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第1章:奴隷契約編
018 予想外の変化
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部屋に戻って、すぐにリートは準備を再開した。
不思議なもので、準備している荷物は膨大なものだというのに、それらを入れている袋は小さなものだった。
聞いてみると、その袋はこれまた死んだ冒険者から拝借したもので、魔法を使って袋の中の空間を捻じ曲げた魔道具らしい。
……なんていうか、追剥をすることに躊躇が無いよなぁ……。
「さて、こんなものかのぅ」
「あの……結局、私の力を強くする道具っていうのは……」
準備が終わったタイミングを見計らって、私はそう声を掛けてみた。
すると、リートはキョトンとした表情でこちらに振り向き、数秒程間を置いて「あぁ」と呟くように言った。
「そうじゃった。忘れておったわ」
「忘れてたって……」
「それじゃあ指輪を付けるから、手を出せ」
彼女はそう言いながら、指輪を片手にこちらに手を差し出す。
ひとまず両手を出してみると、リートはチラリと右手を見てから、私の左手を取った。
それからすぐに薬指に指輪をはめようとしてくるものなので、私は咄嗟に「ちょぉッ!?」と声を上げながら手を引っ込めた。
すると、彼女はこれまたキョトンとした表情を浮かべ、「何じゃ?」と聞き返してきた。
「急に変な声を上げてどうした?」
「いや、だって、さっきの指……」
「……? 指がどうかしたか?」
「だって、さっきの指って、けっ……」
そこまで言って、私は言葉を詰まらせた。
……結婚指輪、と言いかけて、すんでのところで黙った。
良く考えてみれば、ここは異世界で、恐らくだがその結婚指輪という概念も無いのだろう。
大体、冷静になって見れば、こんな同性相手に結婚指輪なんて意識する方がどうかしている。
オマケに相手は三百年以上生きている魔女だぞ? 考えるまでもない。
一人悶々としていると、リートは小さく溜息をつき、口を開いた。
「お主……人間の指で最も必要の無いものはどれか、分かるか?」
「えっ……」
突然の質問に、私はしばし硬直した。
人間の指で必要の無いもの……?
質問の意図が分からずにフリーズしていると、リートは続けた。
「言い方を変えれば、失っても最も問題の無い指、かのぅ」
「……小指……ですか……?」
「違う」
私の予想を、リートはバッサリ切り捨てた。
行間を空けることすら勿体ないと云わんばかりの即答っぷりに、なんだか悲しくなる。
ショックを受けている間に、彼女は私の右手を手に取り、指輪を付けている薬指をトントンと軽く叩いた。
「正解は薬指じゃ。じゃから、一番使わん指に指輪を付けてやろうと思ったが、右手の薬指にはもう指輪があるから、左手につけるしか無かろう?」
「……なるほど……」
「ちなみに小指は無くすと50%以上の力が出なくなると言われておる」
「……」
完全に論破されたことを悟った私は、無言で左手を差し出した。
するとリートは小さく笑みを浮かべ、左手を取り薬指に指輪をはめた。
……まぁ、クラスメイトの中には左利きの為に左薬指に指輪が付いている生徒もいたし、意識するだけ無駄か。
二重の指輪がはめこまれていくのを見つめながら、そんな風に考える。
やがて、指輪は薬指の奥まではま──
「……ッか……!?」
──ったところで、突如指輪から何かが流れ込んでくるのを感じた。
私は胸を押さえながらその場に蹲り、体中が燃えるような熱気を必死に耐える。
視界の隅で、リートにつけられた指輪の宝石が、それぞれ白と赤に光っているのが分かった。
そして、この世界に来たばかりの時に、指輪で力を引き出した時のことを思い出す。
あの時の感覚に少し似ているが、今感じているそれは比にならない。
血流がマグマへと変わり、体中を駆け巡っているような感覚。
皮膚の内側が、筋肉から骨の髄、臓器の奥底までも全てが溶けていっては再構築されていくような感覚。
細胞が作り替えられていく。体の中が変わっていく。
熱さのあまりに目の前がチカチカと明滅し、心臓の激しい音が脳に響く。
その時、背中に誰かの手が添えられるのが分かった。
……いや。誰のものかなんて、考えるまでも無いか。
その手は私を安心させるように、何度も優しく背中を擦る。
くっそ……そもそも私がこうやって苦しんでいるのは、誰のせいだと思っているんだ……。
心の中でそう毒づくも、その手で少しだけ安心してしまった自分がいたのが癪だった。
「はーッ……はーッ……」
どれくらい経った頃だろうか。
ようやく熱が引いていくのを感じながら、私は荒い呼吸を繰り返す。
しかし、体中が汗でビショビショになり、まるでバケツの水を頭からかぶったようだった。
裸の上にローブを羽織っているだけなので、そこまで不快になるほどではないが、それでもかなりの疲労を感じていた。
前髪を掻き上げると、髪も汗でベタベタしているのが分かった。
すると、目の前でリートが目を丸くして私を見ているのが分かった。
「……? どうかした?」
「いや……思っていたよりも見た目に変化が出たと思ってな」
その言葉に、私は咄嗟に鏡を探す。
しかし、この場所にそんな贅沢なものは無かったので、ひとまず近くの壁に視線を向けた。
紺色の岩は光沢があり、覗き込めば辛うじて鏡代わりに出来た。
少しの間壁を見つめた私は、自分に起こった変化に気付き、自分の髪に手を当てながら口を開いた。
「……髪が……白くなってる……?」
「目も赤色になっておるのぉ……これは予想外の変化じゃ」
リートの言葉に、私は壁に映り込む自分をまじまじと見つめた。
目の色は流石に元々の壁の色があるため分かりにくいが、言われてみれば、確かに赤くなっている気がした。
白髪に赤目……アルビノ? と一瞬考えるが、先程付けた指輪が東雲と葛西の物であることを思い出して、すぐに納得した。
東雲は髪と目が白くなっていたし、葛西は赤くなっていた。
多分これは、二人がそれぞれ指輪を付けた時の髪色や目の色を反映しているのだろう。
そこで、そもそもこの指輪を付けた理由が、私の能力の増強であることを思い出した。
私はすぐに右手の指輪に力を込め、ステータスを表示した。
名前:猪瀬こころ Lv.93
武器:奴隷の剣
願い:リートの奴隷になりたい。
発動条件:リートを守っている間のみ力を発揮できる。
HP:9300/9300
MP:8540/8540
SP:7630/7630
攻撃力:9300/0
防御力:9300/0
俊敏性:9300/0
魔法適性:0/0
適合属性:火、水、土、林、風、光、闇
スキル:ソードシールド(消費SP5)
ダークソード(消費SP7)
コンフューズソード(消費SP9)
ファントムソード(消費SP15)
バニシングソード(消費SP20)
シャドウタック(消費SP25)
ダークネスリマイン(消費SP25)
ディスピアーブレイク(消費SP30)
スピリットディストラクション(消費SP40)
「な、何これ……?」
目の前に並ぶステータスに、私は呆然とした。
突然約三倍に跳ね上がったレベルに、数値もかなり高くなっている。
しかし、私はそれよりも気になる部分があった。
「……奴隷の剣って何……?」
「そりゃあ、これから妾の奴隷になるんじゃから、それ用の能力にするじゃろう」
私の呟きに答えるように、背後からリートがそう言ってくるのが聴こえた。
それに振り向くと、彼女は私を見下ろしながら続けた。
「その指輪の中にあった色々な力を全てお主の力に還元されるように、少し改造してみたのじゃ。無論、お主の指輪の方もその力を受け入れられるように、少し色々と弄らせて貰ったぞ」
「……何でも出来るんですね」
サラッと説明するリートにそう言いながら、私はフラフラと立ち上がる。
まだ少し倦怠感はあるが、彼女が奴隷の療養を待ってくれるほど律儀な人にも思えないので、立ち上がる他無かった。
そんな私の言葉に、リートは少しだけ目を丸くしてから、フイッと視線を逸らした。
「別に……時間があったから、知識が豊富なだけじゃ。あと、妾にも出来ることと出来んことがある」
「……例えば?」
「ふむ……説明は歩きながらしよう。良い加減、このインキ臭い場所からも出て行きたいしのう」
そう言いながら、彼女は私の手首を掴んで歩き出す。
私は彼女に引っ張られる形で、部屋を出た。
不思議なもので、準備している荷物は膨大なものだというのに、それらを入れている袋は小さなものだった。
聞いてみると、その袋はこれまた死んだ冒険者から拝借したもので、魔法を使って袋の中の空間を捻じ曲げた魔道具らしい。
……なんていうか、追剥をすることに躊躇が無いよなぁ……。
「さて、こんなものかのぅ」
「あの……結局、私の力を強くする道具っていうのは……」
準備が終わったタイミングを見計らって、私はそう声を掛けてみた。
すると、リートはキョトンとした表情でこちらに振り向き、数秒程間を置いて「あぁ」と呟くように言った。
「そうじゃった。忘れておったわ」
「忘れてたって……」
「それじゃあ指輪を付けるから、手を出せ」
彼女はそう言いながら、指輪を片手にこちらに手を差し出す。
ひとまず両手を出してみると、リートはチラリと右手を見てから、私の左手を取った。
それからすぐに薬指に指輪をはめようとしてくるものなので、私は咄嗟に「ちょぉッ!?」と声を上げながら手を引っ込めた。
すると、彼女はこれまたキョトンとした表情を浮かべ、「何じゃ?」と聞き返してきた。
「急に変な声を上げてどうした?」
「いや、だって、さっきの指……」
「……? 指がどうかしたか?」
「だって、さっきの指って、けっ……」
そこまで言って、私は言葉を詰まらせた。
……結婚指輪、と言いかけて、すんでのところで黙った。
良く考えてみれば、ここは異世界で、恐らくだがその結婚指輪という概念も無いのだろう。
大体、冷静になって見れば、こんな同性相手に結婚指輪なんて意識する方がどうかしている。
オマケに相手は三百年以上生きている魔女だぞ? 考えるまでもない。
一人悶々としていると、リートは小さく溜息をつき、口を開いた。
「お主……人間の指で最も必要の無いものはどれか、分かるか?」
「えっ……」
突然の質問に、私はしばし硬直した。
人間の指で必要の無いもの……?
質問の意図が分からずにフリーズしていると、リートは続けた。
「言い方を変えれば、失っても最も問題の無い指、かのぅ」
「……小指……ですか……?」
「違う」
私の予想を、リートはバッサリ切り捨てた。
行間を空けることすら勿体ないと云わんばかりの即答っぷりに、なんだか悲しくなる。
ショックを受けている間に、彼女は私の右手を手に取り、指輪を付けている薬指をトントンと軽く叩いた。
「正解は薬指じゃ。じゃから、一番使わん指に指輪を付けてやろうと思ったが、右手の薬指にはもう指輪があるから、左手につけるしか無かろう?」
「……なるほど……」
「ちなみに小指は無くすと50%以上の力が出なくなると言われておる」
「……」
完全に論破されたことを悟った私は、無言で左手を差し出した。
するとリートは小さく笑みを浮かべ、左手を取り薬指に指輪をはめた。
……まぁ、クラスメイトの中には左利きの為に左薬指に指輪が付いている生徒もいたし、意識するだけ無駄か。
二重の指輪がはめこまれていくのを見つめながら、そんな風に考える。
やがて、指輪は薬指の奥まではま──
「……ッか……!?」
──ったところで、突如指輪から何かが流れ込んでくるのを感じた。
私は胸を押さえながらその場に蹲り、体中が燃えるような熱気を必死に耐える。
視界の隅で、リートにつけられた指輪の宝石が、それぞれ白と赤に光っているのが分かった。
そして、この世界に来たばかりの時に、指輪で力を引き出した時のことを思い出す。
あの時の感覚に少し似ているが、今感じているそれは比にならない。
血流がマグマへと変わり、体中を駆け巡っているような感覚。
皮膚の内側が、筋肉から骨の髄、臓器の奥底までも全てが溶けていっては再構築されていくような感覚。
細胞が作り替えられていく。体の中が変わっていく。
熱さのあまりに目の前がチカチカと明滅し、心臓の激しい音が脳に響く。
その時、背中に誰かの手が添えられるのが分かった。
……いや。誰のものかなんて、考えるまでも無いか。
その手は私を安心させるように、何度も優しく背中を擦る。
くっそ……そもそも私がこうやって苦しんでいるのは、誰のせいだと思っているんだ……。
心の中でそう毒づくも、その手で少しだけ安心してしまった自分がいたのが癪だった。
「はーッ……はーッ……」
どれくらい経った頃だろうか。
ようやく熱が引いていくのを感じながら、私は荒い呼吸を繰り返す。
しかし、体中が汗でビショビショになり、まるでバケツの水を頭からかぶったようだった。
裸の上にローブを羽織っているだけなので、そこまで不快になるほどではないが、それでもかなりの疲労を感じていた。
前髪を掻き上げると、髪も汗でベタベタしているのが分かった。
すると、目の前でリートが目を丸くして私を見ているのが分かった。
「……? どうかした?」
「いや……思っていたよりも見た目に変化が出たと思ってな」
その言葉に、私は咄嗟に鏡を探す。
しかし、この場所にそんな贅沢なものは無かったので、ひとまず近くの壁に視線を向けた。
紺色の岩は光沢があり、覗き込めば辛うじて鏡代わりに出来た。
少しの間壁を見つめた私は、自分に起こった変化に気付き、自分の髪に手を当てながら口を開いた。
「……髪が……白くなってる……?」
「目も赤色になっておるのぉ……これは予想外の変化じゃ」
リートの言葉に、私は壁に映り込む自分をまじまじと見つめた。
目の色は流石に元々の壁の色があるため分かりにくいが、言われてみれば、確かに赤くなっている気がした。
白髪に赤目……アルビノ? と一瞬考えるが、先程付けた指輪が東雲と葛西の物であることを思い出して、すぐに納得した。
東雲は髪と目が白くなっていたし、葛西は赤くなっていた。
多分これは、二人がそれぞれ指輪を付けた時の髪色や目の色を反映しているのだろう。
そこで、そもそもこの指輪を付けた理由が、私の能力の増強であることを思い出した。
私はすぐに右手の指輪に力を込め、ステータスを表示した。
名前:猪瀬こころ Lv.93
武器:奴隷の剣
願い:リートの奴隷になりたい。
発動条件:リートを守っている間のみ力を発揮できる。
HP:9300/9300
MP:8540/8540
SP:7630/7630
攻撃力:9300/0
防御力:9300/0
俊敏性:9300/0
魔法適性:0/0
適合属性:火、水、土、林、風、光、闇
スキル:ソードシールド(消費SP5)
ダークソード(消費SP7)
コンフューズソード(消費SP9)
ファントムソード(消費SP15)
バニシングソード(消費SP20)
シャドウタック(消費SP25)
ダークネスリマイン(消費SP25)
ディスピアーブレイク(消費SP30)
スピリットディストラクション(消費SP40)
「な、何これ……?」
目の前に並ぶステータスに、私は呆然とした。
突然約三倍に跳ね上がったレベルに、数値もかなり高くなっている。
しかし、私はそれよりも気になる部分があった。
「……奴隷の剣って何……?」
「そりゃあ、これから妾の奴隷になるんじゃから、それ用の能力にするじゃろう」
私の呟きに答えるように、背後からリートがそう言ってくるのが聴こえた。
それに振り向くと、彼女は私を見下ろしながら続けた。
「その指輪の中にあった色々な力を全てお主の力に還元されるように、少し改造してみたのじゃ。無論、お主の指輪の方もその力を受け入れられるように、少し色々と弄らせて貰ったぞ」
「……何でも出来るんですね」
サラッと説明するリートにそう言いながら、私はフラフラと立ち上がる。
まだ少し倦怠感はあるが、彼女が奴隷の療養を待ってくれるほど律儀な人にも思えないので、立ち上がる他無かった。
そんな私の言葉に、リートは少しだけ目を丸くしてから、フイッと視線を逸らした。
「別に……時間があったから、知識が豊富なだけじゃ。あと、妾にも出来ることと出来んことがある」
「……例えば?」
「ふむ……説明は歩きながらしよう。良い加減、このインキ臭い場所からも出て行きたいしのう」
そう言いながら、彼女は私の手首を掴んで歩き出す。
私は彼女に引っ張られる形で、部屋を出た。
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