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2.仲直りの醤油めし
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死んでからもという言い方から、和樹くんが生きてた頃に、ひとつのことしか見えてなかった時期があったのだろうか。
和樹くんのことを詳しく知ってるわけではないからわからないけど、話の流れからヒヨコの話に関係があるのかな。
ヒヨコを買って育てることしか考えてなくて、雄鶏に成長したあと家族やご近所さんに迷惑をかけてしまうことまで考えてなかった、と。
だけどそれにしては深刻そうに見えたけど……。
そこまで考えたとき、パチンと私の目の前で和樹くんは両手を叩いた。
「……ぅわっ!?」
叩いたと言っても、この喧騒の中だ。決して幽霊が手を叩く音が聞こえたわけではない。
それなのに上体を不自然にそらして驚いてしまったのは、急に和樹くんに目の前に回り込まれたからだ。
周りの人がぎょっとしてこちらを振り返るのが視界の隅に映り、恥ずかしい。そんな私に構わず、和樹くんは勢いよく言葉を紡いだ。
「あー、もう! ごめんな、ケイちゃんにそんな顔させるつもりはなかったんよ」
元あった陽気な笑みを浮かべる和樹くんからは、先ほどまでの彼の姿は嘘のように感じられる。
「私こそごめんね……」
「とりあえずヒヨコじゃないけど、ヨーヨー釣りでもしようよ。しようよって言っても俺はできんけどさ。浴衣姿のケイちゃんに、ヨーヨー似合うと思うんよ」
ヨーヨー釣りなんて全くするつもりはなかったけれど、この空気を打破したくて、私は和樹くんの言葉通りヒヨコの屋台のすぐそばにあったヨーヨー釣りの屋台に足を運ぶ。
「いらっしゃい」
陽気に笑う屋台の男性にお金を払うと、ヨーヨー釣り用の釣り針のついたこよりを渡される。
ヨーヨー釣りなんて、いつぶりだろう?
確か小学生の高学年の頃に友達と近所の夏祭りでしたのが最後だった気がする。子どもの頃に戻ったみたいで、少しだけワクワクした。
青色のビニールプールの水面には華やかな模様の風船が一杯に浮かんでいる。
中でも、エメラルド色に黄色やオレンジの水玉のついた風船が目に留まった。
私はしゃがんで、狙いを定めたヨーヨーをめがけて釣り針を水面に沈めた──。
*
「くくくっ。あはは」
「もうっ、いつまで笑ってるの!」
これまでは人目を気にしてあまり和樹くんと大っぴらには話していなかったけれど、今はそんなことお構いなしだ。
「だって、あそこまで下手やなんて思わんかったんやもん」
というのも、三回チャレンジして、ヨーヨーを釣り上げようとしたところで全てこよりが切れてしまったのだ。
今私の右手に下げられたエメラルド色のヨーヨーは、お世辞にも惜しいとさえ言えないくらいに下手くそだった私に、屋台の人がおまけでひとつくれたものだ。
こよりが千切れたことに気づかずヨーヨー釣り上げたつもりでいた私は、さぞ滑稽に見えたのだろう。
その一部始終を隣で見ていた和樹くんはここぞとばかりに笑うけれど、そんなに笑わなくたっていいじゃないと口を尖らせた。
ヨーヨー釣りが下手だって、今後生きていくのに特別必要なスキルではないでしょ。
あまりに笑われるのでふて腐れていると、「ごめんごめん、笑いすぎた」と慌てたように和樹くんに謝られる。
さんざん笑っておきながら、今更謝ったって遅いんだから!
私は和樹くんを軽くにらみつけたけれど、あまりに必死な彼の姿にあっさりと打ち負かされてしまった。
「わかったよ……」
和樹くんって愛嬌があるっていうか、いい意味で憎めないんだよね。
途端に安堵からかふにゃりと笑う和樹くんを見ていると、十歳も年下の相手に怒っていたことが急にバカバカしくなって肩で息をついた。
和樹くんのことを詳しく知ってるわけではないからわからないけど、話の流れからヒヨコの話に関係があるのかな。
ヒヨコを買って育てることしか考えてなくて、雄鶏に成長したあと家族やご近所さんに迷惑をかけてしまうことまで考えてなかった、と。
だけどそれにしては深刻そうに見えたけど……。
そこまで考えたとき、パチンと私の目の前で和樹くんは両手を叩いた。
「……ぅわっ!?」
叩いたと言っても、この喧騒の中だ。決して幽霊が手を叩く音が聞こえたわけではない。
それなのに上体を不自然にそらして驚いてしまったのは、急に和樹くんに目の前に回り込まれたからだ。
周りの人がぎょっとしてこちらを振り返るのが視界の隅に映り、恥ずかしい。そんな私に構わず、和樹くんは勢いよく言葉を紡いだ。
「あー、もう! ごめんな、ケイちゃんにそんな顔させるつもりはなかったんよ」
元あった陽気な笑みを浮かべる和樹くんからは、先ほどまでの彼の姿は嘘のように感じられる。
「私こそごめんね……」
「とりあえずヒヨコじゃないけど、ヨーヨー釣りでもしようよ。しようよって言っても俺はできんけどさ。浴衣姿のケイちゃんに、ヨーヨー似合うと思うんよ」
ヨーヨー釣りなんて全くするつもりはなかったけれど、この空気を打破したくて、私は和樹くんの言葉通りヒヨコの屋台のすぐそばにあったヨーヨー釣りの屋台に足を運ぶ。
「いらっしゃい」
陽気に笑う屋台の男性にお金を払うと、ヨーヨー釣り用の釣り針のついたこよりを渡される。
ヨーヨー釣りなんて、いつぶりだろう?
確か小学生の高学年の頃に友達と近所の夏祭りでしたのが最後だった気がする。子どもの頃に戻ったみたいで、少しだけワクワクした。
青色のビニールプールの水面には華やかな模様の風船が一杯に浮かんでいる。
中でも、エメラルド色に黄色やオレンジの水玉のついた風船が目に留まった。
私はしゃがんで、狙いを定めたヨーヨーをめがけて釣り針を水面に沈めた──。
*
「くくくっ。あはは」
「もうっ、いつまで笑ってるの!」
これまでは人目を気にしてあまり和樹くんと大っぴらには話していなかったけれど、今はそんなことお構いなしだ。
「だって、あそこまで下手やなんて思わんかったんやもん」
というのも、三回チャレンジして、ヨーヨーを釣り上げようとしたところで全てこよりが切れてしまったのだ。
今私の右手に下げられたエメラルド色のヨーヨーは、お世辞にも惜しいとさえ言えないくらいに下手くそだった私に、屋台の人がおまけでひとつくれたものだ。
こよりが千切れたことに気づかずヨーヨー釣り上げたつもりでいた私は、さぞ滑稽に見えたのだろう。
その一部始終を隣で見ていた和樹くんはここぞとばかりに笑うけれど、そんなに笑わなくたっていいじゃないと口を尖らせた。
ヨーヨー釣りが下手だって、今後生きていくのに特別必要なスキルではないでしょ。
あまりに笑われるのでふて腐れていると、「ごめんごめん、笑いすぎた」と慌てたように和樹くんに謝られる。
さんざん笑っておきながら、今更謝ったって遅いんだから!
私は和樹くんを軽くにらみつけたけれど、あまりに必死な彼の姿にあっさりと打ち負かされてしまった。
「わかったよ……」
和樹くんって愛嬌があるっていうか、いい意味で憎めないんだよね。
途端に安堵からかふにゃりと笑う和樹くんを見ていると、十歳も年下の相手に怒っていたことが急にバカバカしくなって肩で息をついた。
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