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第九章

第284話 ゴリゴリ力押し

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 空間のねじ曲がった異次元空間から飛び出した俺たちの目の前には、光り輝く青い空とコバルトブルーの海が広がっていた。
 ヘドロの海とは打って変わって、楽園のような美しい光景に目を奪われていた矢先のことだった。

「なんなんだよ、この巨大なドクロ海獣は!」

 ドクロ海獣。正にその通りだった。
 異次元空間から飛び出したダンガムが海へ着水しようとした瞬間、巨大な飛沫とともに、美しい海中から全身が骨のみで構成された大蛇のような物体が飛び出し、問答無用でダンガムに絡みついた。

「ちょっ、いきなり何っしょ!」
「バカな、こんな息付く間もなく、どうして!」
「まだ陸地から相当離れているのに、っ、お兄ちゃん、コスモスに伝えるんだ! 全力で引き剥がせと!」

 分かってる。俺は下の部屋から聞こえる仲間たちの驚く声に頷きながら、コスモスを抱きかかえた。

「コスモス! 急で悪いが、あいつをコテンパンにやっつけろ!」
「大丈夫、コスモス。パッパとマッマがあなたについているわ。だから、心置きなく開放しなさい」
「ひっ、う、わう、こわいけど………ん、わかった。コスモス、ちょーつよいもんね」

 全身を巨大な骨蛇に絡みつかれたダンガムの全身にエネルギーが行き渡る。
 コスモスの底知れぬ力を漲らせたダンガムが全身から衝撃波のようなエネルギーを爆発させ、絡みついた骨蛇を引き剥がした。

「おお、すげーじゃん、コスモスっち!」
「親はゴミだが、娘は宝だな」
「しっかし、なんなんや、あのアンデットは!」
「緊急事態であります!」
「あのような巨大なアンデットが居るとは、驚きだゾウ」

 十階建ての建物ぐらいの大きさはあるダンガムの全身に絡みつき、一瞬とはいえ動きを奪った巨大な海獣。
 全長は分からないが相当でかいぞ? なんなんだ? あの化物は。いや、何の化物の化石だ?

「どーなってんだこりゃ? スモーキーアイランドに居た蛇の親戚か?」

 だが、自分で言ってて「少し違う」と気づいた。
 まず、ただの蛇じゃない。骨になっているが、翼が見える。
 それに、頭部には鋭い角が一本生えている。じゃあ、なんだ?

「けっ、見張りのアンデットか、おもしれえ! コスモスに戦わせるまでもねえ! 俺様がぶっ殺す! コスモス、入口を開けろ!」

 おお、頼もしい。コスモスが指示に従って、ダンガムの胸部を開けると、チーちゃんが飛び出した。

「ガハハハハハハハハハハハハ! 骨折だけじゃ済まさねえぜ! 爆滅骨折だ!」

 爆裂拳を海獣の頭部に放ち、単純に海獣を殴り飛ばすチーちゃん。さすがだ。海獣の体が大きくぐらついた。
 だがその時、カイザーとバルナンドが何かに気づき、そして声を荒げた。

「ぬぬ! あれは、ただの海蛇ではないゾウ!」
「あの一角は紛れも無く……」

 なんだ? そう思ったとき、チーちゃんに続いて、バルナンドまで飛び出した。

「助太刀致す。アレが本物であれば、アンデットであれ厄介じゃからのう。伝説の幻獣族・リヴァイアサン」

 その言葉に、アルーシャたちもハッとなった。

「なんですって? あれが、伝説のリヴァイアサン!」
「いや、でも、言われてみれば、あの一角……うそっしょ? パナイんだけど!」
「信じられない。ヤーミ魔王国ごときが、リヴァイアサンの化石を入手していたというのかい?」

 いや、そこまで皆さん驚いているところに悪いんだけど、マジでなに?

「おいおい、リヴァイアって何だ? みんなが「さん」付けで呼ぶぐらい、偉い奴か?」
「さあ、私も存じ上げません。とても有名な方なのでしょうか?」
「ひうっ、お化けっ! パッパ、やっぱりこわいよー!」

 知らない組だけ首を傾げ、何ともよく分からない巨大な海蛇に眼を奪われていた。

「ウゴアアアアアアアア!」

 咆哮と共に放たれるチーちゃんの拳が再び炸裂。カルシウム不足の骨なんか、軽く粉々にするはずだ。
 だが……

「避けた!」
「あの図体で、速いぞ、あのバケモン!」

 筋肉も無い骨だけの体が、実に柔軟に捻り、曲がり、そして加速して海に飛び込んだ。
 海上に巨大な影が動き回り、思わずゾッとした。

「ならば、海そのものを切り裂こう!」

 その時、腰の刀を納刀したまま、バルナンドが海へと落下していく。
 おいおい、このまま海へ飛び込んだら、噛み砕かれるぞ? ……っと、ツッコミを入れさせないほど、言葉の詰まる緊迫した空気が一瞬で世界を包み込んだ。
 俺に向けられているわけでもないのに、まるで刃を首筋に当てられているかのような感覚だ。
 来る! そう思ったとき、海は飛沫一つ上げずに、ただ、真っ二つに割れた。


「宮本剣道・斬海界!」


 海を? いや、世界を斬った!

「つ、おおお、バ、バルナンド!」
「なんという鋭い斬撃! 余計なものを一切破壊せずにあれほどの広範囲を切り裂くとは!」

 まるで、紙をカッターで薄く切ったかのように、鋭く真っ二つに直径何十メートルの範囲で海を切り裂いた。
 これならどんなものでも……

「斬ったが……仕留めた感覚がないのう……」

 バルナンドがそう呟いた瞬間、海面に巨大な水しぶきが二つ上がった。
 それは、真っ二つに切り裂かれたリヴァイアとかいうのが、頭部がある上と尻尾のある下に切られたそれぞれの部位を動かして、攻撃を続けてきた。

「げっ不死身なの?」
「いや、そもそも死んでいる。スカル族やゾンビ族だって、機動不可能な状態まで破壊されなければ動く。しかし、それをこの巨体で行うなんて。不死身なんじゃない。死んでいるから死がないんだ!」
「なに、そのパナイ言葉遊び。つか、それじゃー、どうやって始末するっしょ?」
「おーい、つか、あんたらで何とかしろよな。あたし、マジ勘弁だから!」

 死なない巨大なデカ物。アンデットは構造上行動不能になるように始末するのがお約束だ。しかし、それは人間大の大きさなら可能だが、これほど巨大な化け物だと、簡単にはいかねえ。
 なら、どうする?

「簡単や。力ずくで粉々にすればええだけや」

 ナイス脳筋。そんなこったろーと思ったよ。
 だが、それで正解かもしれねえ。
 こんな怪物に細かい戦略なんて無駄だ。むしろ、このメンツを最大に活かすのは、力押しのゴリゴリで自由にやらせるに限る。

「なら、まずは敵を外へと誘き出さないとね」

 好戦的な笑みを浮かべたアルーシャが詠唱をする。すると、海面が徐々に揺れ始め、半径数十メートルの範囲で、突如海が突き上げられた。

「ウォーターフォール・クライミング!」

 まさに巨大魚の滝登り。どれだけ海の中に居ようとも関係ない。 
 海を天まで突き上げたことにより、リヴァイアの体が宙へと舞った。
 一瞬、辺りが暗くなったと感じるほど、陽の光を覆う巨体に眼を奪われるも、すぐに俺たちは次の行動に動いていた。

「超天能力・念力波!」
「ふわふわリヴァイア獲ったどーっ!」

 エルジェラのサイコキネス的な力で宙に浮いたリヴァイアを補足する。だが、一人じゃ重過ぎるだろうから、そこは夫として協力してやる。
 海に入れなければ、あんなもんただの巨大なデカ物

「パッパとマッマやるなら、コスモスも! コスモスいくよ!」

 俺たちを乗せたダンガムが宙へと浮かぶ。その巨体、質量、速度、全てを乗せたパンチをお見舞いしてやる。

「えい!」

 掛け声は可愛いが、威力はシャレにならん。
 リヴァイアの頭部が千切れ飛び、まるで隕石が落下したような勢いで海面に大きな穴を開けた。

「まだだ! まだ動ける! 胴体は僕が捕縛する、マッキーラビットは尻尾を! ダークフレイム・ブリッド!」
「ひはははははは、クレパスの底まで落として、二度と出てこないでね。グラビディ・プレス!」

 頭を失ってもまだ体を捩らせるリヴァイアだが、その剥き出しの骨に目掛けて、ラガイアが黒炎の弾丸を放つ。
 マッキーは、指を動かすだけで、宙に浮いたリヴァイアを勢い良く海面へ叩きつけて、海の底へと突き落とした。

「ヒュ~、グレイトだ、マイフレンドたち。ミーの出番が無かったな」
「やるの~、あんさんら。さすがやな。こーなったら、次に出てきた怪物は、ワイらに任せとき」
「うおおおおい、結局俺様が片付ける前に終わっちまったじゃねーか!」
「頼もしい限りだゾウ」
「信じられないであります。これほどの力を持った者たちが、どうして……」
「ゴミ共、もう少し静かに倒せないのか?」

 魔王と竜と四獅天亜人を温存して、この状況。
 俺たちは思わず「ニッ」と互いに健闘を讃えるような笑みを浮かべあった。

「ふふ、初めての家族共同作業ですね、ヴェルト様」
「ケーキ入刀に比べりゃ、ぶっとんでるがな」
「えへへへ~、パッパ、マッマ、一緒、一緒、一緒♪」

 それはさておきだ。成り行きで倒しちまったけど良かったのかな?
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