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2.仲直りの醤油めし
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「屋台以外にもいろんなお店もあるけん、気になるのがあったら言って」
私がうなずくのを見ると、和樹くんは「行こ行こ」と嬉しそうに私の一歩前を歩いていった。
……す、すごい人。
松山に来て一番といっていいほどの人混みだ。
「相変わらず人が多いな。混み出す時間帯やけん、離れんとってよ?」
「うん、大丈夫……」
夜市に来た人たちであふれ返っている通りも、よく見るとある程度人の流れは出来ている。その流れに沿うように歩けば、大きく問題はなさそうだ。
屋台もたくさんの種類があるけれど、その中でも綿菓子やかき氷、ヨーヨー釣りといった屋台がやっぱり目について、雰囲気はお祭りそのものだ。
「あ、俺に遠慮せんと買いたいものあったら言ってな」
うなずいたものの、さすがに和樹くんの隣で何かを買うのはためらわれる。
幽霊は本来何も食べられない。
前回、おばあさんの霊がチャチャとタルトを食べていたことが例外中の例外なくらいだ。
晃さんの話によると、むすび屋の中では例外的に幽霊も食事を取ったり、物に触れたりすることができるんだそうだ。
だからあのとき、おばあさんは本当にチャチャに触れていたらしい。どういう原理になっているのかは、さっぱりわからないけれど。
むすび屋の中にいない限り何にも触れることも食べることもできない和樹くんの横で遠慮せずに買って食べるのは、なんだか一人だけお祭りを楽しんでいるみたいで嫌だった。
和樹くんは事あるごとに、「あれ、美味そう」とか「あれ、面白そう。やらんの?」と聞いてくるから、私が思っているほど気にしてないのかもしれないけれど……。
大街道を抜けて横断歩道ひとつ挟んで銀天街に入って少ししたところで、私はひとつの屋台の前で足を止めた。
「あ、可愛い……!」
屋台の男性が座っているそばには、大きな段ボールが置かれていて、その中にはたくさんの黄色いヒヨコたちがピョコピョコ動いている。
「おっ、ヒヨコやん」
私と同じように、ヒヨコの入った段ボールを和樹くんも覗く。
段ボールのまわりには小さい子どもたちが「可愛い」「いいなぁ」などと言いながら群がっている。
「でも、ヒヨコは注意せんといかんよ」
和樹くんの声が聞こえて、思わず彼の方を見る。
「俺も昔、兄ちゃんと夜市に行ったときに可愛さのあまりにひよこを買ったんよ。そしたら兄ちゃんにすごく怒られて。家に帰ったら母さんも兄ちゃんと一緒になって、すごく怒ってきて。俺が育てるけんいいやんってそのときの俺は反発したんやけど、そういうことやなかったんよ」
過去の自分の失敗を思い出してなのか、和樹くんは苦笑いを浮かべる。
「俺はヒヨコを育てた。けどな、ヒヨコはいつまでもヒヨコのままやないんよ。あれよあれよと言う間にニワトリになって、朝からコケコッコーってうるさくて。家族にはまた怒られるし、近所迷惑にもなるし、手に負えんなってしまったんよ」
それで、和樹くんのヒヨコはどうなったの?と、思わず目で訴えるように和樹くんの方を見る。
「そんな顔せんで。大丈夫、ヒヨコは当時通っとった小学校の飼育係の先生に頼み込んで、学校の飼育小屋で幸せに暮らしとったけん」
そっか、よかった……。
和樹くんのヒヨコの末路に安堵するとともに、私はヒヨコのそばを離れた。
そんな私を見た和樹くんが慌てたように言う。
「ごめん。俺のせいでヒヨコ遠慮させてしまった?」
「ううん。最初から飼えないのはわかってたし、物珍しさに見に行っただけだから」
私はむすび屋のはなれの宿舎に住まわせてもらってる身だし、どのみちヒヨコは飼えない。
もしこれがメスのヒヨコなら、ニワトリになって卵を産んでくれると拓也さんが喜んだかもしれないけれど、あいにくこの屋台の張り紙によると、ヒヨコは全てオスらしい。
「それならいいんやけど……。マジで俺、死んでからもひとつのことしか見えとらんで、自分でうんざりする。今も昔のことを思い出すばかりで、ケイちゃんの気持ちとか全く考えとらんかったし、ごめんな」
「気にしないで。むしろ、私が和樹くんと同じ失敗をしないように話してくれたんだと私は思ったんだけど」
「そういう気持ちもなかったわけやないけど……」
和樹くんはそれでも納得いかないところがあるような表情を浮かべている。
一体、どうしたものか。
どこか自分のことを責めているような彼の姿に、戸惑いを覚える。
私がうなずくのを見ると、和樹くんは「行こ行こ」と嬉しそうに私の一歩前を歩いていった。
……す、すごい人。
松山に来て一番といっていいほどの人混みだ。
「相変わらず人が多いな。混み出す時間帯やけん、離れんとってよ?」
「うん、大丈夫……」
夜市に来た人たちであふれ返っている通りも、よく見るとある程度人の流れは出来ている。その流れに沿うように歩けば、大きく問題はなさそうだ。
屋台もたくさんの種類があるけれど、その中でも綿菓子やかき氷、ヨーヨー釣りといった屋台がやっぱり目について、雰囲気はお祭りそのものだ。
「あ、俺に遠慮せんと買いたいものあったら言ってな」
うなずいたものの、さすがに和樹くんの隣で何かを買うのはためらわれる。
幽霊は本来何も食べられない。
前回、おばあさんの霊がチャチャとタルトを食べていたことが例外中の例外なくらいだ。
晃さんの話によると、むすび屋の中では例外的に幽霊も食事を取ったり、物に触れたりすることができるんだそうだ。
だからあのとき、おばあさんは本当にチャチャに触れていたらしい。どういう原理になっているのかは、さっぱりわからないけれど。
むすび屋の中にいない限り何にも触れることも食べることもできない和樹くんの横で遠慮せずに買って食べるのは、なんだか一人だけお祭りを楽しんでいるみたいで嫌だった。
和樹くんは事あるごとに、「あれ、美味そう」とか「あれ、面白そう。やらんの?」と聞いてくるから、私が思っているほど気にしてないのかもしれないけれど……。
大街道を抜けて横断歩道ひとつ挟んで銀天街に入って少ししたところで、私はひとつの屋台の前で足を止めた。
「あ、可愛い……!」
屋台の男性が座っているそばには、大きな段ボールが置かれていて、その中にはたくさんの黄色いヒヨコたちがピョコピョコ動いている。
「おっ、ヒヨコやん」
私と同じように、ヒヨコの入った段ボールを和樹くんも覗く。
段ボールのまわりには小さい子どもたちが「可愛い」「いいなぁ」などと言いながら群がっている。
「でも、ヒヨコは注意せんといかんよ」
和樹くんの声が聞こえて、思わず彼の方を見る。
「俺も昔、兄ちゃんと夜市に行ったときに可愛さのあまりにひよこを買ったんよ。そしたら兄ちゃんにすごく怒られて。家に帰ったら母さんも兄ちゃんと一緒になって、すごく怒ってきて。俺が育てるけんいいやんってそのときの俺は反発したんやけど、そういうことやなかったんよ」
過去の自分の失敗を思い出してなのか、和樹くんは苦笑いを浮かべる。
「俺はヒヨコを育てた。けどな、ヒヨコはいつまでもヒヨコのままやないんよ。あれよあれよと言う間にニワトリになって、朝からコケコッコーってうるさくて。家族にはまた怒られるし、近所迷惑にもなるし、手に負えんなってしまったんよ」
それで、和樹くんのヒヨコはどうなったの?と、思わず目で訴えるように和樹くんの方を見る。
「そんな顔せんで。大丈夫、ヒヨコは当時通っとった小学校の飼育係の先生に頼み込んで、学校の飼育小屋で幸せに暮らしとったけん」
そっか、よかった……。
和樹くんのヒヨコの末路に安堵するとともに、私はヒヨコのそばを離れた。
そんな私を見た和樹くんが慌てたように言う。
「ごめん。俺のせいでヒヨコ遠慮させてしまった?」
「ううん。最初から飼えないのはわかってたし、物珍しさに見に行っただけだから」
私はむすび屋のはなれの宿舎に住まわせてもらってる身だし、どのみちヒヨコは飼えない。
もしこれがメスのヒヨコなら、ニワトリになって卵を産んでくれると拓也さんが喜んだかもしれないけれど、あいにくこの屋台の張り紙によると、ヒヨコは全てオスらしい。
「それならいいんやけど……。マジで俺、死んでからもひとつのことしか見えとらんで、自分でうんざりする。今も昔のことを思い出すばかりで、ケイちゃんの気持ちとか全く考えとらんかったし、ごめんな」
「気にしないで。むしろ、私が和樹くんと同じ失敗をしないように話してくれたんだと私は思ったんだけど」
「そういう気持ちもなかったわけやないけど……」
和樹くんはそれでも納得いかないところがあるような表情を浮かべている。
一体、どうしたものか。
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