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第13話

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クラブの事務所は、かなりの広さがあった。

リビングとキッチン、それからバスルームに寝室と、そのままここで暮らせるんじゃないかと思えるほどものも揃っていた。

「以前は、本当に安井さんがここに住んでたらしい。あのマンションを買ったのは5年くらい前って言ってたかな。今でも時々ここには泊ることがあるし―――本当に時々だけど、新人のホストが酔っぱらってここに泊ったりとか。だから、ここには一通りの生活用品が揃ってるんだって」

その説明に、俺はちらりと天宮を見た。

「天宮さんも泊ったことがあるんですか?」

「・・・・・俺は、ない。最初の頃、やっぱり飲み過ぎて気分悪くなったときに安井さんに泊ってけばって言われたけど・・・・・。結局一度も泊ったことはないよ」

言いながら、俺から目をそらす天宮。

それは嘘をついているわけではなく、安井と深い関係だったのではないかと疑われるのを嫌がっているように、俺には見えた。




俺たちは手分けして、その事務所内をくまなく調べ始めた。

と言っても、事件の関係者である河合と天宮に捜査させる訳にはいかない。

そのため、2人は俺と樫本さんが調べ終わるのを待っているだけだったが。

何か、事件に関連するものがないか。

天宮が襲われたときに使用されたと思われる凶器もまだ見つかっていない。

だが、簡単には見つけることは出来ないもので―――

途中、河合が用を足したいとトイレへ行き、樫本さんもバスルームを調べにリビングから出ていった。

リビングルームにはいつの間にか俺と天宮の2人だけに。

河合も樫本さんもいない状況でも天宮はいつもと変わらない様子だったが、俺は正直少しだけ緊張していた・・・・。

リビングのDVDや本などが並んだ棚を眺めていた天宮の横顔に、思わず見とれる。

―――男のくせに、きれいな顔だよな・・・・・。

リビングルームには、テレビやDVDの他、ゲーム機なども置かれていて、天宮がそれを見て懐かしそうに呟いた。

「―――そういえば、安井さんてゲームが好きだったな」

「そうなんですか?」

確かに、ゲーム機が数台と、それに使用するソフトがいくつも置いてあった。

「基本、ここにいて仕事してないときはゲームしてたんじゃないかな。たまにここに来ると、良く楽しそうにゲームしてる姿を見たよ。―――あ、これすげえ昔のやつだ」

一つ一つソフトを見ていた天宮が、感激したように言った。

「・・・・・ゲーム、好きなんですか?」

ソフトを見る目が、少年のように輝いていた。

俺の言葉に、天宮が微かに頬を染める。

―――あ、可愛い・・・・・

「うん。家に1人でいるときは、ゲームばっかりしてる。でも、この辺のは持ってないな。子供の頃、すげえ欲しかったの覚えてるけど・・・・・」

そう言いながら、古い野球ゲームのソフトを見つめた。

「・・・・・ここにあるゲームなら、俺、大体持ってますよ」

「え、ほんとに!?あ、そういえば稔が言ってた。関さんは休みの日にゲームばっかりやってるって」

ーーー稔、ね・・・・

「まあ、そうですね。・・・もしそのゲームやりたいなら、貸しますけど」

「ほんと?」

「ええ。樫本さんの家まで届けましょうか?それとも、今日は河合さんのところに行きますか?俺のところでも構いませんけど」

半ば、やけくそ気味だった。

どうせ、樫本さんの所へ行くのだろう。

樫本さんは天宮はビール飲んで酔ってたから、すぐに寝たなんて言ってたけど。

今日の2人の雰囲気は、どう見てもつきあいたてのカップルだ。

ときどき視線が合うと照れくさそうに笑ってみたり、お互いを下の名前で呼んだり、樫本さんに至っては天宮があの河合や石倉と言葉を交わすたびにおもしろくなさそうな顔をして。

とても殺人事件を捜査中の刑事と、その容疑者とは思えなかった。

「いや、俺・・・・・」

天宮が何かを言いかけた時、リビングの扉が開けられ、樫本さんが入ってきた。

「あ、2人ともまだここにいたのか。俺、今寝室も見てきたけど、怪しいものは何もなかったよ」

そう言った樫本さんを、天宮は無言で見ていたけれど―――

「稔」

「え?」

「俺、今日、関さんの家に泊るから」

と言った。

樫本さんが驚いて目を見開く。

驚いたのは俺も一緒だ。

―――今、なんて・・・・・?

「なんで、急に・・・・・」

樫本さんの言葉に、天宮は手に持っていたゲームソフトをちらりと見た。

「―――ゲーム、やっていいって」

「え?」

「関さん、このゲーム持ってるんだって。貸してくれるって言うから」

それを聞いて、樫本さんが俺を見た。

―――げ。

今、すげえ冷たい目で見られましたけど。

「い、いや、いいですよ、樫本さんの家まで届けますから・・・・・」

「でも、他にもたくさんゲーム持ってるんでしょ?それも見てみたいし。関さん、ゲームうまそうだから教えてもらいたい」

そう言って、天宮は俺を見るとにっこりと笑った。

―――うわ、マジか。

そんなかわいい笑顔を向けられて、断れるやつなんていない。

それほどの威力を持っていた。

「関さん、いい?」

ダメ押しとばかりにちょこんと小首を傾げられ―――

「い、いいですけど・・・・その、樫本さんが良ければ・・・・・」

そして視線を向けた樫本さんは、完全に無表情で・・・・・

「―――別に、俺の了解なんて必要ないだろ?自宅に戻るのはまだ危ないけど、関のところなら別に―――関だって俺と同じ刑事だからね」

そう言って、俺から視線をそらす。

―――ぜっっったいに怒ってるよ、この人!

「じゃ、決まり。よろしくね、関さん」

「あ、はい・・・・こちらこそ・・・・・」

樫本さんの絶対零度のオーラを感じながら、俺はそう言うしかなかった。

そして

俺は、おそらくもっとわかりやすく怒りを露わにするであろう男のことを思い出し、さらに青くなるのだった・・・・・。

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