命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第4章:土の心臓編

107 花鈴と真凛の話④

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 両親の葬式を終えた後、柚子は妹二人と共に、今まで住んでいた家で三人で暮らしていくことを選んだ。
 親戚の中には三人共を引き取ると言った人もいたが、柚子はそれを断ったらしい。
 理由を聞いてみると、両親との思い出が詰まった家を手放したくなかったことや、親戚の家に行くことで転校したりして妹達にあまり負担を掛けたく無かったという考えからの決断だった。
 無論、生活費等を全部自分達で稼ぐというのは流石に不可能なので、その辺りは親戚が負担してくれるとのことだ。

 両親の死を乗り越えた後、柚子は変わった。
 元々妹のことは普通以上に可愛がっている節はあったが、両親の死をきっかけに、その愛情は妙な方向に拗れていた。
 恋愛感情とまではいかないが、妹の為に自分を犠牲にするような言動が増えていた。
 例えば、両親が亡くなるまで柚子は生徒会に所属していたが、両親の死後すぐに生徒会を辞めた。
 理由は当然、妹の面倒を見なければならない為。
 家庭環境のこともあり、それを止められる人はいなかった。

 両親がいない分、自分が妹を守らなければならないと考えるようになり、強い責任感故に妹の為に無理をするようになっていった。
 学級委員長としての仕事や学業に加えて、家では全ての家事を一人で担っており、その上家計の管理までしていた。
 花鈴や真凛が心配しても、柚子は口を開けば自分が妹を守らないといけないから、大丈夫だからと流していた。
 二人は少しでも柚子の負担が減るようにと、学級委員長の仕事を手伝ったり、柚子の家に出向いて妹の面倒を見たりした。
 責任感の強い柚子は、最初は二人の手助けを断っていたが、二人はそれを押し切ってでも柚子の手助けを強行した。

 しかし、それでも二人に出来ることには限界があった。
 妹の世話、学級委員長としての仕事、学生としての学業。
 柚子の背負った負担は膨大なもので、二人がどれだけ手助けしても、その負担を完全に軽くすることは出来なかった。
 しかし、柚子自身はその疲労を表に出すことは無く、周りに心配させないよう振る舞っていた。
 平静を装いながら一人無理を続ける柚子を、二人は傍で見ていることしか出来なかった。
 そんなこんなで三人は三年生になり、進路を選ぶ時が来た。

「柚子はもう進路とか決めたの?」

 そろそろ進路を選ぶ時期となったある日、真凛がそんな風に切り出した。
 柚子のことだから、下手したら中卒で働きだすとか言いかねないと思ったから。
 真凛の言葉に、柚子はモグモグと咀嚼していたオカズを飲み込み、「うん」と頷いた。

「私は東雲女子高等学校に行こうと思う」

 続いたその言葉に、真凛は目を見開いた。
 東雲女子高等学校と言えば、この辺りではまぁまぁ有名な私立の女子高だった。
 中卒で就職すると言い出さなかったことはまだ良かったが、てっきり公立高校を選ぶと思っていたので、二人はかなり驚いた。

「で、でも……シノジョって私立でしょ? お金掛かるよ?」
「そうなんだけど、実はあそこって特待生制度があってさ。一定以上の成績を維持していれば、学費免除とか奨学金の支給とか……結構、色々と優遇してもらえるんだよ。先生も、今の私なら余裕で特待生になれるって言ってくれているし、シノジョで特待生制度を受けるのが金銭的には一番安く済むんだ」

 驚いた様子で聞く花鈴に、柚子は淡々とした口調でそう答えた。
 それに、真凛はしばらく柚子の話を吟味した後、口を開いた。

「それって……やっぱり、妹の為?」

 オズオズといった様子で聞く真凛に、柚子は目を丸くした。
 彼女はすぐにニコッと笑い返し、「当たり前でしょ?」と答えた。

「私に掛けるお金は極力少なくして欲しいからね。これが一番良いんだよ」
「……じゃあ」
「でも、別に妹の為だけにシノジョを選ぶ訳では無いよ」

 柚子はそう言いつつ、箸を箸箱にしまう。
 空になった弁当箱を片付けながら、彼女は続けた。

「シノジョは偏差値もこの辺りでは比較的高い方だし、付属大学もあるから進学にも問題は無い。付属大学にも特待生制度はあるから、そっちの金銭面も問題無さそうだしね」
「……そうなんだ」

 納得した様子の真凛に、柚子は小さく笑い、続けた。

「心配しなくても、流石に私自身の進路についてはちゃんと自分のことを考えて決めるよ。今は特にやりたいことが無いから、金銭面と進学を踏まえて選んだの。叔父さんも、大学までの金は出すから、金銭面は気にしなくても良いって言ってくれてるし」

 柚子はそう言うが、二人の中ではどうしても不安が拭えなかった。
 妹の上の子は中学生に上がるので、そのことでまた色々と悩むこともあるだろう。
 それだけでなく、高校に上がれば今以上に勉強を頑張らなくてはならない上、特待生として一定以上の成績を維持しなければならない。
 しかも、柚子は少しでも妹の見本になる為にと、学級委員長という立場に拘りを持っている部分がある。
 このままでは、高校生になったら今以上に自分を犠牲にして無理をするのが目に見えていた。

 だから、花鈴と真凛も、柚子と同じ高校に進学することを決めた。
 花鈴は馬鹿に見えるが勉強自体は真凛と同じくらい出来たし、二人の学力なら特待生とまでは行かなくとも、入学自体は余裕で合格圏内に入っていた。
 そうして、三人は無事に東雲女子高等学校へと入学し、高校生になった。

 高校は、中学までとは大きく違った。
 と言うのも、学年内には東雲理沙という生徒がおり、彼女は理事長の孫という立場を利用して学年内で独裁国家を築いていたのだ。
 クラスも違ったし、それだけなら関わらないようにすれば良い話だが、彼女は六月頃から最上友子という生徒を虐め出した。

 柚子は妹への愛を拗らせたシスコンではあるが、それ以前に強い正義感のある心を持った人だ。
 むしろ、今ではその正義感に『妹の手本となる為』という大義名分が付くことで、より拍車が掛かっていた。
 もしも柚子がイジメに気付いたら、自分が次のターゲットになることすら厭わずに、理沙に歯向かってイジメを止めさせようとするだろう。
 花鈴と真凛はいつ二人が衝突するかとヒヤヒヤしていたが、クラスが違う内はイジメの現場に出会うことも無く、平穏に一年を送ることが出来た。

 だが、二年生になった時……二人は同じクラスになってしまった。
 同じクラスでは、いつ柚子が友子へのイジメに気付くか分かったものではない。
 そうでなくとも、イジメを抜きにしても理沙の素行はあまり良いものでは無く、度々二人がぶつかることはあった。
 他の生徒と違って真正面から自分に正論をぶつけてくる柚子に、彼女を敵に回したら色々と面倒だと考えているのか、理沙もイジメのことは柚子に知られないように動いている様子だった。
 柚子以外の他の生徒もそれに気付いているようで、理沙の怒りの矛先が自分に向くことを恐れ、柚子に告げ口するような真似はしなかった。

 ……花鈴と真凛は、理沙の怒りの矛先が自分達に向くことを恐れたわけでは無かった。
 仮に自分が次のイジメの標的になったとしても、少なくとも片割れは絶対に自分の味方をしてくれる。一緒に立ち向かってくれる相棒がいる。
 だから、理沙に目を付けられることは全く怖くなかった。

 ただ、二人は柚子の負担をこれ以上増やしたく無かった。
 勉学と妹の世話の両立で手一杯な柚子に、これ以上無理をさせるわけにはいかなかった。
 正義感の強い柚子が友子へのイジメに気付けば、そのイジメを解決しようとするのが目に見えている。
 全ての責任を自分一人で背負いたがる柚子のことだ。きっと、自分達が助けようとしても、責任感故に断るのだろう。

 それが分かっていた二人は、イジメの存在が柚子に知られないように努めた。
 常にどちらか片方は柚子と共に行動し、柚子がイジメの現場に出くわしそうになったら自然な形でその場を離れさせる。
 幸いにも二年生で同じクラスになった猪瀬こころという生徒が、理沙に目を付けられない程度に友子と親しくしていた為、イジメの存在どころか友子の孤立が勘付かれることも無かった。
 このままクラスが変わるまでは、絶対に柚子の負担を増やすまいと、二人は動いていた。

 だが、もうすぐ二年生も終わるという一月の下旬に、異世界に召喚された。
 召喚された中には友子や理沙もおり、紆余曲折あってイジメの存在も柚子に知られた。
 責任感の強い柚子は、イジメの存在に気付けなかった自分を責め……イジメを黙認していた花鈴と真凛に対して、失望していた。
 友子からイジメの存在を聞き、彼女にはアリバイがあるから葵を殺すことは出来なかったと柚子が皆に言った時……彼女はずっと、花鈴と真凛を見つめていた。

 信じられないと、信頼が地に落ちたような目で、柚子は終始二人を見ていた。
 他のクラスメイトもいたし、直接的に非難するような言葉こそ使ってはいなかった。
 だが、冷淡な口調で紡がれた突き放すような言葉は、完全に二人に向けられたものだった。
 あの後部屋を出る柚子を、真凛は止めようとした。
 だが……止められなかった。
 柚子が自分達に向けた失望の目が想起して、自分には……自分達には、柚子を止める資格がないことを痛感してしまったから。
 例え自分達がイジメの存在を黙認していた理由を柚子に話しても、きっと彼女は許さない。
 どんな理由があろうと、自分達が過ちを犯したことに変わりは無いのだから。

 しかし、それでも尚、二人は柚子の傍にいることを選んだ。
 今更、彼女の友達を名乗ることなど、おこがましいことなのかもしれない。
 しかし、例え柚子が自分達を許さなくても、それでも柚子を支えたかった。
 あの日……両親を亡くし、腕の中で涙を流し震えた小さな体を抱きしめた時から、二人の心は決まっていた。
 柚子を守るのだ、と。支えるのだ、と。

 だが、現実は非情だった。
 いざ心臓の守り人と戦ってみれば、一方的に打ちのめされ、怪我をして武器を握ることすらできなくなった挙句に柚子に守られた。
 柚子がボロボロになっても自分達に出来ることは無く、最終的には自分達の宿敵であるはずの魔女に助けられる始末。
 同じように守られていた友子は、魔女の仲間が作った氷の壁をぶち破ってでもこころを助けに行った。
 ……守られているだけだった自分達とは、違った。

 異世界に来てから、自分達は柚子の足を引っ張ってばかりで、全く役に立てていない。
 ギリスール王国へと帰還する中で、二人はずっと悔やみ続けた。
 こんな結果の為に、二人は柚子の傍にいることを選んだわけでは無い。
 柚子を守りたかったから。柚子が無理して自分を犠牲にするのを、止めたかったから。
 しかし、結局自分達は柚子を守るどころか守られ、無理をさせてしまった。

 友子のこともそうだ。
 彼女が葵を殺した犯人であることは、すぐに気付いていた。
 葵が殺された夜、トイレに行っていた花鈴は、葵の部屋から武器を片手に出てくる友子を目撃していた。
 慌てた様子で出ていく友子を不審に思いつつも、その時は気にしなかったが……翌日、葵が遺体となって発見された時、花鈴はすぐに友子が犯人であると確信していた。
 しかし、クラスメイトの咲綾が動転して自分を疑ってきた上に、柚子が友子は犯人では無いと断言してしまった為に言い出すことが出来なかった。

 その後、すぐに花鈴は真凛に、友子が犯人である旨を説明した。
 柚子が友子と行動を共にする理由は謎だったが、友子の偽装工作が上手くいって騙されているのか、学級委員長としての責任感で友子を監視しているのかの二択であろうと判断した。
 どちらにせよ、柚子が友子と二人で行動するのは危険だと判断した花鈴と真凛は、考えた末に無理を言って柚子と友子に同行させてもらうことにした。
 自分達が行動を共にすることで、柚子と友子が二人きりになる時間を減らし、柚子の危険を減らそうとした。
 そして、あわよくば柚子から友子を引き離し、柚子の負担を減らそうとした。

 だが、元々イジメを黙認していた自分達に、今更友子が意識を向けることは無かった。
 それどころか、柚子も表面上は親しくしつつも、今までのように自分達に心を開くことは無かった。
 一度失った信頼を取り戻すことは難しく、結局は二人から距離を置きつつ、友子が柚子に危害を加えるような真似をしないように気を配ることしか出来なかった。
 加えて、アラン戦での失態。
 二人の行動は、完全に空回りしていた。

「私達……これからどうすれば良いのかな」

 城の一室。
 電気も点いていない暗い部屋の中で、ベッドに腰かけた花鈴は、そう呟いた。
 それに、隣に並んで腰かけている真凛は答えない。
 廊下の外では何やら騒ぎが起きているようで、扉越しに騒音が聴こえてきていた。
 しかし、二人がそれを気にする素振りは無い。
 真凛は拳を強く握り締め、口を開く。

「私達がやるべきことは、変わらない。……柚子を、支える」

 その言葉に、花鈴は静かに目を伏せた。
 ……自信が無かった。
 アランに一方的に打ちのめされた記憶が脳裏に焼き付き、成功のビジョンを奪っていた。
 花鈴の場合、それに加えて友子が葵を殺した犯人であることを知っていながら言えなかったことや、友子の気を引こうとして全く相手にされなかったこともある。
 柚子の為にと行動したことは全て空回り、上手くいかなかった。

「……大丈夫だよ」

 すると、そんな声と共に、真凛の方に置いていた手を握られた。
 顔を上げると、真凛が真っ直ぐこちらを見つめていた。

「強くなろう。二人で」

 真凛はそう言いながら花鈴の指に自分の指を絡め、ギュッと強く握る。
 彼女の言葉に、花鈴は目を丸くして息を呑んだ。
 それに、真凛は小さく笑みを浮かべ、続けた。

「花鈴は一人じゃない。私がいるよ。……二人で強くなって、今度こそ柚子を守ろう」
「……そうだね。私達は、二人で一つだもんね」

 花鈴はそう言いながら、真凛の手を握り返した。
 それから、どちらからということもなく、コツンと額を合わせた。
 一人で上手くいかなかったなら、二人でやれば良い。
 だって、二人は生まれた時からずっと一緒の、双子なのだから。
 守りたい物が同じなら、二人で支え合いながら守っていけば良い。

 花鈴の右手と、真凛の左手。
 絡められた双子の手の薬指に、それぞれはめられた指輪の宝石が、窓から差し込む淡い月光を反射して僅かに光った。

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