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4 後攻
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充は服を着替えて二段ベッドの下に腰掛けた。
というか、考え事で現実世界にいない彼を類がそうさせたというべきだ。
「あの人って誰?なんで怪我してるの?先生にやられたの?それともころんだ?あ、喧嘩騒ぎとか……
「アカハギ」
珍しく類を遮って、充は呟いた。まるで重い鉄の塊を落とすような、低い声で、床に向かって。
「アカハギ」
類はオウム返ししながら息を呑む。
類は壁に耳をつけた。
「ちょっと危な……」
充は制止しようとしてやめる。
外は騒がしかった。
爽伸は屋上テラスでくつろいでいた。最近で言う、チルい時間。少し風が強い。北西の、風力四といったところか。でも爽伸には下に戻れない理由がある。だからここに居る。
「下は片付けた」
「おつかれ」
鍵はかけていなかったから、入るのは簡単だったようで、少しほつれた感じで│赤萩朝陽《あかはぎはるひ》はやってきた。
片付けたといっても、シラバス通り数刻のうちに目を覚ます程度の気絶。でも爽伸はこの時間を狙った。
一応公用車という扱いになるこの施設の車たち。爽伸は所長のズボンのベルトから奪ったマスターキーで次々そのキーを抜き取っていく。
爽伸は日産キャラバンを二台とスズキのクロスビーを一台、あとは適当に見繕って抜き取る。
その鍵に付けられているGPSを警告音も鳴らせないくらいの反応速度で朝陽に破壊させたあと、何事もなかったかのように部屋を出る。
爽伸は外に待っていた赤萩の家の者たちと、その車を運ばせた。
「しずかになった」
ひたすら音だけを聞いていた類が耳を離す。
「なんの音だったの」
「なんか、こう……ざわざわって」
「ざわざわ」
「うん」
あいも変わらず薄暗い部屋。コンクリの壁。
無機質な、無為な牢。
ここから出よう―
「充!類!」
言いかけた刹那、未咲が飛び込んできて、充は口を閉ざす。強く噛みすぎて痛い。
「ああ、よかった、よかった……」
未咲は二人をその腕に抱く。手足の長いスタイルの未咲の胸には子ども二人など造作もない。
「どうしたの、ねぇ」
充は尋ねる。少し強く。
「なんでもないの。でもね、突然男の人がやってきて、先生たち意地悪されちゃった。車も盗まれたわ。だけどあなたたちは無事ね!よかった……」
今一度安堵に浸る未咲。
あんな人でも、こんなに優しい顔ができるんだ。
「あんな人って?」
気づいたら、未咲が涙目に訊いてきていた。思わず口にしてしまったか。悪い癖だ。
「いつも、痛いこと」
「え?」
「してるだろ。類やその他の子に」
充はそのまま進めた。
「それは……」
「俺だけか。しないのは。でも他の部屋の子たちにもしてるんだろ」
「充……」
「大丈夫だ、類。それより先生、知ってんの」
未咲は思わず尻込む。充は怒っていた。
「夜になるとさ、言うんだよ類が。足音がしても言う。いつも未咲せんせいが怖いって。痛いから怖いって。ねぇ知ってんの。怖い怖い怖いって!怖い怖い怖い!」
押し黙る未咲。
「嫌なことされると、俺たち、怖くなるんだ。先生だけじゃない。みんなもう、自分で動くのが、考えるのが怖いんだ。間違えたら怒られるから」
未咲は、混乱していた。
というか、考え事で現実世界にいない彼を類がそうさせたというべきだ。
「あの人って誰?なんで怪我してるの?先生にやられたの?それともころんだ?あ、喧嘩騒ぎとか……
「アカハギ」
珍しく類を遮って、充は呟いた。まるで重い鉄の塊を落とすような、低い声で、床に向かって。
「アカハギ」
類はオウム返ししながら息を呑む。
類は壁に耳をつけた。
「ちょっと危な……」
充は制止しようとしてやめる。
外は騒がしかった。
爽伸は屋上テラスでくつろいでいた。最近で言う、チルい時間。少し風が強い。北西の、風力四といったところか。でも爽伸には下に戻れない理由がある。だからここに居る。
「下は片付けた」
「おつかれ」
鍵はかけていなかったから、入るのは簡単だったようで、少しほつれた感じで│赤萩朝陽《あかはぎはるひ》はやってきた。
片付けたといっても、シラバス通り数刻のうちに目を覚ます程度の気絶。でも爽伸はこの時間を狙った。
一応公用車という扱いになるこの施設の車たち。爽伸は所長のズボンのベルトから奪ったマスターキーで次々そのキーを抜き取っていく。
爽伸は日産キャラバンを二台とスズキのクロスビーを一台、あとは適当に見繕って抜き取る。
その鍵に付けられているGPSを警告音も鳴らせないくらいの反応速度で朝陽に破壊させたあと、何事もなかったかのように部屋を出る。
爽伸は外に待っていた赤萩の家の者たちと、その車を運ばせた。
「しずかになった」
ひたすら音だけを聞いていた類が耳を離す。
「なんの音だったの」
「なんか、こう……ざわざわって」
「ざわざわ」
「うん」
あいも変わらず薄暗い部屋。コンクリの壁。
無機質な、無為な牢。
ここから出よう―
「充!類!」
言いかけた刹那、未咲が飛び込んできて、充は口を閉ざす。強く噛みすぎて痛い。
「ああ、よかった、よかった……」
未咲は二人をその腕に抱く。手足の長いスタイルの未咲の胸には子ども二人など造作もない。
「どうしたの、ねぇ」
充は尋ねる。少し強く。
「なんでもないの。でもね、突然男の人がやってきて、先生たち意地悪されちゃった。車も盗まれたわ。だけどあなたたちは無事ね!よかった……」
今一度安堵に浸る未咲。
あんな人でも、こんなに優しい顔ができるんだ。
「あんな人って?」
気づいたら、未咲が涙目に訊いてきていた。思わず口にしてしまったか。悪い癖だ。
「いつも、痛いこと」
「え?」
「してるだろ。類やその他の子に」
充はそのまま進めた。
「それは……」
「俺だけか。しないのは。でも他の部屋の子たちにもしてるんだろ」
「充……」
「大丈夫だ、類。それより先生、知ってんの」
未咲は思わず尻込む。充は怒っていた。
「夜になるとさ、言うんだよ類が。足音がしても言う。いつも未咲せんせいが怖いって。痛いから怖いって。ねぇ知ってんの。怖い怖い怖いって!怖い怖い怖い!」
押し黙る未咲。
「嫌なことされると、俺たち、怖くなるんだ。先生だけじゃない。みんなもう、自分で動くのが、考えるのが怖いんだ。間違えたら怒られるから」
未咲は、混乱していた。
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