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第15話
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『俺、今日、関さんの家に泊るから』
何度振り払っても、あのときの皐月の顔と声が、頭から離れてくれなかった。
なんだよ。
結局、俺じゃなくってもいいんじゃねえか。
キスなんてされて、有頂天になってたのは、俺だけで。
『稔は・・・・そういうの、理解してくれるかなって思ったんだけど』
そう言われて、自分が特別だなんて自惚れてた。
関と一緒に車に乗って去っていく皐月の後ろ姿に、胸が痛くなった。
女々しいやつだよな。
だいたい、皐月はまだ最初の佐々木陽介殺害の容疑者から外れたわけでもないのに。
俺は、完全に皐月を特別な目で見ていた。
こんな事じゃいけないとわかっているのに。
ちゃんと、刑事として事件を解決しなければいけないのに・・・・。
「―――お待たせしました。行きましょう」
見張りの交代の時間、俺は迎えに来た関の車に乗り込み、安井の自宅へと向かった。
「・・・・・皐月は、何してる?」
「ゲーム、してますよ。―――子供みたいに、夢中になってました」
子供みたい、か・・・・・。
皐月の無邪気な笑顔が頭に浮かぶ。
『あの子ほど純粋でまっすぐで優しい子はいないんだから』
戸田の言葉を思い出す。
皐月は、その妖しい程のオーラを放つ容姿と、それとは真逆とも思える純粋無垢な表情で周りの人間を魅了する。
本人も気付かないうちに。
その、皐月の心は、今誰に向いてるんだろう・・・・・。
その後、俺たちは先に見張りをしていた刑事たちと交代し、車の中で安井のマンションを伺っていた。
「―――樫本さん」
「ん?」
「安井が、犯人だと思いますか?」
「―――どういう意味?」
俺は、関の顔を見た。
関は視線をマンションの方へ向けたまま、皐月から聞いたと言う安井と皐月の話を俺に聞かせた。
「―――皐月くんから、話を聞いていて・・・・・いくら皐月くんに執着していたとしても、あんなに大事にしていた人を襲ったりするんだろうかって、思ったんですよ」
「・・・・・・」
頭が混乱していた。
安井の話は、実際引っかかるところがある。
襲われた当の皐月がそう言っているのだ。
でも、今安井が姿を消しているのは事実で、全く無関係とも思えなかった。
しかし俺の頭を混乱させていたのはそんなことではなくて。
―――いつから、関は皐月を名前で呼ぶようになったんだ?
俺の時のように、酔っぱらった皐月が関に強要したわけではなさそうだ。
なら、なんで?
と、俺の思っていることが伝わったかのように、関が俺を見て苦笑した。
「―――樫本さん、わかりやす過ぎです」
「は?」
「なんで俺が皐月くんを名前で呼んでるのか聞きたいんでしょう?」
「べ・・・別に!」
「くくく・・・・。だから、わかりやす過ぎですって。俺から言ったんですよ。皐月くんって呼んでもいいかって」
「関から・・・・・?」
「はい。俺、皐月くんのことが好きみたいなんで」
「・・・・・・・・・・・は?」
その時、俺の携帯がバイブ音で着信を知らせた。
「―――はい・・・・皐月?どうし・・・・え?」
俺は、咄嗟に関を見た。
関も、俺の声に緊張が走ったのを感じたのか、俺を見ていた。
「それで・・・・今から?ちょ、待てって!1人で行っちゃダメだ、俺らが今から行くから――――――皐月!?皐月!!」
電話は、すでに切れていた。
「樫本さん?」
「関、おまえんちに戻って!早く!」
俺の言葉に、関は何も聞かず、車を発進させた。
「―――安井から、皐月の携帯に電話がかかって来たらしい」
「安井から?」
「今から、2人で会いたいって言われて―――」
俺の言葉に、関が目を見開く。
「―――急ぎます!」
車がスピードを上げた。
『安井さんに会ってくる。2人でって言われたんだ。大丈夫だから・・・・行ってくる』
皐月・・・・!
関のマンションに、皐月の姿はもうなかった。
再び車を走らせる。
「―――どこへ行ったと思います?」
関に聞かれるまでもなく、考えていた。
だが、思いつくはずもない。
俺たちには皐月のような能力もない。
どこを探せばいいのかわからないまま、俺たちはただ車を走らせ続けた。
どこだ・・・・・皐月・・・・!
「関、皐月から安井の話を聞いた時、何か言ってなかったか?」
「何かって言われても・・・・・」
関は頭を振った。
懸命に考えていることは、下唇を噛み、眉間にしわを寄せてる表情からも察することができた。
「・・・・・!屋上!」
突然関が大声を上げた。
「屋上?」
「皐月くんがホストをやってた頃、よく2人であのビルの屋上に行っていたそうです。そこで新宿の夜景を見ていたって・・・・・」
「けど、あのビルにも見張りはついてるだろ?どうやって・・・・・」
「もしかしたら・・・・・あのビルは、隣のビルとの間にほとんど隙間がなかった。隣のビルの非常階段は、見張り側からは見えません。隣のビルの非常階段を上がって、あのビルに飛び移ることができたとしたら―――」
「―――行ってみよう」
俺たちは、必死に祈っていた。
皐月が、無事でいてくれることを・・・・・
何度振り払っても、あのときの皐月の顔と声が、頭から離れてくれなかった。
なんだよ。
結局、俺じゃなくってもいいんじゃねえか。
キスなんてされて、有頂天になってたのは、俺だけで。
『稔は・・・・そういうの、理解してくれるかなって思ったんだけど』
そう言われて、自分が特別だなんて自惚れてた。
関と一緒に車に乗って去っていく皐月の後ろ姿に、胸が痛くなった。
女々しいやつだよな。
だいたい、皐月はまだ最初の佐々木陽介殺害の容疑者から外れたわけでもないのに。
俺は、完全に皐月を特別な目で見ていた。
こんな事じゃいけないとわかっているのに。
ちゃんと、刑事として事件を解決しなければいけないのに・・・・。
「―――お待たせしました。行きましょう」
見張りの交代の時間、俺は迎えに来た関の車に乗り込み、安井の自宅へと向かった。
「・・・・・皐月は、何してる?」
「ゲーム、してますよ。―――子供みたいに、夢中になってました」
子供みたい、か・・・・・。
皐月の無邪気な笑顔が頭に浮かぶ。
『あの子ほど純粋でまっすぐで優しい子はいないんだから』
戸田の言葉を思い出す。
皐月は、その妖しい程のオーラを放つ容姿と、それとは真逆とも思える純粋無垢な表情で周りの人間を魅了する。
本人も気付かないうちに。
その、皐月の心は、今誰に向いてるんだろう・・・・・。
その後、俺たちは先に見張りをしていた刑事たちと交代し、車の中で安井のマンションを伺っていた。
「―――樫本さん」
「ん?」
「安井が、犯人だと思いますか?」
「―――どういう意味?」
俺は、関の顔を見た。
関は視線をマンションの方へ向けたまま、皐月から聞いたと言う安井と皐月の話を俺に聞かせた。
「―――皐月くんから、話を聞いていて・・・・・いくら皐月くんに執着していたとしても、あんなに大事にしていた人を襲ったりするんだろうかって、思ったんですよ」
「・・・・・・」
頭が混乱していた。
安井の話は、実際引っかかるところがある。
襲われた当の皐月がそう言っているのだ。
でも、今安井が姿を消しているのは事実で、全く無関係とも思えなかった。
しかし俺の頭を混乱させていたのはそんなことではなくて。
―――いつから、関は皐月を名前で呼ぶようになったんだ?
俺の時のように、酔っぱらった皐月が関に強要したわけではなさそうだ。
なら、なんで?
と、俺の思っていることが伝わったかのように、関が俺を見て苦笑した。
「―――樫本さん、わかりやす過ぎです」
「は?」
「なんで俺が皐月くんを名前で呼んでるのか聞きたいんでしょう?」
「べ・・・別に!」
「くくく・・・・。だから、わかりやす過ぎですって。俺から言ったんですよ。皐月くんって呼んでもいいかって」
「関から・・・・・?」
「はい。俺、皐月くんのことが好きみたいなんで」
「・・・・・・・・・・・は?」
その時、俺の携帯がバイブ音で着信を知らせた。
「―――はい・・・・皐月?どうし・・・・え?」
俺は、咄嗟に関を見た。
関も、俺の声に緊張が走ったのを感じたのか、俺を見ていた。
「それで・・・・今から?ちょ、待てって!1人で行っちゃダメだ、俺らが今から行くから――――――皐月!?皐月!!」
電話は、すでに切れていた。
「樫本さん?」
「関、おまえんちに戻って!早く!」
俺の言葉に、関は何も聞かず、車を発進させた。
「―――安井から、皐月の携帯に電話がかかって来たらしい」
「安井から?」
「今から、2人で会いたいって言われて―――」
俺の言葉に、関が目を見開く。
「―――急ぎます!」
車がスピードを上げた。
『安井さんに会ってくる。2人でって言われたんだ。大丈夫だから・・・・行ってくる』
皐月・・・・!
関のマンションに、皐月の姿はもうなかった。
再び車を走らせる。
「―――どこへ行ったと思います?」
関に聞かれるまでもなく、考えていた。
だが、思いつくはずもない。
俺たちには皐月のような能力もない。
どこを探せばいいのかわからないまま、俺たちはただ車を走らせ続けた。
どこだ・・・・・皐月・・・・!
「関、皐月から安井の話を聞いた時、何か言ってなかったか?」
「何かって言われても・・・・・」
関は頭を振った。
懸命に考えていることは、下唇を噛み、眉間にしわを寄せてる表情からも察することができた。
「・・・・・!屋上!」
突然関が大声を上げた。
「屋上?」
「皐月くんがホストをやってた頃、よく2人であのビルの屋上に行っていたそうです。そこで新宿の夜景を見ていたって・・・・・」
「けど、あのビルにも見張りはついてるだろ?どうやって・・・・・」
「もしかしたら・・・・・あのビルは、隣のビルとの間にほとんど隙間がなかった。隣のビルの非常階段は、見張り側からは見えません。隣のビルの非常階段を上がって、あのビルに飛び移ることができたとしたら―――」
「―――行ってみよう」
俺たちは、必死に祈っていた。
皐月が、無事でいてくれることを・・・・・
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