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1.はじまりは、フルーツタルト
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「う、動いた……っ!?」
坂部くんは小さく息を吐くと、片手を空高くあげた。
直後、煙に包まれた坂部くんは、私の知っている坂部くんの姿に戻った。
「元の姿だと立石が死ぬほどうるさいから。この姿なら文句ないだろ?」
何これ。何が起こっているの!?
「ぎゃあああああああっ!」
この状況、文句あるとかないとか以前に、叫ばずにはいられなかった。
窓越しだったし、スモークのせいで見えづらかったし、最初はどこかで私の気のせいだったのかもしれないと思い込もうとしていたところがあった。
でも今、目の前ではっきり見てしまったこの現象のことを何と表現すればいいのだろうか。
「ちょっ、おい、黙れ。ミーコ、こいつ、中に連れて入れ」
「にゃおん」
私の耳元で猫の鳴き声が小さく聞こえたような気がした直後、気づいたときには私は寄り道カフェ店内の椅子に座っていた。
一体、何がどうなっているのだろう?
さっき坂部くんがミーコと呼んでいた女性店員に促されるようにして目の前に出された温かい紅茶を飲むと、不思議なくらいに気持ちが落ち着いた。
あんなに取り乱していたのに、紅茶ひとつでこれだけ冷静になれた自分が不思議なくらいだ。
改めてカフェ店内を見回す。
木目調の床と壁からウッドハウスのような印象を感じさせられる店内は、木製のテーブル席が四つ置かれている。それぞれにお揃いの椅子が四脚ずつ置かれていて、店の中全体は統一感があった。
奥に続く通路の先に厨房があるようで、食器の音が微かに聞こえている。
そして通路の手前の窓側の席のところが、坂部くんが黒髪ロン毛になって、三角耳がついて、さらには腰から黒のモフモフが生えるのを見た場所だ。
「さっきは驚かせてすみません。少し、落ち着かれましたか?」
「え、は、はい……っ」
不意に聞こえた高い声に思わず背筋を伸ばすと、何かを乗せたお盆を持ったミーコさんは、ふふっと笑ってこちらに向かって歩いてくる。
ここに来たときに見た不思議な出来事を思い返していたから、気づかなかった。
「わぁ……っ!」
ミーコさんに白い皿に乗った一切れのフルーツタルトを出されて、思わず視線を奪われる。
そこにはメロンや洋梨、みかんなどの果物がふんだんに載っている。
それらのフルーツを見て思い起こされるのは、ここに来る前に見た坂部くんが袋一杯にフルーツを入れた買い物袋を下げていた光景だ。
これは坂部くんが買って帰ったフルーツで作っているのだろうか?
「本日の日替わりケーキのフルーツタルトになります。どうぞ召し上がってください」
「……えっ? でも……」
紅茶にしろ、ケーキにしろ、私は頼んでないというのに、いいのだろうか?
紅茶に関しては促されるままに飲んでしまったから、今更どうしようもない。けれどケーキまで食べて、思っていた以上の高額な金額を請求されては困る。そう思って私は机の端においてあったメニューを横目で見る。
一方で、ミーコさんはそんな私を見てなのだろう。クスクスとおかしそうに笑った。
「先程驚かせてしまったお詫びです」
「ええっ!? そんな……っ」
「いいんです。店主が腕を奮って作った絶品のフルーツタルトですよ」
……いいのかな。
店主というのが誰なのかも気になるし、タルトの上に載ったフルーツのことも気になる。
目の前のタルトは、フルーツの上にかけられたナパージュによりキラキラと光を反射して見える。
どうぞと勧められて、フルーツタルトがぜひ食べてと私に微笑みかけているように感じた。
もう一度、机の端に立て掛けてあるメニュー表を今度はしっかりと見やる。
すると、基本メニューはひとつ、日替わりケーキとドリンクのセット五〇〇円とあった。
恐らく私が出してもらったのも紅茶とケーキだから、この日替わりケーキとドリンクのセットなのだろう。
坂部くんは小さく息を吐くと、片手を空高くあげた。
直後、煙に包まれた坂部くんは、私の知っている坂部くんの姿に戻った。
「元の姿だと立石が死ぬほどうるさいから。この姿なら文句ないだろ?」
何これ。何が起こっているの!?
「ぎゃあああああああっ!」
この状況、文句あるとかないとか以前に、叫ばずにはいられなかった。
窓越しだったし、スモークのせいで見えづらかったし、最初はどこかで私の気のせいだったのかもしれないと思い込もうとしていたところがあった。
でも今、目の前ではっきり見てしまったこの現象のことを何と表現すればいいのだろうか。
「ちょっ、おい、黙れ。ミーコ、こいつ、中に連れて入れ」
「にゃおん」
私の耳元で猫の鳴き声が小さく聞こえたような気がした直後、気づいたときには私は寄り道カフェ店内の椅子に座っていた。
一体、何がどうなっているのだろう?
さっき坂部くんがミーコと呼んでいた女性店員に促されるようにして目の前に出された温かい紅茶を飲むと、不思議なくらいに気持ちが落ち着いた。
あんなに取り乱していたのに、紅茶ひとつでこれだけ冷静になれた自分が不思議なくらいだ。
改めてカフェ店内を見回す。
木目調の床と壁からウッドハウスのような印象を感じさせられる店内は、木製のテーブル席が四つ置かれている。それぞれにお揃いの椅子が四脚ずつ置かれていて、店の中全体は統一感があった。
奥に続く通路の先に厨房があるようで、食器の音が微かに聞こえている。
そして通路の手前の窓側の席のところが、坂部くんが黒髪ロン毛になって、三角耳がついて、さらには腰から黒のモフモフが生えるのを見た場所だ。
「さっきは驚かせてすみません。少し、落ち着かれましたか?」
「え、は、はい……っ」
不意に聞こえた高い声に思わず背筋を伸ばすと、何かを乗せたお盆を持ったミーコさんは、ふふっと笑ってこちらに向かって歩いてくる。
ここに来たときに見た不思議な出来事を思い返していたから、気づかなかった。
「わぁ……っ!」
ミーコさんに白い皿に乗った一切れのフルーツタルトを出されて、思わず視線を奪われる。
そこにはメロンや洋梨、みかんなどの果物がふんだんに載っている。
それらのフルーツを見て思い起こされるのは、ここに来る前に見た坂部くんが袋一杯にフルーツを入れた買い物袋を下げていた光景だ。
これは坂部くんが買って帰ったフルーツで作っているのだろうか?
「本日の日替わりケーキのフルーツタルトになります。どうぞ召し上がってください」
「……えっ? でも……」
紅茶にしろ、ケーキにしろ、私は頼んでないというのに、いいのだろうか?
紅茶に関しては促されるままに飲んでしまったから、今更どうしようもない。けれどケーキまで食べて、思っていた以上の高額な金額を請求されては困る。そう思って私は机の端においてあったメニューを横目で見る。
一方で、ミーコさんはそんな私を見てなのだろう。クスクスとおかしそうに笑った。
「先程驚かせてしまったお詫びです」
「ええっ!? そんな……っ」
「いいんです。店主が腕を奮って作った絶品のフルーツタルトですよ」
……いいのかな。
店主というのが誰なのかも気になるし、タルトの上に載ったフルーツのことも気になる。
目の前のタルトは、フルーツの上にかけられたナパージュによりキラキラと光を反射して見える。
どうぞと勧められて、フルーツタルトがぜひ食べてと私に微笑みかけているように感じた。
もう一度、机の端に立て掛けてあるメニュー表を今度はしっかりと見やる。
すると、基本メニューはひとつ、日替わりケーキとドリンクのセット五〇〇円とあった。
恐らく私が出してもらったのも紅茶とケーキだから、この日替わりケーキとドリンクのセットなのだろう。
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