命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第4章:土の心臓編

106 花鈴と真凛の話③

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 あれから家に帰った真凛は、柚子が完璧に自分達を見分けられた旨を花鈴に話した。
 放課後の一連の出来事を話すと、花鈴も柚子と仲良くなりたいと言い出した。
 真凛ももっと柚子と話したいと思っていたので、翌日から二人は柚子に絡むようになった。
 前日での出来事から柚子も二人には感心があり、話している内に三人はあっという間に打ち解けて仲良くなった。
 柚子と真凛は姉同士という共通点があり、話していると何かと馬が合うことが多かった。
 また、柚子の面倒見の良い性格と花鈴の人懐っこい性格は相性が良く、二人もすぐに意気投合した。

 中間テスト前になると、互いの家に行って勉強会を開くようになった。
 花鈴と真凛の両親は、二人が初めて友達を家に招いたことを大層喜び、柚子のことを手厚くもてなした。
 逆に二人が山吹家に行くと、柚子の妹達は顔がソックリな双子を見て驚いていたが、それが珍しかったのかすぐに二人を気に入った。
 特に花鈴によく懐いており、真凛は「精神年齢が近いからだ」と笑っていた。
 柚子の両親も良い人達で居心地が良く、三人はテストが終わってからも互いの家に頻繁に遊びに行くようになっていた。
 しかし、ずっと続くと思われた幸せな時間は……そう長くは続かなかった。

 それは、二年生に上がってからのことだった。
 ある日、二人の家に電話があった。
 両親が不在だった為、真凛が出た。
 電話をしてきたのは柚子で……両親が事故で亡くなったと、やけに淡々とした口調で説明した。
 その淡々とした様子が逆に二人の不安を煽り、すぐに柚子の家に向かった。
 柚子の家に行くと、親戚らしき人達が出入りしていた。
 すでに柚子から説明はされていたようで、ソックリな双子だからか一目で分かったらしく、特に何の説明もなくすんなりと中に入れてもらえた。
 ひとまず柚子の部屋に行くと、そこでは泣きじゃくる妹二人を一生懸命宥める彼女の姿があった。
 彼女は部屋に入って来た二人を見ると、慌てて立ち上がった。

「二人共、来てくれたんだ……」
「柚子……」
「あはは、ごめんね急に。今ちょっと妹の相手で忙しくて……あっ、ホラ、蜜柑、檸檬。花鈴と真凛が来てくれたよ?」

 柚子はそう言いながら、泣いている妹達に声を掛けた。
 しかし、妹二人はそれどころではないようで、二人に見向きもせずに泣き続けている。
 それに柚子は小さく息をつき、二人を見上げて小さく笑った。

「ごめんね、こんな状態で……あっ、お茶出そうか? それくらいなら何とか……」
「花鈴、蜜柑ちゃん達見といて」
「うん」

 静かな声で言う真凛に花鈴は頷き、柚子を押し退けて蜜柑と檸檬の元に向かった。
 それに柚子が驚く間も無く、真凛は彼女の腕を掴み、部屋を出た。
 突然のことに、柚子は「ちょっと!」と声を荒げた。

「何すんのよ! 私は蜜柑達に付いてないと……!」
「妹の為に無理してる姿見せる為に呼んだの?」

 真凛はそう言いながら、隣にあった蜜柑の部屋の扉を開け、柚子の体を引き込んで扉を閉めた。
 突然の言葉に、柚子は「へ……?」と聞き返した。
 すると、真凛は柚子に顔を向けて、続けた。

「何ヘラヘラしてんの? 親が死んだのに」
「だ、だって……妹が、泣いてるから……私がしっかりしないと……」
「じゃあさ……何のために、私達に電話したの?」

 その言葉に、柚子はハッとした表情で顔を上げた。
 するとそこには、冷たい眼差しでこちらを見つめる真凛がいた。
 彼女は続けた。

「助けて欲しかったんじゃないの? ……悲しかったんじゃないの?」
「それは……」
「妹の相手は自分でして、私達を客として歓迎して……何がしたいの?」

 真凛はそう言いながら、柚子の肩を掴んだ。
 それに柚子は肩を震わせ、体を強張らせる。
 彼女はすぐに、震える唇を開いた。

「二人に電話した、のは……二人も、お父さんとお母さんと、仲良かった、から……連絡しないと、って……思って……」
「……」
「妹達には、もう……私しか、いないから……私が、お姉ちゃんとして、しっかりしないと……私が、二人を不安にさせるわけには……」
「……」

 掠れた声で言う柚子に、真凛は何も言わない。
 無言のままジッと見つめてくる真凛に、柚子はキュッと服の裾を握り、唇を真一文字に結んでその目を見つめ返した。
 それを見て真凛は小さく息をつき、口を開いた。

「……本当は?」

 静かな声で言う真凛に、柚子は目を大きく見開き、息を呑んだ。
 真凛はそれ以上何も言わず、ジッと柚子を見つめ返した。
 すぐに、柚子は何か答えようと口を開く。
 しかし、いざ何か言おうとすると上手く言葉に出来ず、パクパクと何度も口を開閉させながら目を泳がせる。
 服の裾を握り締める力が強くなり、その手には今にも血管が浮かび上がりそうな程だった。
 しばらくの間彷徨っていた視線は、やがてゆっくりと上がっていき、再び真凛に固定される。
 目が合うと、徐々にその目は涙で潤み、人より幼く見えるその顔はグシャリと歪んだ。

「……助けて……」

 振り絞ったような、掻き消えそうな小さな声で、柚子は言った。
 その言葉を皮切りにするように、ポロポロと大粒の涙が重力に従って落ちていく。
 真凛はすぐに彼女の体を引き寄せ、無言で抱きしめた。
 柚子はそれに目を見開いたが、すぐに瞼を強く瞑り、真凛の体を抱きしめ返した。

「私ッ……これから、どうすれば良いのか、わかんなくてッ……! お父さんもッ……お母さんもッ、いなくてッ……! 妹達はッ……泣いててッ……! どうすればいいのかッ……分かんッなくてッ……! こんなこと相談できるのッ……二人しかッ、いなくてッ……!」
「うん……うん……」
「でもッ、二人を前にしたらッ……なんかもう、分かんなくなっちゃってッ……! 弱い所見せちゃダメだってッ……! 頼っちゃダメだってッ……自分で何とかしないとってッ……思ってッ……!」
「……馬鹿」

 真凛は小さくそう呟きながら、自分より一回り小さい華奢な体を強く抱きしめた。
 それに、柚子は真凛の首筋に顔を埋め、嗚咽を漏らして泣き続ける。
 ──……小さい体に、色々と背負いすぎなんだよ。
 内心でそう呆れながら、真凛は続けた。

「こんな時くらい、私達を頼りなよ。妹ちゃん達は花鈴に懐いてるから任せておけばいいし、親戚の人達の相手は出来る範囲なら私がするし」
「ッ……でも、私が何とかしないとッ……」
「呼んだ?」

 そんな声と共に扉が開き、花鈴がひょっこりと顔を出した。
 真凛はそれに「ちょっと、何してんの?」と聞き返す。
 柚子も真凛の体から顔を離し、慌てて振り向いた。

「ん~? なんか柚子達の叔母さん? っぽい人が様子を見に来て、事情を説明したら、ここは私に任せて柚子の方に行ってやれって」
「叔母さんが?」
「柚子は色々なことを背負い込んですぐに無理する……って、実乃里みのりさんから聞いてたんだって」

 実乃里……母の名前に、柚子の目に更に涙が浮かぶ。
 それに真凛は小さく息をつき、ポンッと柚子の頭を撫でてから花鈴を指さした。

「ホラ、見てみ? どこぞのばかりんは自分の任務を平気でサボってこんな所に来てる」
「ちょっ……ばかりんって何さぁ! それに私は柚子を心配して……!」
「ふッ……あははっ……」

 二人のやり取りに、柚子は力無く笑い出す。
 それに花鈴はキョトンとした表情を浮かべたが、すぐに小さく笑み、柚子の体を抱きしめた。

「っ……」
「私が不真面目なんじゃなくて、柚子が真面目過ぎるの。……ホラ、私が妹の面倒を見るっていう役目をサボっても、何とかなってるでしょ?」
「……でも……」
「そりゃあ、怠けすぎるのも良くないけどさ。根詰めすぎも良くないよ?」

 花鈴の言葉に、柚子の目からまたもや大粒の涙が零れ出す。
 彼女は花鈴の服を握り締め、真凛にしたように首筋に顔を埋めて、何も言わずに泣き出した。
 それに真凛は小さく息をつき、柚子の体を挟むように、背中から抱き締める。
 強すぎる責任感に伴わない小さな体は、二人で挟むと押し潰されてしまいそうだった。
 しかし、二人は力いっぱい、泣きじゃくる柚子の体を抱き締め続けた。
 その時、ふと、互いの目が合う。
 言葉にはしなかったが、その時すでに、二人の気持ちは固まっていたのだろう。
 ただ視線を交わしただけで、二人の心は一つになった。

 すぐに無理をして、何でもかんでも一人で背負い込もうとする小さな友達を。
 自分達を双子としてではなく、それぞれ一人の人間として見てくれるかけがえのない友達を。
 ……柚子を、私達で守っていこう、と。
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