようだ。
日中は学校に通っていることから、坂部くんは毎日のケーキをこうして閉店後や早朝に仕込んでいるらしい。
同じ学生として、軽く尊敬する。
「まぁ、そうなんだけどさ……」
坂部くんの努力は素直にすごいと思うが、やっぱりこの冷たい返答に関してはいただけない。
坂部くんには、ココロってものがないのだろうか。
ミーコさんや京子さんを見る限り、あやかしだからココロがないというわけではないことは証明されている。
これはもう、坂部くん自身の性格としか言い様がないように思う。
坂部くんは作ったフルーツソースの下に氷を敷くと、今度は粉を振るい始めた。
私は最後の食器をしまって、布巾と一緒に厨房を出る。
「あーもう、何なのよ」
営業中は開いている厨房のドアを閉めて、フロアの方へ出たと同時、思わず小さく息を吐く。
すると、少し離れたところからクスクスと笑う声が耳に届く。
声の聞こえた入り口の方を見ると、ミーコさんが入り口そばのレジの勘定をしているようだった。
「ああ、すみません。またギンさんに何か言われたのですか?」
閉店後ということもあり、可愛らしい白猫の姿で札束を数えている姿は、まるでぬいぐるみのようだ。
さらに、うつむき加減に歩く女子学生の顔が見えた瞬間、私は思わず思考がストップした。
というのも、今話題に出していた浜崎さんが来店したのだから。
浜崎さんとは体育館裏から走り去るときに遭遇しているものの、あのときの彼女は私の顔を見ていなかったのか、私と顔を合わせたことを気にするような表情はなく、むしろあからさまに不自然な私の態度を疑問に思っているような表情を浮かべている。
「こちらにどうぞおかけください」
が、それも束の間。すぐにそう声をかけたミーコさんに促された席へ浜崎さんは腰を下ろした。
「何よ、綾乃の知り合い?」
「え? まぁ……」
さすがに浜崎さんと同じ空間で、実はさっき話してた一年生の子が彼女なんですだなんて、小声でも言えるわけがない。
でも、なんで浜崎さんがここに……。
まさかとは思うが、浜崎さんも実はあやかしだとか?
人間に見えた京子さんがあやかしだったことから、最近では来るお客さんはみんなあやかしかもしれないと思って対応している。
あやかしも人間の姿で現れる中、私には見た目で区別することができないのだから。
「……人間のお客さんね。きっとここが必要で来た子だろうから、しっかり癒してあげないとね」
京子さんがそう言うということは、浜崎さんは人間で間違いないのだろう。
「……えっ?」
「ここはそういうところだから。綾乃だって、そうでしょ?」
少し疑問に思って京子さんを見るけれど、彼女はそう言って微笑むだけだ。
浜崎さんだけでなくて、私もって……。
確かに、ミーコさんに初めて会ったときも同じようなことを言われた。
全くもって京子さんの言わんとしていることはわからないけれど、お客さんが入ったからいつまでもここにいるわけにもいかず、私も厨房に戻ったのだった。
*
一人で寄り道カフェを訪れた浜崎さんは、本日のケーキセットを食べて、十分もしないうちに帰ってしまった。
純粋に来て、注文して、食べて、会計して帰る。口を開いたのも必要最低限。一人で来てるなら普通とはいえ、やっぱり終始浜崎さんを取り巻いていた空気は重かったように感じる。
「……浜崎さんは、どうしてここに来たんだろう?」
浜崎さんは、何を思って一人でここにスイーツを食べに来たのだろうか。
今日あった明美とのゴタゴタでできたストレスや傷を癒すため、また新しい明日に向かって頑張る元気をつけるため、それもあるかもしれない。
もしかしたら浜崎さんは単純にスイーツが好きだから来たのかもしれないし、考えたところで彼女の本当の来店理由はわからない。
そんなことを考えてしまうのは、きっと京子さんが浜崎さんが“ここが必要”と言ったのが気にかかっているからだろう。
「……そんなこといちいち考えたって、本人にしか分かんないだろ。手を動かせ、帰りが遅くなられて何かあったら、こっちが困るんだから」
閉店後に食器を片付けていた私の呟きに、少し遅れて坂部くんが返してきた。
坂部くんは、明日のケーキに使うフルーツソースを鍋からボールに移して、ラップをかけたところのようだ。
日中は学校に通っていることから、坂部くんは毎日のケーキをこうして閉店後や早朝に仕込んでいるらしい。
同じ学生として、軽く尊敬する。
「まぁ、そうなんだけどさ……」
坂部くんの努力は素直にすごいと思うが、やっぱりこの冷たい返答に関してはいただけない。
坂部くんには、ココロってものがないのだろうか。
ミーコさんや京子さんを見る限り、あやかしだからココロがないというわけではないことは証明されている。
これはもう、坂部くん自身の性格としか言い様がないように思う。
坂部くんは作ったフルーツソースの下に氷を敷くと、今度は粉を振るい始めた。
私は最後の食器をしまって、布巾と一緒に厨房を出る。
「あーもう、何なのよ」
営業中は開いている厨房のドアを閉めて、フロアの方へ出たと同時、思わず小さく息を吐く。
すると、少し離れたところからクスクスと笑う声が耳に届く。
声の聞こえた入り口の方を見ると、ミーコさんが入り口そばのレジの勘定をしているようだった。
「ああ、すみません。またギンさんに何か言われたのですか?」
閉店後ということもあり、可愛らしい白猫の姿で札束を数えている姿は、まるでぬいぐるみのようだ。
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