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第12話
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「そういえば、昨日、裕太くんの店に安井さんが来てたって、関さんが言ってたけど」
皐月の言葉に、河合が頷いた。
「ああ、そうなんだ。あの人のことは、ここ3ヶ月くらい何の音沙汰もなかったから忘れてたけど、昨日は美樹ちゃんにお前のことを聞いてたって聞いて・・・・もしかしたら、事件に関係あるんじゃないかと思ったんだ」
「で、その後僕と河合さんで安井の店と自宅にも行ってきましたが、どちらにもいませんでした。ただ、店の方には、ただならぬ様子で事務所に入っていき10分ほどで出ていくのを店の男が見ています」
関が後を続ける。
この話は、警察の方でも聞いていた。
課長は最初、関の勝手な行動に顔をしかめていたが、皐月からも安井と佐々木の話を聞き、他に容疑者も浮かんでこない今、とりあえず安井について調べようということになったのだった。
そのため今日は、他の刑事なども合わせ、店の方と自宅の方も捜索することが決まっている。
ここからは、本格的な捜査だ。
探偵といえども一般人の皐月たちを立ち入らせるわけにはいかない―――のだが。
「俺も行きたい」
これから関と安井の家へ行こうとしていた矢先、皐月がそう言いだしたのだ。
「いや、これは警察の捜査だから―――」
俺が言いかけると、皐月が拗ねたように俺を上目遣いで睨む。
「ダメなの?」
「だ、だから・・・・・」
そういう目で見るなって!
とは言えず・・・・・
皐月に見つめられて勝手にドキドキしていると、関の携帯が鳴った。
「はい――――今、天宮さんの探偵社にいますけど。―――は?一緒に・・・・ですか?―――はい、わかりました」
電話を切った関は、俺と皐月を交互に見た。
「―――安井の自宅に行っていた長瀬さんからです。すぐに、安井の家へ来て欲しいそうです。―――天宮さんも一緒に」
長瀬というのは、同じ課の先輩刑事だ。
「え・・・・俺、行っていいの?」
皐月が、目を瞬かせる。
「関、どういうこと?なんで皐月も―――」
「詳しいことはわかりませんけど・・・・天宮さんに、見て欲しいものがあるそうですよ」
見て欲しいもの・・・・?
首を傾げる俺の横で、皐月の顔色が微かに変わった。
「―――見つけたんだ・・・・・」
その言葉に、河合と関が皐月を見る。
「見つけた?何をです?」
「皐月?お前、何か知ってるのか?」
2人の言葉に、皐月はただゆっくりと首を横に振っただけだった・・・・・。
マンションのその一室だけが、異様な空間になっていた。
3畳ほどの小さな部屋は、窓もなく薄暗い。
その部屋の四方に隙間なく貼られていたもの。それは―――――
「―――何だ、これ・・・・・」
河合が、低い声で唸るように呟いた。
その部屋は、数えきれないほどの皐月の写真で埋め尽くされていたのだ・・・・・。
皐月は、ただ黙ってその写真の貼られた部屋を見渡していた。
「皐月・・・・この部屋のこと、知ってたのか?」
俺が聞くと、皐月はゆっくりと首を振った。
「見たことがあるわけじゃないよ。ただ、なんとなくわかったんだ」
「何となくわかったって、どういうことですか?」
関が訝しげに聞く。
河合は、皐月の特殊な性質を知っているからか、頷いただけだった。
俺も、昨日のことがあるので、驚きは少なかったが、それでも不思議だった。
「―――いつ頃から、気付いてた?」
「・・・・・たぶん、俺がホストクラブを辞めてから、だと思う。安井さんは常にデジカメを持ち歩いてた。それで・・・・・ほぼ1日中俺の後を付け回して、写真を撮ってた。そんなことをたぶんずっと続けてて・・・・でもそれも、3ヶ月前にぴたりと止まったんだ」
普通のことのように話しているが、それが本当だとすれば、安井は立派なストーカーだ。
「なんで・・・・何でそんな大事なこと、俺に言わなかったんだよ!?」
河合が皐月の肩を掴んだ。
「だって、写真撮られてただけで他には何もされてなかったし。浩斗くん、心配し過ぎるところあるから・・・・」
「んなの、心配して当然だろ?ストーカーだぞ!」
「そうだけど・・・・そういうやつ、結構いるし。それに、安井さんは危ない人ではあったけど、悪い人じゃないって思ってたから・・・・・」
皐月の言葉に、河合は力が抜けたようにその肩を落とした。
人とは違う能力を持っていながら、この人の良さは何なんだろう。
たとえ悪い人じゃなくても、危ない人だってことがわかっていながら黙ってるなんて・・・・・。
だいたい、そういう人は結構いるって、皐月の周りには危ないやつがたくさんいるって言うのか?
なんだか、この男を1人にしておくのはものすごく危ないことのような気がしてきた・・・・・。
近所の住人などにも聞き込みをしたが、安井は数日間このマンションには出入りしていないようだった。
新聞もポストにたまったままだ。
俺たちはその後、パトカーでホストクラブへと向かった。
店はもちろんまだ空いていなかったが、そのビルのオーナーに話を通して店長に鍵を持って来させていた。
店に行くと、昨夜関達が会ったという石倉という男がきていた。
どうやら、石倉が店長らしい。
石倉は皐月を見るなり笑顔になった。
「皐月!久しぶりだな、元気だったか?」
そう言って皐月の手を握る石倉。
「うん、石倉さんも」
微かに笑顔を見せる皐月。
石倉は本当にうれしそうに皐月を見つめ、なれなれしく腕や肩に触れていた。
その目の熱っぽさを見ても、石倉が皐月に気があることは明らかだった。
その様子に、河合が顔を顰める。
―――過保護な男だな。
と思っていたけど・・・・・
「樫本さん」
横にいた関が、俺の脇腹をつついた。
「へ?」
「顔、不機嫌になってますよ」
「・・・・・・・」
皐月の言葉に、河合が頷いた。
「ああ、そうなんだ。あの人のことは、ここ3ヶ月くらい何の音沙汰もなかったから忘れてたけど、昨日は美樹ちゃんにお前のことを聞いてたって聞いて・・・・もしかしたら、事件に関係あるんじゃないかと思ったんだ」
「で、その後僕と河合さんで安井の店と自宅にも行ってきましたが、どちらにもいませんでした。ただ、店の方には、ただならぬ様子で事務所に入っていき10分ほどで出ていくのを店の男が見ています」
関が後を続ける。
この話は、警察の方でも聞いていた。
課長は最初、関の勝手な行動に顔をしかめていたが、皐月からも安井と佐々木の話を聞き、他に容疑者も浮かんでこない今、とりあえず安井について調べようということになったのだった。
そのため今日は、他の刑事なども合わせ、店の方と自宅の方も捜索することが決まっている。
ここからは、本格的な捜査だ。
探偵といえども一般人の皐月たちを立ち入らせるわけにはいかない―――のだが。
「俺も行きたい」
これから関と安井の家へ行こうとしていた矢先、皐月がそう言いだしたのだ。
「いや、これは警察の捜査だから―――」
俺が言いかけると、皐月が拗ねたように俺を上目遣いで睨む。
「ダメなの?」
「だ、だから・・・・・」
そういう目で見るなって!
とは言えず・・・・・
皐月に見つめられて勝手にドキドキしていると、関の携帯が鳴った。
「はい――――今、天宮さんの探偵社にいますけど。―――は?一緒に・・・・ですか?―――はい、わかりました」
電話を切った関は、俺と皐月を交互に見た。
「―――安井の自宅に行っていた長瀬さんからです。すぐに、安井の家へ来て欲しいそうです。―――天宮さんも一緒に」
長瀬というのは、同じ課の先輩刑事だ。
「え・・・・俺、行っていいの?」
皐月が、目を瞬かせる。
「関、どういうこと?なんで皐月も―――」
「詳しいことはわかりませんけど・・・・天宮さんに、見て欲しいものがあるそうですよ」
見て欲しいもの・・・・?
首を傾げる俺の横で、皐月の顔色が微かに変わった。
「―――見つけたんだ・・・・・」
その言葉に、河合と関が皐月を見る。
「見つけた?何をです?」
「皐月?お前、何か知ってるのか?」
2人の言葉に、皐月はただゆっくりと首を横に振っただけだった・・・・・。
マンションのその一室だけが、異様な空間になっていた。
3畳ほどの小さな部屋は、窓もなく薄暗い。
その部屋の四方に隙間なく貼られていたもの。それは―――――
「―――何だ、これ・・・・・」
河合が、低い声で唸るように呟いた。
その部屋は、数えきれないほどの皐月の写真で埋め尽くされていたのだ・・・・・。
皐月は、ただ黙ってその写真の貼られた部屋を見渡していた。
「皐月・・・・この部屋のこと、知ってたのか?」
俺が聞くと、皐月はゆっくりと首を振った。
「見たことがあるわけじゃないよ。ただ、なんとなくわかったんだ」
「何となくわかったって、どういうことですか?」
関が訝しげに聞く。
河合は、皐月の特殊な性質を知っているからか、頷いただけだった。
俺も、昨日のことがあるので、驚きは少なかったが、それでも不思議だった。
「―――いつ頃から、気付いてた?」
「・・・・・たぶん、俺がホストクラブを辞めてから、だと思う。安井さんは常にデジカメを持ち歩いてた。それで・・・・・ほぼ1日中俺の後を付け回して、写真を撮ってた。そんなことをたぶんずっと続けてて・・・・でもそれも、3ヶ月前にぴたりと止まったんだ」
普通のことのように話しているが、それが本当だとすれば、安井は立派なストーカーだ。
「なんで・・・・何でそんな大事なこと、俺に言わなかったんだよ!?」
河合が皐月の肩を掴んだ。
「だって、写真撮られてただけで他には何もされてなかったし。浩斗くん、心配し過ぎるところあるから・・・・」
「んなの、心配して当然だろ?ストーカーだぞ!」
「そうだけど・・・・そういうやつ、結構いるし。それに、安井さんは危ない人ではあったけど、悪い人じゃないって思ってたから・・・・・」
皐月の言葉に、河合は力が抜けたようにその肩を落とした。
人とは違う能力を持っていながら、この人の良さは何なんだろう。
たとえ悪い人じゃなくても、危ない人だってことがわかっていながら黙ってるなんて・・・・・。
だいたい、そういう人は結構いるって、皐月の周りには危ないやつがたくさんいるって言うのか?
なんだか、この男を1人にしておくのはものすごく危ないことのような気がしてきた・・・・・。
近所の住人などにも聞き込みをしたが、安井は数日間このマンションには出入りしていないようだった。
新聞もポストにたまったままだ。
俺たちはその後、パトカーでホストクラブへと向かった。
店はもちろんまだ空いていなかったが、そのビルのオーナーに話を通して店長に鍵を持って来させていた。
店に行くと、昨夜関達が会ったという石倉という男がきていた。
どうやら、石倉が店長らしい。
石倉は皐月を見るなり笑顔になった。
「皐月!久しぶりだな、元気だったか?」
そう言って皐月の手を握る石倉。
「うん、石倉さんも」
微かに笑顔を見せる皐月。
石倉は本当にうれしそうに皐月を見つめ、なれなれしく腕や肩に触れていた。
その目の熱っぽさを見ても、石倉が皐月に気があることは明らかだった。
その様子に、河合が顔を顰める。
―――過保護な男だな。
と思っていたけど・・・・・
「樫本さん」
横にいた関が、俺の脇腹をつついた。
「へ?」
「顔、不機嫌になってますよ」
「・・・・・・・」
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