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1.はじまりは、フルーツタルト
1ー3
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さっき見た一メートルはありそうなモフモフが仮に何かの尻尾だとして、一体何の動物なのだろう。
私の叫びを聞きつけてなのだろうか、中からバタバタと慌てたような足音が聞こえた直後、バンッと勢いよくカフェの戸が開いた。
「誰かいるのですか?」
雪のように白い肌に、大きな猫目が特徴的なメイド服のような格好をした女性だ。
女性は、二十代後半くらいだろうか。驚いたように私を見ている。
「あ、すみません。怪しいものではなくて、その、こんなところにカフェがあるのに気づいて、どんなところなんだろうと見てただけで……」
反射的にその場に立ち上がり、頭を下げる。
思わず口からは言い訳じみた言葉が飛び出した。
それまででも充分怪しい人だっただろうに、我ながら余計に怪しまれそうな言い訳だ。
「お客様だったとは、失礼いたしました。もう間もなく営業ですので、少し早いですが、どうぞ」
女性は入口のドアノブにかかっていた丸いドアプレートをくるりとひっくり返す。
今の今まで気づかなかったが、これまで目の前のドアプレートは“close”となっていたらしい。
今、ひっくり返されたことで、ドアプレートの表示は“open16:30-19:30”となった。意外と営業時間は短いらしい。
「いえ、まだ開店時間前だったのに、すみません」
「いいのですよ、来るべくしていらっしゃったお客様なのですから」
そのときだった。今女性が私を通そうと開けてくれたドアの向こうから、低い声が響いた。
「ミーコ、そいつは客じゃない」
ドキンといやな音を立てて心臓がはねたのは、坂部くんのあとを追うようにここに来てしまった後ろめたさと、さっき見た正体不明のモフモフのせいだろう。
店の中から出てきた低い声の持ち主の姿を見て、私は思わず息を呑んだ。
漆黒のサラサラの髪は腰まで長く、腰の辺りには一メートルくらいはある漆黒のモフモフがついている。
頭には獣を思わせる三角の黒い耳がふたつ。
尻尾と耳があることや髪が長いことを除けば、イケメンと称されるいつもの坂部くんのようにも見える。だから一見、ただのコスプレのように見えなくはない。
それなのに、さっき窓越しで坂部くんが煙に包まれたところを見てしまったばかりに、私は酷く動揺した。
「あ、……ああっ、さっき、の……っ」
コスプレをした坂部くんなのか、はたまた全く別の何者なのか、それさえわからず混乱した頭では、何も上手く言葉が出てこない。
獣の耳とモフモフの尻尾のついた男性はこちらに向かって歩いてくる。
「やっぱり、坂部くん、なの……?」
何かよくわからないけど、やっぱりさっきの光景が頭から離れなくて、ようやく口から出たのはそんな問いかけだった。
すると、目の前の男性は小さく息を吐いた。
「……やっぱり。さっきの見てたんだな。俺のことつけてきたんだろ」
これは、私の問いに対する肯定を意味しているのだろうか。
じゃあ、やっぱりこの目の前の男性は、坂部くんなの……?
「つけてきたわけじゃないよ。偶然私も商店街に用があってさ……。坂部くんが路地の方へ入っていくから、何があるのか気になって」
私の言葉を聞いて、男性はまるで呆れたように息を吐いた。
「ねぇ、本当に坂部くんなの? その格好……」
「誰にも言うなよ」
私に発せられる声は低く、明らかに怒っている。
そりゃあ勝手にあとをつけて、秘密を見てしまったんだから、怒られて当然だ。
だけど、何度か会話を交わしてみてやっぱりこの声は坂部くんのものだと思った。
「うん……。何か、ごめんね。坂部くんが放課後、カフェでコスプレをしていることは誰にも言わないから」
「は? 何だよ、コスプレって」
「だ、だって、耳と尻尾と……、あと、髪の毛も……っ」
「とぼけるな。おまえ、さっきの見てたんだろ? どこからどう見てコスプレに見えるんだよ」
坂部くんは不機嫌そうにそう言うと、彼の頭についた三角の耳と腰についたモフモフをあからさまに動かした。
私の叫びを聞きつけてなのだろうか、中からバタバタと慌てたような足音が聞こえた直後、バンッと勢いよくカフェの戸が開いた。
「誰かいるのですか?」
雪のように白い肌に、大きな猫目が特徴的なメイド服のような格好をした女性だ。
女性は、二十代後半くらいだろうか。驚いたように私を見ている。
「あ、すみません。怪しいものではなくて、その、こんなところにカフェがあるのに気づいて、どんなところなんだろうと見てただけで……」
反射的にその場に立ち上がり、頭を下げる。
思わず口からは言い訳じみた言葉が飛び出した。
それまででも充分怪しい人だっただろうに、我ながら余計に怪しまれそうな言い訳だ。
「お客様だったとは、失礼いたしました。もう間もなく営業ですので、少し早いですが、どうぞ」
女性は入口のドアノブにかかっていた丸いドアプレートをくるりとひっくり返す。
今の今まで気づかなかったが、これまで目の前のドアプレートは“close”となっていたらしい。
今、ひっくり返されたことで、ドアプレートの表示は“open16:30-19:30”となった。意外と営業時間は短いらしい。
「いえ、まだ開店時間前だったのに、すみません」
「いいのですよ、来るべくしていらっしゃったお客様なのですから」
そのときだった。今女性が私を通そうと開けてくれたドアの向こうから、低い声が響いた。
「ミーコ、そいつは客じゃない」
ドキンといやな音を立てて心臓がはねたのは、坂部くんのあとを追うようにここに来てしまった後ろめたさと、さっき見た正体不明のモフモフのせいだろう。
店の中から出てきた低い声の持ち主の姿を見て、私は思わず息を呑んだ。
漆黒のサラサラの髪は腰まで長く、腰の辺りには一メートルくらいはある漆黒のモフモフがついている。
頭には獣を思わせる三角の黒い耳がふたつ。
尻尾と耳があることや髪が長いことを除けば、イケメンと称されるいつもの坂部くんのようにも見える。だから一見、ただのコスプレのように見えなくはない。
それなのに、さっき窓越しで坂部くんが煙に包まれたところを見てしまったばかりに、私は酷く動揺した。
「あ、……ああっ、さっき、の……っ」
コスプレをした坂部くんなのか、はたまた全く別の何者なのか、それさえわからず混乱した頭では、何も上手く言葉が出てこない。
獣の耳とモフモフの尻尾のついた男性はこちらに向かって歩いてくる。
「やっぱり、坂部くん、なの……?」
何かよくわからないけど、やっぱりさっきの光景が頭から離れなくて、ようやく口から出たのはそんな問いかけだった。
すると、目の前の男性は小さく息を吐いた。
「……やっぱり。さっきの見てたんだな。俺のことつけてきたんだろ」
これは、私の問いに対する肯定を意味しているのだろうか。
じゃあ、やっぱりこの目の前の男性は、坂部くんなの……?
「つけてきたわけじゃないよ。偶然私も商店街に用があってさ……。坂部くんが路地の方へ入っていくから、何があるのか気になって」
私の言葉を聞いて、男性はまるで呆れたように息を吐いた。
「ねぇ、本当に坂部くんなの? その格好……」
「誰にも言うなよ」
私に発せられる声は低く、明らかに怒っている。
そりゃあ勝手にあとをつけて、秘密を見てしまったんだから、怒られて当然だ。
だけど、何度か会話を交わしてみてやっぱりこの声は坂部くんのものだと思った。
「うん……。何か、ごめんね。坂部くんが放課後、カフェでコスプレをしていることは誰にも言わないから」
「は? 何だよ、コスプレって」
「だ、だって、耳と尻尾と……、あと、髪の毛も……っ」
「とぼけるな。おまえ、さっきの見てたんだろ? どこからどう見てコスプレに見えるんだよ」
坂部くんは不機嫌そうにそう言うと、彼の頭についた三角の耳と腰についたモフモフをあからさまに動かした。
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