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2.恋するレモンチーズケーキ
2ー13
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「それで私たちのようなあやかしの存在を知っていたのね。ギンが雇った子だから何かあるんだとは思っていたけれど」
少し前の日のことを思い出しているかのように京子さんは笑うと、目の前のケーキにフォークを入れる。
私も同じようにフォークで一口大のケーキを取った。
一見チーズケーキだと思ったそのケーキは、口の中に入れるとホロリと崩れて、爽やかなレモンの風味が広がる。
レモンの酸味と合わさったケーキは甘過ぎず、さっぱりとした香りから気持ちも晴れやかにしてくれるようだった。
「うん、ちょうどこういうのが食べたいと思っていたのよ」
それこそ、さっき京子さんが食べたいと言っていたケーキの風味に合致していて、そんな彼女の表情も全てをふっきったかのように爽やかなものへと変化していた。
「そういや無理やり付き合わせちゃったけど、綾乃、何か用事があったんじゃないの?」
ケーキを食べ終え、最後に各々ドリンクを飲みながら京子さんが口を開く。
その問いかけに、私は今の今まで当たり前のように片手に持っていた赤いエコバックの存在理由を思い出した。
「あ、そうだった……!」
母親に頼まれた買い物をすっかり忘れていたよ……っ!
慌てて店内にかかる時計を見上げると、家を出た時点で昼過ぎだった時刻は、すでに夕方と呼ぶのに相応しい。
さらには、店内から見える外の景色も、オレンジに染まっていた。
「どうしよう……」
さすがにもう母親も祖母の家から戻っていてもおかしくない。
今から急いで買い物して帰らなきゃ。
「あら、もしかして悪いことしちゃったかしら」
「いえ、そんなことないですよ」
「遠慮しないで。あたしたちの仲じゃない。出来ることは手伝うわ」
そう言って私に向かってウインクをしてくる京子さんとの仲は、本当にこの数時間で縮まったのだと実感して胸が熱くなった。
*
「あのあと、大丈夫だった?」
週明けの月曜日。学校の都合で少し遅れてバイトに入った私を待っていたのは、京子さんだった。
「はい。どこで遊んで帰ってきたのとは言われましたが、京子さんのおかげで、母に雷を落とされずに済みました」
あのあと、京子さんは私の買い物に付き合ってくれた。
そのとき、母の買い物メモから夜ご飯を推測した京子さんは、なんと母のメモの不備を見つけて追加で買い物をして帰ったのだ。
結果、母も帰りの遅い私にヤキモキしつつも、「ありがとう」とその場を収めることができた。本当に感謝しかない。
「それなら良かったわ。綾乃にね、ひとつ報告があるの」
「何でしょう?」
「あたし、好きな人ができたの」
「……へ?」
「今度はとっても良い人よ。綾乃と一緒に行ったスーパーの店長さん。灯台もと暗しとはよく言うものね。こんな近くにあんな素敵な人がいるだなんて、どうして今まで気がつかなかったんだろう。これも、綾乃のおかげね」
「はぁ……」
もう新しい恋を見つけてくるだなんて……。
まだ京子さんがこの前の男性と別れたという日から、ギリギリ一週間経ってないくらいだ。
「相変わらず、京子さんは懲りないですね」
その声に背後を振り返ると、ちょうど本日のケーキセットを運んできた坂部くんの姿があった。
「恋多き女って言ってちょうだい。綾乃も好きな人ができたときには相談のるわよ」
「……ありがとう、ございます」
好きな人、かぁ……。
そのとき、ちょうど坂部くんが私の背後で小さく息を吐く音が聞こえて、思わずドキンと心臓が飛び跳ねた。
「まぁ恋愛はいいけど、迷惑はかけないでくださいね」
「そんなこと言って~、何だかんだ言って頼られるの好きなくせに」
いたずらっ子な笑みを浮かべて言う京子さんの声が聞こえているのかいないのか、坂部くんはそのまま厨房の方に戻ってしまった。
「……もしかして、ギンのこと気になってる?」
思わずそんな坂部くんのことを目で追っていると、背後から聞こえた京子さんの声に肩を震わせる。
「そ、そんなことは……っ」
「やーん、綾乃、真っ赤。可愛いー!」
「もう、からかわないでくださいよ! ミーコさんも、笑わないでください!」
すぐ近くのテーブルを拭きながらこちらの話に耳を傾けていたのだろうミーコさんは、クスクスと笑っている。
何はともあれ、今日の京子さんを見る限り、彼女が前を向いて歩いていけていることがわかって、内心ホッとしたのだった。
少し前の日のことを思い出しているかのように京子さんは笑うと、目の前のケーキにフォークを入れる。
私も同じようにフォークで一口大のケーキを取った。
一見チーズケーキだと思ったそのケーキは、口の中に入れるとホロリと崩れて、爽やかなレモンの風味が広がる。
レモンの酸味と合わさったケーキは甘過ぎず、さっぱりとした香りから気持ちも晴れやかにしてくれるようだった。
「うん、ちょうどこういうのが食べたいと思っていたのよ」
それこそ、さっき京子さんが食べたいと言っていたケーキの風味に合致していて、そんな彼女の表情も全てをふっきったかのように爽やかなものへと変化していた。
「そういや無理やり付き合わせちゃったけど、綾乃、何か用事があったんじゃないの?」
ケーキを食べ終え、最後に各々ドリンクを飲みながら京子さんが口を開く。
その問いかけに、私は今の今まで当たり前のように片手に持っていた赤いエコバックの存在理由を思い出した。
「あ、そうだった……!」
母親に頼まれた買い物をすっかり忘れていたよ……っ!
慌てて店内にかかる時計を見上げると、家を出た時点で昼過ぎだった時刻は、すでに夕方と呼ぶのに相応しい。
さらには、店内から見える外の景色も、オレンジに染まっていた。
「どうしよう……」
さすがにもう母親も祖母の家から戻っていてもおかしくない。
今から急いで買い物して帰らなきゃ。
「あら、もしかして悪いことしちゃったかしら」
「いえ、そんなことないですよ」
「遠慮しないで。あたしたちの仲じゃない。出来ることは手伝うわ」
そう言って私に向かってウインクをしてくる京子さんとの仲は、本当にこの数時間で縮まったのだと実感して胸が熱くなった。
*
「あのあと、大丈夫だった?」
週明けの月曜日。学校の都合で少し遅れてバイトに入った私を待っていたのは、京子さんだった。
「はい。どこで遊んで帰ってきたのとは言われましたが、京子さんのおかげで、母に雷を落とされずに済みました」
あのあと、京子さんは私の買い物に付き合ってくれた。
そのとき、母の買い物メモから夜ご飯を推測した京子さんは、なんと母のメモの不備を見つけて追加で買い物をして帰ったのだ。
結果、母も帰りの遅い私にヤキモキしつつも、「ありがとう」とその場を収めることができた。本当に感謝しかない。
「それなら良かったわ。綾乃にね、ひとつ報告があるの」
「何でしょう?」
「あたし、好きな人ができたの」
「……へ?」
「今度はとっても良い人よ。綾乃と一緒に行ったスーパーの店長さん。灯台もと暗しとはよく言うものね。こんな近くにあんな素敵な人がいるだなんて、どうして今まで気がつかなかったんだろう。これも、綾乃のおかげね」
「はぁ……」
もう新しい恋を見つけてくるだなんて……。
まだ京子さんがこの前の男性と別れたという日から、ギリギリ一週間経ってないくらいだ。
「相変わらず、京子さんは懲りないですね」
その声に背後を振り返ると、ちょうど本日のケーキセットを運んできた坂部くんの姿があった。
「恋多き女って言ってちょうだい。綾乃も好きな人ができたときには相談のるわよ」
「……ありがとう、ございます」
好きな人、かぁ……。
そのとき、ちょうど坂部くんが私の背後で小さく息を吐く音が聞こえて、思わずドキンと心臓が飛び跳ねた。
「まぁ恋愛はいいけど、迷惑はかけないでくださいね」
「そんなこと言って~、何だかんだ言って頼られるの好きなくせに」
いたずらっ子な笑みを浮かべて言う京子さんの声が聞こえているのかいないのか、坂部くんはそのまま厨房の方に戻ってしまった。
「……もしかして、ギンのこと気になってる?」
思わずそんな坂部くんのことを目で追っていると、背後から聞こえた京子さんの声に肩を震わせる。
「そ、そんなことは……っ」
「やーん、綾乃、真っ赤。可愛いー!」
「もう、からかわないでくださいよ! ミーコさんも、笑わないでください!」
すぐ近くのテーブルを拭きながらこちらの話に耳を傾けていたのだろうミーコさんは、クスクスと笑っている。
何はともあれ、今日の京子さんを見る限り、彼女が前を向いて歩いていけていることがわかって、内心ホッとしたのだった。
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