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第16話
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「・・・・・相変わらず、明るいなぁ」
久しぶりに来たクラブの入っているビルの屋上から見える景色は、相変わらずネオンで輝いていた。
微かに見えるはずの星も、今日は雲の影に隠れてしまって見えない。
なのに、昼間のように明るい街。
それが新宿・・・・・眠らない街だ。
「―――皐月」
後ろから聞こえてきた声に、俺はゆっくりと振り向いた。
そこにいたのは、安井さんだった。
ずんぐりした体つきにいかつい色黒の顔。
鋭かった眼光も今は疲労感にくすんでいた。
それでも、俺は彼の顔を見て安心していた。
「―――良かった。やっぱり、安井さんじゃなかった」
「え・・・・・?」
「違うって思ってたけど・・・・・ちゃんと顔を見るまでは確信が持てなかった。犯人は・・・・・安井さんじゃないんだね」
俺の言葉に、安井さんは目を見開いた。
「皐月・・・・」
「犯人が誰だかも、わかってる。安井さん、俺と一緒に警察に行こう」
「!!む、無理だ、俺はアリバイもないし・・・・20年前のことだけど、暴行事件を起こしたこともあるんだ。信じてなんてもらえない」
「・・・・相変わらず、見かけ倒しだね。そんなに強面なのに、弱気なんだから」
思わずくすりと笑う。
「大丈夫。信頼できる刑事さんがいるんだ。俺がちゃんとついて行くから」
「皐月・・・・でも・・・・・」
「・・・・安井さんだって、誰が犯人かわかってるんでしょ?そこまでして庇う必要あるの?」
俺の言葉に、安井さんは俯き、こぶしを握りしめた。
「あいつの父親には・・・・・恩があるんだ。この店を持てたのだって、あの人のおかげだ。だから・・・・・」
「その恩なら、もう十分返してるよ。その人だって納得してくれる。このままじゃ、本当に安井さんが殺人犯にされちゃうよ。俺は・・・・そんなの、納得できない」
「皐月・・・・」
「俺にも、恩返しさせてよ、安井さん」
そう言って笑うと、安井さんの目から涙が零れ落ちた。
「―――鬼の目にも涙―――てか」
突然、屋上の入口の方から声がした。
安井さんが驚いて振り向く。
「―――石倉」
そこにいたのは、店長の石倉だった。
「皐月・・・お前、気付いてたんだな。俺が犯人だって」
俺は、石倉をじっと見た。
ひょろりと高い背に、面長の顔。
髪は黒髪で、一見まじめそうなサラリーマンだ。
この人も、ホストだった頃にはいろいろお世話になったけど・・・・・
「―――信じたくなかったよ、石倉さん」
「・・・・いつから気付いてた?」
「確信が持てたのは、この前店に来た時。その前、俺のマンションで襲われた時も、うすうす気づいてたけど・・・・・顔を見たわけじゃないから、確信できなかった。できれば・・・・間違えであって欲しかった」
俺の言葉に、石倉はくすくすと笑った。
「うまく、安井さんに罪を着せられると思ったのになあ。アリバイもなかったし、何より親父に恩があるでしょ?安井さんは。ワルだった安井さんを更生させて、こんな店まで持たせてもらったんだから。絶対断れないと思ったんだ。ムショを出た後にはまた雇ってやるって約束だってしたし・・・・なぁ、安井さん。なんで皐月を呼び出したりしたんだよ」
冷たい目が、安井さんを捕える。
「―――最後に、皐月に会いたかった。その後はどうなったっていい。皐月に会いたかったんだ。だけど・・・・・皐月にはやっぱり嘘をつけない。石倉、すまない、俺は―――」
「っざけんな!」
石倉が怒鳴りつけた。
「何が、『皐月に会いたい』だ。ずうずうしいんだよ、その面で!皐月は・・・・・俺のものになるんだ。なぁ皐月、そうだろう?店に来たころから、お前だけは特別だった。ずっと可愛がってやってた。皐月・・・・お前は、俺のものなんだよ・・・・・」
ゆらりと、石倉の体が揺れた。
目を見開き、口元に笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。
―――危険だ
俺は、少しづつ後ずさった。
石倉の目は、俺を見ているようでどこか遠くを見ていた。
ぞっとするような冷たい瞳は、不気味な光を宿していて―――
まともな状態じゃなかった。
「―――俺たちの邪魔をするやつは許さない・・・・・あの佐々木ってやつも・・・・・俺の皐月に惚れてると言いやがった。一緒に住むんだと・・・・・冗談じゃねえ。渡してたまるか。皐月は、俺のものなんだ!」
石倉の目が光る。
その手には、鋭く光るナイフが握られていた。
俺はまた下がろうとして―――
後ろのフェンスに当たった。
―――逃げられない。
避けられるだろうか?
俺と石倉の距離は3メートルほど。
危険なオーラをまとった石倉には隙がなかった。
息を飲む。
石倉が、飛び出した。
「皐月!!一緒に死んでくれ!!」
咄嗟に避けようとした、その時―――
「皐月!!!」
目の前に飛び出してきたのは、安井さんだった。
「――――安井さん!!」
俺の前に崩れ落ちる安井さん。
「クソ―――ッ!」
石倉が、再び俺に襲いかかろうとして―――
「皐月!!」
聞こえてきたのは、稔の声だった・・・・・・
久しぶりに来たクラブの入っているビルの屋上から見える景色は、相変わらずネオンで輝いていた。
微かに見えるはずの星も、今日は雲の影に隠れてしまって見えない。
なのに、昼間のように明るい街。
それが新宿・・・・・眠らない街だ。
「―――皐月」
後ろから聞こえてきた声に、俺はゆっくりと振り向いた。
そこにいたのは、安井さんだった。
ずんぐりした体つきにいかつい色黒の顔。
鋭かった眼光も今は疲労感にくすんでいた。
それでも、俺は彼の顔を見て安心していた。
「―――良かった。やっぱり、安井さんじゃなかった」
「え・・・・・?」
「違うって思ってたけど・・・・・ちゃんと顔を見るまでは確信が持てなかった。犯人は・・・・・安井さんじゃないんだね」
俺の言葉に、安井さんは目を見開いた。
「皐月・・・・」
「犯人が誰だかも、わかってる。安井さん、俺と一緒に警察に行こう」
「!!む、無理だ、俺はアリバイもないし・・・・20年前のことだけど、暴行事件を起こしたこともあるんだ。信じてなんてもらえない」
「・・・・相変わらず、見かけ倒しだね。そんなに強面なのに、弱気なんだから」
思わずくすりと笑う。
「大丈夫。信頼できる刑事さんがいるんだ。俺がちゃんとついて行くから」
「皐月・・・・でも・・・・・」
「・・・・安井さんだって、誰が犯人かわかってるんでしょ?そこまでして庇う必要あるの?」
俺の言葉に、安井さんは俯き、こぶしを握りしめた。
「あいつの父親には・・・・・恩があるんだ。この店を持てたのだって、あの人のおかげだ。だから・・・・・」
「その恩なら、もう十分返してるよ。その人だって納得してくれる。このままじゃ、本当に安井さんが殺人犯にされちゃうよ。俺は・・・・そんなの、納得できない」
「皐月・・・・」
「俺にも、恩返しさせてよ、安井さん」
そう言って笑うと、安井さんの目から涙が零れ落ちた。
「―――鬼の目にも涙―――てか」
突然、屋上の入口の方から声がした。
安井さんが驚いて振り向く。
「―――石倉」
そこにいたのは、店長の石倉だった。
「皐月・・・お前、気付いてたんだな。俺が犯人だって」
俺は、石倉をじっと見た。
ひょろりと高い背に、面長の顔。
髪は黒髪で、一見まじめそうなサラリーマンだ。
この人も、ホストだった頃にはいろいろお世話になったけど・・・・・
「―――信じたくなかったよ、石倉さん」
「・・・・いつから気付いてた?」
「確信が持てたのは、この前店に来た時。その前、俺のマンションで襲われた時も、うすうす気づいてたけど・・・・・顔を見たわけじゃないから、確信できなかった。できれば・・・・間違えであって欲しかった」
俺の言葉に、石倉はくすくすと笑った。
「うまく、安井さんに罪を着せられると思ったのになあ。アリバイもなかったし、何より親父に恩があるでしょ?安井さんは。ワルだった安井さんを更生させて、こんな店まで持たせてもらったんだから。絶対断れないと思ったんだ。ムショを出た後にはまた雇ってやるって約束だってしたし・・・・なぁ、安井さん。なんで皐月を呼び出したりしたんだよ」
冷たい目が、安井さんを捕える。
「―――最後に、皐月に会いたかった。その後はどうなったっていい。皐月に会いたかったんだ。だけど・・・・・皐月にはやっぱり嘘をつけない。石倉、すまない、俺は―――」
「っざけんな!」
石倉が怒鳴りつけた。
「何が、『皐月に会いたい』だ。ずうずうしいんだよ、その面で!皐月は・・・・・俺のものになるんだ。なぁ皐月、そうだろう?店に来たころから、お前だけは特別だった。ずっと可愛がってやってた。皐月・・・・お前は、俺のものなんだよ・・・・・」
ゆらりと、石倉の体が揺れた。
目を見開き、口元に笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。
―――危険だ
俺は、少しづつ後ずさった。
石倉の目は、俺を見ているようでどこか遠くを見ていた。
ぞっとするような冷たい瞳は、不気味な光を宿していて―――
まともな状態じゃなかった。
「―――俺たちの邪魔をするやつは許さない・・・・・あの佐々木ってやつも・・・・・俺の皐月に惚れてると言いやがった。一緒に住むんだと・・・・・冗談じゃねえ。渡してたまるか。皐月は、俺のものなんだ!」
石倉の目が光る。
その手には、鋭く光るナイフが握られていた。
俺はまた下がろうとして―――
後ろのフェンスに当たった。
―――逃げられない。
避けられるだろうか?
俺と石倉の距離は3メートルほど。
危険なオーラをまとった石倉には隙がなかった。
息を飲む。
石倉が、飛び出した。
「皐月!!一緒に死んでくれ!!」
咄嗟に避けようとした、その時―――
「皐月!!!」
目の前に飛び出してきたのは、安井さんだった。
「――――安井さん!!」
俺の前に崩れ落ちる安井さん。
「クソ―――ッ!」
石倉が、再び俺に襲いかかろうとして―――
「皐月!!」
聞こえてきたのは、稔の声だった・・・・・・
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