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1.はじまりは、フルーツタルト
1ー6
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「そりゃあ、いきなり人間じゃないって言われても……。それに、坂部くんがここの店主っていうのも何か……」
思わずすでにぬるくなった紅茶を一口含む。
そういえば、この紅茶には摩訶不思議なことも受け入れやすくする効果があるんだっけ。
それさえ信じられないような気になるが、現にそのおかげで私はこれまでの信じられない光景を見た直後でも平然を保っていられるのだろう。
「そうでしょうね、いろいろ驚かせてしまいすみません。ギンさんは、現在人間の姿では高校生で通用していますからね。そういう意味では、あやかしの存在を知らない人間の方には、私が建前上の店主でギンさんはバイト従業員として紹介いたしております」
高校生でカフェの店主をしているというのは私たちの感性では違和感があるし、目の前の大人の女性に見えるミーコさんが店主と言われる方がしっくりくる。
けれど、ミーコさんの言い方だと、やっぱりここの店主は事実上坂部くんなのだろう。
けれど、坂部くんと甘いものというのも何だかミスマッチだし、いろんな意味で違和感があると思ってしまう。
そんな風に思考を巡らせる私に、ミーコさんが口を開く。
「ギンさんは違うって言いましたけど、私には、やっぱりあなたはここに来るべくして来た娘のように見えます」
「……え?」
「だってあなたは、ここに来る前から甘いものを求めていたのでしょう?」
本来の姿に近い大きな猫目がこちらを見る。
何となく、ミーコさんには私のことを見透かされているような気持ちになった。
「……はい。本当は気分転換に何か甘いものでも食べて帰ろうと、商店街に寄ったんです。私、甘いものが好きだから」
「じゃあ、ここに来られたのはちょうどよかったんですね」
ミーコさんは、私の食べかけのフルーツタルトを見て、にこりと笑った。
「はい。結果的には……」
いろいろ衝撃的なことを聞かされたし、それも含めて想定外のことが起こったけれど、とりあえず甘いものを食べて今は少しホッとしてるから、本来の目的から大きくかけ離れてはいない。
「少しは気分転換になりましたか? 私たちの正体を知ったことで驚かせて悩ませてしまったと思いますが、あなたの浮かない顔はそれだけが原因じゃないですよね?」
「え? ああ、そうですね……」
ミーコさんもあやかしだから、坂部くんの淹れた紅茶のように何かしらのあやかしの力が働いているのだろうか。
「……どうして自分には何もないのだろうって思うんです」
不思議なくらいに私は、自分のことについて話していた。
「友達は部活も頑張っていて、将来の夢や適正もある。坂部くんだって、あやかしだということは今まで知らなかったけど、建前上ミーコさんが店主だとしても、実際にはカフェの店主の仕事をしてケーキも作って……」
「ギンさんに関しては、人間の尺度ではかるにはあまりいい対象ではないですね。何たって生きてる年数が違いますから」
「生きてる年数?」
「ええ、ギンさんは現在一二五歳でございます。人間でいうとちょうど成人したくらいにはなりますが、まぁあまり参考にならないでしょう」
「……そう、ですか」
もはや何を言われてもぎゃーだのえーだの騒がなくなったのは、紅茶の影響だけじゃない気がする。
ミーコさんの話によれば、実際のあやかしの年齢では坂部くんよりミーコさんの方が歳下らしい。
何だか、こんがらがってきた。
「つまり綾乃さんはご自身に何もない、と。でもお友達の部活とやらがうらやましいのであれば、綾乃さんも部活とやらをするなり、ギンさんのように働くことを望まれているのであれば働けばいいのではないでしょうか? 学生とはいえ、綾乃さんの年齢ではバイトも可能ではないですか?」
「そうですけど、私には本当に何もなくて……。部活に入るほど得意なものや好きなものがあるわけでもないし、バイトだって同じ学校の生徒にもしてる人はいるけど、私はドジばかりでできそうにないし……」
「そうでしょうか。少なくとも私にはそうは見えません」
ミーコさんはそう口にすると、私を見つめたまま何かを考えているようだった。
そして突然パチンと両手を合わせたかと思えば、名案と言わんばかりに口を開いた。
「では、こうしましょう。綾乃さんはここでバイトをすればいいのです」
「えぇえっ!?」
私が、ここでバイト!?
「だって甘いものがお好きなんでしょう?」
「そうですけど……っ。さすがに無理ですって!」
「無理かどうかはやってみないとわかりません。ちなみにですが、人間のお客様もたくさんいらっしゃいますのでその点は心配する必要はございません」
「いや、それも気にはなってたけど……っ!」
ミーコさんは、これまでの私の話を聞いていたのだろうか?
「とにかく私には無理です。ケーキだって作ったことないし、きっとドジばかりしてこの店を潰してしまいます……!」
思わずすでにぬるくなった紅茶を一口含む。
そういえば、この紅茶には摩訶不思議なことも受け入れやすくする効果があるんだっけ。
それさえ信じられないような気になるが、現にそのおかげで私はこれまでの信じられない光景を見た直後でも平然を保っていられるのだろう。
「そうでしょうね、いろいろ驚かせてしまいすみません。ギンさんは、現在人間の姿では高校生で通用していますからね。そういう意味では、あやかしの存在を知らない人間の方には、私が建前上の店主でギンさんはバイト従業員として紹介いたしております」
高校生でカフェの店主をしているというのは私たちの感性では違和感があるし、目の前の大人の女性に見えるミーコさんが店主と言われる方がしっくりくる。
けれど、ミーコさんの言い方だと、やっぱりここの店主は事実上坂部くんなのだろう。
けれど、坂部くんと甘いものというのも何だかミスマッチだし、いろんな意味で違和感があると思ってしまう。
そんな風に思考を巡らせる私に、ミーコさんが口を開く。
「ギンさんは違うって言いましたけど、私には、やっぱりあなたはここに来るべくして来た娘のように見えます」
「……え?」
「だってあなたは、ここに来る前から甘いものを求めていたのでしょう?」
本来の姿に近い大きな猫目がこちらを見る。
何となく、ミーコさんには私のことを見透かされているような気持ちになった。
「……はい。本当は気分転換に何か甘いものでも食べて帰ろうと、商店街に寄ったんです。私、甘いものが好きだから」
「じゃあ、ここに来られたのはちょうどよかったんですね」
ミーコさんは、私の食べかけのフルーツタルトを見て、にこりと笑った。
「はい。結果的には……」
いろいろ衝撃的なことを聞かされたし、それも含めて想定外のことが起こったけれど、とりあえず甘いものを食べて今は少しホッとしてるから、本来の目的から大きくかけ離れてはいない。
「少しは気分転換になりましたか? 私たちの正体を知ったことで驚かせて悩ませてしまったと思いますが、あなたの浮かない顔はそれだけが原因じゃないですよね?」
「え? ああ、そうですね……」
ミーコさんもあやかしだから、坂部くんの淹れた紅茶のように何かしらのあやかしの力が働いているのだろうか。
「……どうして自分には何もないのだろうって思うんです」
不思議なくらいに私は、自分のことについて話していた。
「友達は部活も頑張っていて、将来の夢や適正もある。坂部くんだって、あやかしだということは今まで知らなかったけど、建前上ミーコさんが店主だとしても、実際にはカフェの店主の仕事をしてケーキも作って……」
「ギンさんに関しては、人間の尺度ではかるにはあまりいい対象ではないですね。何たって生きてる年数が違いますから」
「生きてる年数?」
「ええ、ギンさんは現在一二五歳でございます。人間でいうとちょうど成人したくらいにはなりますが、まぁあまり参考にならないでしょう」
「……そう、ですか」
もはや何を言われてもぎゃーだのえーだの騒がなくなったのは、紅茶の影響だけじゃない気がする。
ミーコさんの話によれば、実際のあやかしの年齢では坂部くんよりミーコさんの方が歳下らしい。
何だか、こんがらがってきた。
「つまり綾乃さんはご自身に何もない、と。でもお友達の部活とやらがうらやましいのであれば、綾乃さんも部活とやらをするなり、ギンさんのように働くことを望まれているのであれば働けばいいのではないでしょうか? 学生とはいえ、綾乃さんの年齢ではバイトも可能ではないですか?」
「そうですけど、私には本当に何もなくて……。部活に入るほど得意なものや好きなものがあるわけでもないし、バイトだって同じ学校の生徒にもしてる人はいるけど、私はドジばかりでできそうにないし……」
「そうでしょうか。少なくとも私にはそうは見えません」
ミーコさんはそう口にすると、私を見つめたまま何かを考えているようだった。
そして突然パチンと両手を合わせたかと思えば、名案と言わんばかりに口を開いた。
「では、こうしましょう。綾乃さんはここでバイトをすればいいのです」
「えぇえっ!?」
私が、ここでバイト!?
「だって甘いものがお好きなんでしょう?」
「そうですけど……っ。さすがに無理ですって!」
「無理かどうかはやってみないとわかりません。ちなみにですが、人間のお客様もたくさんいらっしゃいますのでその点は心配する必要はございません」
「いや、それも気にはなってたけど……っ!」
ミーコさんは、これまでの私の話を聞いていたのだろうか?
「とにかく私には無理です。ケーキだって作ったことないし、きっとドジばかりしてこの店を潰してしまいます……!」
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