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39、支配されて*
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「ぁっ、あっ、ぁあ……」
もうどれくらい時間が経っただろうか。マティルダは目を閉じたまま、与えられる快感に涙を流していた。
侯爵家の離れへ帰ってきたかと思えば、寝室へ連れ込まれ、ずっと抱かれ続けている。抵抗もすべて快楽に攫われて消え去ってしまった。今はもう、与えてくれる熱に翻弄されるのみだ。
「マティルダ。目を開けて……」
繋がったまま、身を仰け反るようにして喘いでいたマティルダにオズワルドが懇願するように命じた。彼女は薄っすらと目を開け、濡れた瞳で緩やかに首を振る。
「オズワルドさま、もう、ゆるして……」
「許している……ずっと……」
嘘だ。挿入したまま、動いてくれない。玉や張り形を入れっぱなしにされた時のような、しかしその時よりずっと耐え難い熱を燻らせた状態で、マティルダはすでに何度か絶頂を得ていた。
それは我慢の果ての緩やかな、けれどそれゆえ深い淫蕩の沼へ突き落とすものだった。
「俺がいない間も、他の男のものを咥えたんでしょう」
「そんなこと、して、ません……っ」
奥に当たったまま、ぐるりと円を描かれる。腰を掴まれ、見下ろされる冷たくも熱い眼差しにお腹の底から熱がぐつぐつと煮え滾ってくる。蜜襞が蠢くように肉杭を締めつけている。
「ぁっ、だめ、またっ……」
「何回でも、いくといい」
「いや……もう、いやなの……オズワルドさまっ」
腰を揺さぶる彼の手をもどかしげに掴む。
「おねがい、きて……」
オズワルドは黙り込んだかと思うと、覆い被さってきて、汗だくのマティルダの前髪をかき上げ、目に焼きつけるように顔を見てくる。輪郭をなぞられ、ほっそりとした首を撫でられ、マティルダはくすぐったくなって身体をくねらせる。
「オズワルドさま……」
汗ばんだ肌が触れ合い、熱くて、心地よい。マティルダは健気にオズワルドを見つめ続け、彼の大きな背中に腕を回す。顔が近づけば、目を閉じて、自ら舌を伸ばす。絡み合って、夢中で吸い合う。
「んっ、ぅ、ふぅ……」
「はぁ……マティルダ……っ」
「あっ……」
身体を横にされ、後ろから抱きしめられながら抽挿される。
「気持ちいいですか……」
「きもち、いい、ぁっ、はぁ、オズワルドさま、きもちいいよぉ」
お腹に回された手をぎゅっと握りしめる。
そうすると中のものが膨らんで苦しくて、さらに気持ちいい。
マティルダは辛くても後ろを振り返り、自分からオズワルドの口に唇を重ねた。僅かに瞠目した彼にあどけなく微笑む。
「オズワルドさま。こんどはまた、前から、して」
「……あなたは後ろからがされるのが好きなんでしょう」
顎を掴まれて前を向かされると、耳に唇を寄せて囁かれる。
「私の顔を見ない方が、好きなんだろう」
そう。好き。声が似ているから。冷たく、突き放すような口調は、まるであの人に抱かれているみたいに思えるから……。
(でも、いまは……)
「オズワルドさまの顔が見たいんです」
「マティルダ……うっ」
一度結合を解き、オズワルドを仰向けにさせると、マティルダは彼の身体に跨って、彼の精液と自分の愛液でべたべたになった陰茎を自らの意思で咥えこんだ。
「はぁ、オズワルドさまが、んっ、いじわるばかりなさるから、もう、わたしが自分でします、わ……」
妖艶に微笑み、マティルダは淫らに腰を振った。ぐぷっ、じゅぷっとはしたない音をこれでもかと立てて、泡立った液が肌を伝い、シーツをさらに濡らしていく。
「オズワルドさま、みて……」
わざと腰をゆっくりと持ち上げ、赤黒い肉棒が自分の中へずっぽりと呑み込まれていく様を見せつける。身体を前後に揺らし、乳房を震わせ、自分と相手の興奮を一緒に引き出そうとマティルダは健気に振る舞う。
以前やらされた時よりかは、上達しただろう。オズワルドが食い入るように見てくるから。苦しそうで、翻弄されている顔をして。
(わたしだけを、見ている顔……)
今彼の頭の中にはシェイラは存在しない。マティルダだけしかおらず、何よりも欲している顔だ。
――だから自分も彼を見てあげる。彼にも、与えてあげよう。
「はぁ、マティルダ……っ」
「あぁっ」
我慢できずに、腰を突き上げられる。揺れる乳房を捕まえるように掌で掴まれ、その柔らかさを思う存分堪能する。指先が捏ねるように食い込み、乳輪を撫でて、ぷっくりと主張する蕾を弾いていく。
「んっ、オズワルドさま、いって、きもちよく、なって、あぁっん」
「ぁ、マティルダ、マティルダ……!」
まるであの時の――初夜の光景みたいだと思いながら、マティルダは何度もオズワルドと乱れ合うのだった。
◇
マティルダは結局、侯爵家へ戻ってきてしまった。
なし崩し的に抱かれ、最後には自分も彼を受け入れてしまったのだが、熱が引けば、やはりよくないだろうと思った。
そもそもなぜ彼が自分をまた連れ戻したか。マティルダはオズワルドに尋ねたが、彼は「あなたはここにいるべきです」としか答えてくれない。その表情はそれ以上尋ねられても困る。彼自身にもよくわからない、と言いたげであった。
「いきなり何も言わず、あんな誘拐まがいでわたしを連れ戻すなんて、あんまりですわ」
マティルダは別にそこまで怒っているわけではなかったが、とりあえずそう言って彼を責めた。
「ポーリーも置き去りして、ニックだってきっと心配して、」
彼の名前を出したところで、突き刺すような視線を向けられる。
「ポーリーと一緒に散歩していた男はニックというんですね。キースに代わる、新しい恋人ですか」
「彼はただのお友達です。キースともそういう関係ではありません。変な勘違いをなさらないで。わたしにも、彼らにも、大変失礼だわ」
だいいち、と思う。
「わたしとあなたはもう離婚しているのですから、わたしが誰と仲良くしようが……たとえ新しい恋人を作ったとして、あなたに何か関係があるのですか」
あくまでも淡々とした口調で返したつもりだが、オズワルドには冷淡な物言いに聴こえたかもしれない。傷ついたような表情を一瞬浮かべて黙り込み、「ええ、そうですね」と自嘲した。
「あなたがどこで誰と何をしようが、俺にはもう口を出す権利はありません。そもそも夫婦であっても、俺は何一つ、夫らしいことをあなたにしてやれなかったのだから、あなたの言うことは至極最もです。それでも……きみが他の男と一緒に歩いていると知って、俺以外の相手に微笑んでいるのを見たら、頭がおかしくなりそうになった」
(もしかして……)
ニックが言っていた怪しい男というのは、オズワルドのことだったのか。確かめる前に、マティルダは彼に迫られ、腕を掴まれた。
「オズワルド様……」
「きみには、ここにいてもらう」
マティルダは目を真ん丸と開いて、オズワルドの瞳を見つめた。彼も黙って見つめ返す。
やがて手をぱっと離され、背を向けられる。部屋を出て行き、扉が閉まったかと思うと、ガチャリと鍵が閉められる音がした。
もうどれくらい時間が経っただろうか。マティルダは目を閉じたまま、与えられる快感に涙を流していた。
侯爵家の離れへ帰ってきたかと思えば、寝室へ連れ込まれ、ずっと抱かれ続けている。抵抗もすべて快楽に攫われて消え去ってしまった。今はもう、与えてくれる熱に翻弄されるのみだ。
「マティルダ。目を開けて……」
繋がったまま、身を仰け反るようにして喘いでいたマティルダにオズワルドが懇願するように命じた。彼女は薄っすらと目を開け、濡れた瞳で緩やかに首を振る。
「オズワルドさま、もう、ゆるして……」
「許している……ずっと……」
嘘だ。挿入したまま、動いてくれない。玉や張り形を入れっぱなしにされた時のような、しかしその時よりずっと耐え難い熱を燻らせた状態で、マティルダはすでに何度か絶頂を得ていた。
それは我慢の果ての緩やかな、けれどそれゆえ深い淫蕩の沼へ突き落とすものだった。
「俺がいない間も、他の男のものを咥えたんでしょう」
「そんなこと、して、ません……っ」
奥に当たったまま、ぐるりと円を描かれる。腰を掴まれ、見下ろされる冷たくも熱い眼差しにお腹の底から熱がぐつぐつと煮え滾ってくる。蜜襞が蠢くように肉杭を締めつけている。
「ぁっ、だめ、またっ……」
「何回でも、いくといい」
「いや……もう、いやなの……オズワルドさまっ」
腰を揺さぶる彼の手をもどかしげに掴む。
「おねがい、きて……」
オズワルドは黙り込んだかと思うと、覆い被さってきて、汗だくのマティルダの前髪をかき上げ、目に焼きつけるように顔を見てくる。輪郭をなぞられ、ほっそりとした首を撫でられ、マティルダはくすぐったくなって身体をくねらせる。
「オズワルドさま……」
汗ばんだ肌が触れ合い、熱くて、心地よい。マティルダは健気にオズワルドを見つめ続け、彼の大きな背中に腕を回す。顔が近づけば、目を閉じて、自ら舌を伸ばす。絡み合って、夢中で吸い合う。
「んっ、ぅ、ふぅ……」
「はぁ……マティルダ……っ」
「あっ……」
身体を横にされ、後ろから抱きしめられながら抽挿される。
「気持ちいいですか……」
「きもち、いい、ぁっ、はぁ、オズワルドさま、きもちいいよぉ」
お腹に回された手をぎゅっと握りしめる。
そうすると中のものが膨らんで苦しくて、さらに気持ちいい。
マティルダは辛くても後ろを振り返り、自分からオズワルドの口に唇を重ねた。僅かに瞠目した彼にあどけなく微笑む。
「オズワルドさま。こんどはまた、前から、して」
「……あなたは後ろからがされるのが好きなんでしょう」
顎を掴まれて前を向かされると、耳に唇を寄せて囁かれる。
「私の顔を見ない方が、好きなんだろう」
そう。好き。声が似ているから。冷たく、突き放すような口調は、まるであの人に抱かれているみたいに思えるから……。
(でも、いまは……)
「オズワルドさまの顔が見たいんです」
「マティルダ……うっ」
一度結合を解き、オズワルドを仰向けにさせると、マティルダは彼の身体に跨って、彼の精液と自分の愛液でべたべたになった陰茎を自らの意思で咥えこんだ。
「はぁ、オズワルドさまが、んっ、いじわるばかりなさるから、もう、わたしが自分でします、わ……」
妖艶に微笑み、マティルダは淫らに腰を振った。ぐぷっ、じゅぷっとはしたない音をこれでもかと立てて、泡立った液が肌を伝い、シーツをさらに濡らしていく。
「オズワルドさま、みて……」
わざと腰をゆっくりと持ち上げ、赤黒い肉棒が自分の中へずっぽりと呑み込まれていく様を見せつける。身体を前後に揺らし、乳房を震わせ、自分と相手の興奮を一緒に引き出そうとマティルダは健気に振る舞う。
以前やらされた時よりかは、上達しただろう。オズワルドが食い入るように見てくるから。苦しそうで、翻弄されている顔をして。
(わたしだけを、見ている顔……)
今彼の頭の中にはシェイラは存在しない。マティルダだけしかおらず、何よりも欲している顔だ。
――だから自分も彼を見てあげる。彼にも、与えてあげよう。
「はぁ、マティルダ……っ」
「あぁっ」
我慢できずに、腰を突き上げられる。揺れる乳房を捕まえるように掌で掴まれ、その柔らかさを思う存分堪能する。指先が捏ねるように食い込み、乳輪を撫でて、ぷっくりと主張する蕾を弾いていく。
「んっ、オズワルドさま、いって、きもちよく、なって、あぁっん」
「ぁ、マティルダ、マティルダ……!」
まるであの時の――初夜の光景みたいだと思いながら、マティルダは何度もオズワルドと乱れ合うのだった。
◇
マティルダは結局、侯爵家へ戻ってきてしまった。
なし崩し的に抱かれ、最後には自分も彼を受け入れてしまったのだが、熱が引けば、やはりよくないだろうと思った。
そもそもなぜ彼が自分をまた連れ戻したか。マティルダはオズワルドに尋ねたが、彼は「あなたはここにいるべきです」としか答えてくれない。その表情はそれ以上尋ねられても困る。彼自身にもよくわからない、と言いたげであった。
「いきなり何も言わず、あんな誘拐まがいでわたしを連れ戻すなんて、あんまりですわ」
マティルダは別にそこまで怒っているわけではなかったが、とりあえずそう言って彼を責めた。
「ポーリーも置き去りして、ニックだってきっと心配して、」
彼の名前を出したところで、突き刺すような視線を向けられる。
「ポーリーと一緒に散歩していた男はニックというんですね。キースに代わる、新しい恋人ですか」
「彼はただのお友達です。キースともそういう関係ではありません。変な勘違いをなさらないで。わたしにも、彼らにも、大変失礼だわ」
だいいち、と思う。
「わたしとあなたはもう離婚しているのですから、わたしが誰と仲良くしようが……たとえ新しい恋人を作ったとして、あなたに何か関係があるのですか」
あくまでも淡々とした口調で返したつもりだが、オズワルドには冷淡な物言いに聴こえたかもしれない。傷ついたような表情を一瞬浮かべて黙り込み、「ええ、そうですね」と自嘲した。
「あなたがどこで誰と何をしようが、俺にはもう口を出す権利はありません。そもそも夫婦であっても、俺は何一つ、夫らしいことをあなたにしてやれなかったのだから、あなたの言うことは至極最もです。それでも……きみが他の男と一緒に歩いていると知って、俺以外の相手に微笑んでいるのを見たら、頭がおかしくなりそうになった」
(もしかして……)
ニックが言っていた怪しい男というのは、オズワルドのことだったのか。確かめる前に、マティルダは彼に迫られ、腕を掴まれた。
「オズワルド様……」
「きみには、ここにいてもらう」
マティルダは目を真ん丸と開いて、オズワルドの瞳を見つめた。彼も黙って見つめ返す。
やがて手をぱっと離され、背を向けられる。部屋を出て行き、扉が閉まったかと思うと、ガチャリと鍵が閉められる音がした。
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