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第九章

第283話 いざ、嫁を連れ戻しに!

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「ヤーミ魔王国。ここから北方に行った先だ。君たちには何一つしてやれなかったからな。せめて、途中まで送ろう」
「途中まで? いや、送るって言われても、俺たちダンガムで……」

 ダンガムで飛んでいくから送ってもらう必要もないと言おうとした瞬間、アウリーガが詠唱を唱え、掌が輝きだした。

「神聖魔法の一つ、空間転移だ」
「空間転移だと?」

 それは、かつてマニーやタイラーが使っていた、ワープの一種。
 さすがは腐っても元勇者。そんな大魔法をサラッと言ってくれる。
 ウラがアイテム使って転移したみたいだけど、これならすぐ追いつける。

「ほほう、それは便利だゾウ。聖騎士に仕えていただけのことはあるゾウ」
「ひはははは、まあ、つってもマニーちゃんの劣化版能力だけどな」
「味気ね~、旅ってのは道中楽しむもんなのに、目的地ついてどーすんじゃん?」
「マッキーくん、アルテアさん、これは遊びではないのだけれど?」

 アウリーガの心遣い。そして、何となくだけど、空気が今生の別れのような雰囲気になっていた。
 誰もそれを口に出さないが、そもそもこのスモーキーアイランドは、俺たちが足を踏み入れて荒らしていい場所じゃねえ。
 外の世界で生きる気のある奴は、この地に居ちゃならねえ。

「待つであります! その空間転移は、もう一人増えても大丈夫でありますか?」

 その時、一人の魔族が俺たちを呼び止めた。
 それは、赤毛そばかすのカウボーイハットのガンマン。
 ウラの部下である魔人族の女。名は、『ルンバ』。
 俺にとっても顔見知りだ。まあ、向こうはまるで俺のことは覚えてねえがな。

「貴君らの目的や、エルジェラ皇女の夫であるあなたが、どうしてウラ姫様にまで手を出そうとしているかは不明でありますが、姫様のもとへ向かうというなら、私も同行させて欲しいであります」

 まあ、当然だよな。家出した主君の下へと俺たちが行こうとしてるんだ。
 こいつがついてきたいと思うのは当然のことだ。

「待て、ルンバ、それなら我々も行くナリ」
「相手はヤーミ魔王国。七大魔王国家である以上、我々も態勢を整えて行く必要があるでしょうが」
「いや、ここは私一人で十分であります。それよりも、ラブ・アンド・ピースの魔族側がサミット前の準備に誰一人行かないことの方が問題であります。姫様は必ずサミット開催日までには連れてくるであります」

 とは言うものの、魔人族の連中は全員ウラの下へと行きたそうな顔をしている。
 ルンバの言っていることは分かってはいるのだろうが、それでも簡単に頷けないといった表情だ。

「おいおい、これ以上人数増えられても困るんだが」
「邪魔にはならないであります。どうか、ウラ姫様のために! もし姫様になにかあれば、亡き『イルマ王妃』、そして魔王シャークリュウ様に顔向けできないであります!」

 シャークリュウ。その名前が出ると、俺たちも心を動かさざるを得ない。

「なるほどね~、ひはははは、パナイ泣かせる話だね~」
「魔王シャークリュウ……お墓参りしたばかりだものね」
「あたしは、あんま覚えてねえけど、まあ、ほっとけないしな」
「ワシらは、その名前を出されると、断れないのう」

 あいつの名前を出されるなら仕方ねえ。まあ、一人だけなら構わねーかと、俺たちは了承の意味も込めて頷いてやった。

「ロアーラ、俺らはどうする?」
「我々まで行っても仕方あるまい。ウラ姫のことはエルジェラに任せ、我々天空族もサミットに前乗りしたほうが良いだろう。エルジェラ、お前も期日までにはちゃんと帰ってくるのだぞ?」
「わかっています、お姉さま」

 とりあえず、タイムリミットが決まっている。
 サミットなんか正直どうでもいいが、それを台無しにすると色々と世界もめんどくさい事になりそうだ。
 俺たちはダンガムへと乗り込み、アウリーガに合図を送った。

「えへへへ、パッパとマッマ!」
「こうなってたのか」
「そうですね。多分、胸部の部屋はもう少し広くなっているかと思いますが、まあ、コスモスの想像力ではここが限界でしょう」

 ダンガムの頭部のコクピット内は意外と広かった。というより、コクピットというより、ただの部屋だった。
 そもそも、ダンガムは操縦ではなく、コスモスの意思に反映されて動くために、内部はすっからかんだった。
 作りは単調であり、スペースと下の部屋へと続く梯子があるだけ。
 だが、それでもコスモスはこの空間を家族の部屋と認識しているのか、部屋の中を嬉しそうに走り回った。

「味気ねーな」
「ふふ、そうでもないと思いますよ? こうして身を寄せれば…………」
「お、おお」
「何もない空間が、とても幸せな空間へと早変わりです」

 俺の腕に自分の体を絡ませて、身を預けてくるエルジェラから、柔らかさと良い匂いがした。昨晩、あれだけ堪能したのに、いつまでも新鮮な気持ちになる。
 
「ヴェルト様」
「お、う」
 
 なんか、照れる俺の耳元に口を近づけ、微笑みながらエルジェラは呟いた。

「ウラさんが戻ってきたら、昨晩の続きを……最後までお願いしますね♡」

 最後までいいんですか!?

「もう、嫌ですわ、私ったらはしたない…………でも、覚えておいてくださいね? なんなら、ウラさんとアルーシャ姫も交えて三人一緒でも構いません♪」

 これだよ。この、天使のスマイルから、若干イタズラの混じった微笑みが反則なんだよ。
 昨晩はほんとこれに飲み込まれちまったからな。ウラが現れなければ、絶対最後までヤッてた自信がある。

「あー、マッマとパッパ、チュッチュしてる!」
「ええ、そうよ。パッパとマッマは仲良しなのよ」
「む~~~、コスモスもー! コスモスもチュッチュ!」
「あらあら、おませさんね。そうね~、パッパに頑張ってもらいましょうね」
「そーだよ~、パッパはコスモスのこと大好きなんだから、いっぱいチュッチュ!」

 この感覚、懐かしいな。

「今は家族三人だけですが、それでも幸せですね」

 昔からエルジェラは、天然でこういうことをサラッと言ってくるし、スキンシップしてくるからな。
 顔に出すと余計にニコニコしてくるから、気をつけねーとな
 
「そんじゃ、行くっしょ! これ以上はアルーシャちゃんが般若みたいな顔して天井突き破っちゃうから」
「ヴェルト君、私たちも大丈夫よ! あと、エルジェラ皇女、ちゃんと聞こえているから、気をつけるように。あなたたち三人だけではないのだから」
「おーい、ヴェルト! 声よく聞こえるから、エルっちに夜の営みんときは、大声出すなって言っとけよな~! リアルギシアンとかチョー勘弁」
「お兄ちゃん、僕は耳を塞いで寝てるからね」

 下から声が聞こえてきた。どうやら、大声を出せば反響して、部屋越しでも十分に声が聞こえるようだ。
 これなら部屋が隔たれてもコミュニケーション取りやすい。

「よし、アウリーガ、頼んだ! 魔族大陸へ特急ダンガムを発射させてくれ」

 真下に居るアウリーガに声を上げ、アウリーガは頷いて詠唱する。
 すると、アウリーガの描いた魔法陣から淡い光が漏れだし、ダンガムを包むような風が巻き起こった。
 淡く輝きだした光が渦を巻く。渦巻いた光が自分たちを引き寄せようとする。


「ゆくぞ! チチンプイプイ、オープンセサミ!」


 目の前に現われた光の渦から発する風が、勢いを増した。

「お、おお!」
「キレーだね、パッパ、マッマ」

 光の渦に吸い寄せられ、そのまま中に飲み込まれてしまった。

「じゃあな、アウリーガ!」
「またいつか、会いましょう!」
「ひははははは、まっ、くたばってたらウケるけど!」
「んじゃーな!」
「達者での」
「See you again!」

 光の渦の中、まるで無重力のように体が浮き上がる感覚。
 上下左右、どこまで吸い込まれても壁も天井も見当たらぬ世界。
 
「……『カイレ様』……彼らはきっと、あなた方にも負けない。私が奪った彼らの未来も、彼らはこの世界ではどこまでも繋いでくれる」

 外の世界と繋がる空間が完全に閉じかけたとき、最後にアウリーガが呟いていた。
 そして、次元の異なる空間に放り出された俺たちだが、そんな中でエルジェラは俺に身を寄せながら呟いた。

「ふふ、三人もいいですけど、ウラさんが戻ってきたら、もっと幸せになるでしょうね。そう思うでしょ? コスモス」
「ウラちゃんも?」
「ええ、ウラさんもコスモスの家族になってくれるのよ?」
「ほんとー?」

 おい、ウラ本人が居ないのに、何を勝手に話を進めて…………まっ、いっか。

「ああ、そうだな。ウラもお前の家族になる」
「そうなのー! やたー! ウラちゃんも家族家族! オネーチャンの言ってたとおりだ! パッパ、あのね、コスモス妹が欲しい!」

 ん? オネーチャン? って、確かそれって!
 小躍りしてるコスモスの言葉に俺が引っかかったとき、コスモスは嬉しそうに言った。


「オネーチャン言ってたよ。あのね、パッパに頼めば家族増えるんだよって。そしたら、今よりもっとみんなニッコニッコだって」

「おい、そのオネーチャンって……他に何か言ってたか? いや、それよりいつ会ったんだ? どういうやつだったんだ?」


 そうだ。そのオネーチャンは一体何者なのか、俺は少し興奮気味にコスモスに尋ねた。
 一気に問いただされるコスモスはアワアワしながら答えた。

「オネーチャンね、おもしろい人!」
「面白い……………………?」
「あとね、コスモスが妹が欲しければ、パッパとマッマと、家族になって欲しい人に頼むんだよって、教えてくれたの。パッパが断ったら、おこって言って、それでもダメなら、げきおこぷんぷんまるって言うと、大丈夫って教えてくれたの」

 どこのどいつだ、そんなヘンテコなこと教えやがったのは!

「でも、アヤセちゃんって人には頼んじゃメッて言ってたよ。なんかね、その人は、くーきよめ子ちゃんで、パッパをひとり占めにしようとするワルい人なんだって」

 ……なんだろうな……自分でも目が点になったと分かるくらい呆けてしまい、その間に新たな世界へと続く扉と光が見えてきた。

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