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帰還・困惑
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しおりを挟む「おかえり、お疲れ様」
マスター室にいた、キラさんが笑顔で言った。
エミリィ様は、椅子に座って、楽しそうに俺たちを見ている。
ラネンさんは、そんなエミリィ様の後ろで、静かに立っていた。
「無事に依頼が終わったと、ユーク王子様から連絡があったよ。頑張ったね。詳しいことは、またユーク王子様から聞いておくから。記憶石も送ってもらう予定だしね」
キラさんが優しく笑って言ってくれた。
「で、どうだった?ユークは」
エミリィ様が、俺に向けて、楽しそうな笑顔のまま聞いた。
俺は、すぐに答えることができなかった。軽い笑顔で笑っていて、掴みどころがなくて、他人事のように話をするのに、それだけじゃない。国のことを考えていて、きっと、自分の中で葛藤もしていて……。
「あいつも、立派なお前の復讐対象だぞ?」
エミリィ様は、きっと俺の心の葛藤を分かっていて、それを楽しむように言った。
「はい……。でも、ユーク様は、ちゃんと、国民のことを考えていました……」
俺は、やっと、それだけ言うことができた。
「ふーん。でも、ユークが……。勿論シークも、双子神の名の下に、国王様を殺してしまえば解決することだってあるかもしれないのに、それをしないのはおかしい、そう思わないか?」
エミリィ様が、不気味に笑った。
「……っ!!」
俺は、思わず恐怖でエミリィ様を見た。
確かにそうかもしれない。双子神様の名の下に国王様を殺してしまって、双子神様が王になれば、もっと良い国になるのかもしれない。
でも……どんな国王でも、ユーク様達の父親には変わりないし、国王様を信仰している人たちだって……。
その時、俺は、最後にユーク様に言われた言葉を思い出した。
「あの、エミリィ様……」
「何?」
「最後に、ユーク様に言われたんです。俺は、賭けに負けたことがないって」
「それで?」
「それで……。だから、必ず復讐を遂げて、俺たちを殺してねって……」
俺の言葉に、初めてエミリィ様が真剣な顔になった。
「……ふーん。だったら、さっさと力をつけて、殺してやるんだね」
エミリィ様が、投げやりに言った。それを見て、俺は、これ以上は聞けないと思った。
エミリィ様の機嫌が悪いときには、触れないに限る。触らぬ神に祟りなしとはまさにこのことだ。
後で、ゆっくり、リルと話そう。
「君たちは、無事に依頼を達成した。このことは、ホワイトクウォーツ王国とグリーンクウォーツ王国の両国に大きく伝わるよ。これから少し大変になるかもしれないけれど、俺たちをしっかりと頼ってね」
キラさんが、空気を変えるように明るい声で言った。
そして、キラさんはそのまま、エミリィ様を見た。
「でしょう?マスター」
明るい笑顔のまま言ったキラさんを、エミリィ様はチラリと見ると、面倒くさそうに何かを取り出した。
「これ。あんた達への招待状」
エミリィ様が机の上に置いたのは、舞踏会の招待状だった。
依頼の前に言われていた、舞踏会のことかな?
リルは、何か分かっているのだろうか。静かにエミリィ様の次の言葉を待っていたから、俺もそれに従った。
「この舞踏会は、グリーンクウォーツ王国が主催の舞踏会だ。表向きの理由は、ホワイトクウォーツ王国とグリーンクウォーツ王国の交流と、さらなる絆と発展の場」
「表向きには……?」
俺は、首をかしげた。
俺は、グリーンクウォーツ王国の国王に復讐したいからこそ、この舞踏会では、表向きには友好的にしなくてはいけない。だけれど、エミリィ様は、舞踏会の理由自体が、表向きだと言っているようだ。
「……何か、グリーンクウォーツ王国には、他に目的があるのですか?」
リルが、エミリィ様を真っ直ぐに見ながら聞いた。
エミリィ様が、面倒くさそうに笑った。
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