きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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帰還・困惑

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「グリーンクウォーツ王国の国王はね、私とシークを結婚させて、私をグリーンクウォーツ王国の人間にしたいんだよ。まぁ、シークが私のことを好きなのは本当みたいだけど?」
 キラさんの顔が、少し曇った気がした。
 ラネンさんは、無表情のままだ。
「……それは、グリーンクウォーツ王国の国王様は、エミリィ様という、破壊神様の力を手に入れて、さらなる力をつけようということですか?そして、エミリィ様を人質にすることで、ホワイトクウォーツ王国との争いを回避するという解釈で良いですか?」
 リルが、少し苦しそうに言った。
「そういうことだね。そして、それは逆にもとれる。もし私がそれを拒否すれば、当たり前だけれど、戦争に発展する可能性だってある。今、グリーンクウォーツ王国と対等に渡り合えるのは、ここ、ホワイトクウォーツ王国しかない。グリーンクウォーツ王国を絶対的なものにする為には、どちらになっても良いんだよ」
 エミリィ様は、いつもの不気味な笑顔を崩さない。
 俺は、何も言えなかった。
 だけれど、何故だろう。グリーンクウォーツ王国の国王に対して、怒りがどんどんこみ上げてきた。
 エミリィ様は、物じゃないのに……!!
 そう思った瞬間、俺はユーク様の言葉を思い出していた。エミリィ様が、俺に利益があるから、俺は……。
 あのユーク様の言葉は、間違っていないのかもしれない。だって、俺は、復讐の為にエミリィ様に……。そうか、だから俺は言い返せなかったんだ。
 俺だって、エミリィ様を物のように見ている、グリーンクウォーツ王国の国王と一緒なんじゃないか……?
 考え込んでしまった俺の耳に、エミリィ様の、盛大なため息が聞こえた。
「なんで、あんたが悩んでるのよ」
「だって……」
 俺は、それ以上続けられず、下を向いた。
「双子神とか、それ以前に、一国の姫として産まれた以上、こんなことは当たり前にあるに決まってるだろ」
「……」
 エミリィ様は面倒くさそうに言ったけれど、俺を見て、ニヤリと笑った。
「で、この舞踏会で、あんた達二人を、盛大に社交界デビューさせるから。私の弟子として、堂々と参加するんだぞ。必要なことは、エリィにでも教えてもらって。あ、そうそう。舞踏会までに指輪を完成させて、少しは扱えるようにしときな」
「えっ……」
 エミリィ様が、混乱している俺に、また無茶を言い始めた。
 こんな短期間で、あの指輪を創るなんて……。
「ギルさんがいるんだから、なんとかなるでしょ」
 エミリィ様はそれだけ言うと、大きくあくびをした。こうなったエミリィ様には、何を言っても無駄だ。
「舞踏会までの仕事は調整するから、安心してね」
 キラさんが、笑って言った。
 それを合図にするように、俺たちは、キラさんに促されて、一緒にマスター室を出たのだった。

 俺とリルは、キラさんに見送られて、居住部屋に戻ってきた。
 なんだかどっと疲れた気がして、俺は大きくため息をついた。
 リルと話したいことが沢山あるのに、何から話して良いのか分からない。
 俺は、ベッドに座って、頭を抱えた。
「ルト、そんなに考え込まないで。……あなたは今回の依頼で、逃げずに立ち向かった。それだけで、十分な成果よ」
 リルが、隣に座って優しく言ってくれた。
「リル……俺、分からないことばかりだよ……。ユーク様の言葉も、今度の舞踏会のことも……」
「えぇ、私もそうよ。だからこそ、今は、色んなことを知らないといけないと思うの。そして、どんなことが起きても対応できるように、力をつけないといけないわ。……私、驚いたのよ。あなたが、あんなに大きな魔力を使った戦闘ができるようになっていて」
「俺だって!!リルが、あんなに高度な魔法を使いこなしていて、本当に驚いたよ」
 俺の言葉に、リルが笑った。
「明日から、ギルさんのお店に行きましょう。材料を師匠に貰いに、お城に行かなくては行けないときもあると思うから、その時にまた師匠と話しましょ」
「うん……」
 今、きっと俺は考えても答えは出せない。
 ユーク様の言っていたことも、国のことも。だから、エミリィ様に言われた通り、まずはこの指輪を完成させよう。
 後、ギルさんに、今回の依頼のことを話してみよう。何故か、ギルさんには全部話せる気がするし、ギルさんに話すことで、なにかが見えてくる気がする。
 俺とリルは、手を握り合って、窓の外を見た。そして、星に祈ると、眠りについたのだった。



※※※



「殺してね……か。あいつ、ルトに、自分達を殺させる気か」
 三人が部屋を出た後、エミリィが、マスター室のソファに体を投げ出しながら呟いた。
「そのつもりで、あの形状の短剣を持たせたのかと思ってたけど」
 ラネンが、エミリィを見ながら言った。
「……そうだね。それもあるよ」
「他には?」
 ラネンが、問い詰めるように、エミリィに聞いた。
「そりゃ、あいつの一番の復讐対象の、私を殺せるようにだよ。決まってるでしょ」
「ルトに慕われているのを分かっていても、それを言うか?」
「言うよ。私は、あいつに一番憎まれるべき存在だ」
「それは、どっちの意味で?」
 ラネンが、エミリィの隣に座りながら言った。
「……悪い意味で」
 エミリィが、小さな声で言った。
 ラネンが、何も言わずため息をついた。
「不思議な奴だな、ルトは」
 ラネンが、エミリィの肩を抱きながら、呟いた。
 エミリィは、何も言わずなすがままになっている。
「ただ、先生達の孫として、助けられて、ここで生きていく道もあったのに。その方が、幸せだったろうに。あいつがお前に弟子入りしたことで、世界は大きく動き始めた。俺にはそんな風に感じる」
 エミリィは、何も言わず、ラネンの胸に体を預けて、その言葉を聞いている。
「ルトが、この世界が変わるときの大きな要になる。お前もそう思ってるんじゃないか?」
「さぁね。私には、世界なんてどうでも良い」
「……嘘つけ」
 そう言ったラネンを、エミリィが不機嫌そうに見上げた。
「本当だよ。私にとって一番大切なのは、今、この瞬間。ラネンの腕の中にいることだもん」
 ラネンは、エミリィを見ると、小さくため息をついて、少しだけ笑った。
「今日は珍しく素直だな」
「たまには素直になりたいときだってあるんだよ」
 エミリィが、ラネンの胸に顔を埋めながら言った。
 ラネンは、エミリィを抱きしめながら、窓の外の星を見た。
 そして目を閉じて、静かに祈った。
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