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第11話
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翌朝
出勤した俺が見たのは―――
天宮皐月を連れて出勤して来た樫本さんの姿だった。
その朝の署内のざわつきっぷりは尋常じゃなかった。
突然モデルかと見紛うよなスタイル抜群のイケメンが現れたのだから。
特に女性職員たちの騒ぎ方と言ったらなかった。
きゃあきゃあ言いながら、後ろをついてくる女性たち。
天宮はそんな女性たちの存在に気付いてるのだろうが、動揺することも、振り返ることもせずにただ樫本さんの後にぴったりとついて歩いていた。
「―――ええと、樫本・・・彼が、例の・・・・・」
課長が、天宮の方をちらちらと見ながら樫本さんに聞く。
強面の課長の頬が、微かに赤く染まっているのが不気味だった。
「天宮皐月さんです。すいません、ちょっと寝坊しまして・・・・あとで、探偵社の方へ送っていきますので」
「あ、いや・・・・構わないよ、うん。そうだな、狙われてるんだもんな。お前と一緒にいた方が安全だ、うん」
にやにやとだらしない笑みを浮かべながら、必要以上にでかい声でまくし立てる課長に、その場にいた刑事たちはみんな引いていた・・・・・。
「まったく、朝から大騒ぎだったじゃないですか」
関が、車を運転しながら呆れたように言った。
「―――悪い」
素直に謝る俺を、皐月が横目でちらりと見て、微かに笑う。
バックミラー越しに、関が俺を睨んでるのがわかる。
―――そんな目で見るなって・・・・・俺だって大変だったんだ。
昨夜、自分から『一緒に寝よう』と言ったまでは良かったが―――
いざ同じベッドで2人横になると、とたんにドキドキしてしまって・・・・
けど、そんな俺をよそに皐月はさっさと夢の中。
しかも、俺の方に体を向けて、口を半開きにしたまますやすやと気持ち良さそうに眠るもんだから・・・・
もう、ドキドキなんてもんじゃない。
初めて女と寝たときだって、あんなにドキドキしなかった。
近くで見る皐月の寝顔がこれまたきれいで。
ドキドキしすぎて眠れないのに、目が離せなくて。
何度その白い肌に触れたいと思ったことか。
だけど、やっぱりそれはできなかった。
触ったら、皐月が汚れてしまいそうで・・・・・・
おかげで、寝不足。
皐月はそんな俺の事情を知ってか知らずか、俺の寝不足の顔を見ては楽しそうにくすくす笑ってる。
その笑顔がまた超絶可愛いもんだから、俺は何も言えないでいた・・・・・。
「皐月!」
「おはよ、浩斗くん」
探偵社につくと、きっと昨夜からずっと気をもんでいたであろう河合が、皐月を出迎えた。
そして、上機嫌に入っていく皐月の後ろから現れた俺を見て、微かに顔を顰める。
―――意外と、わかりやすい男だな。
「・・・・ご機嫌だね、皐月。樫本さん・・・・昨日はどうも」
「いや、こちらこそ・・・・・」
「こちらこそ?」
俺の言葉に、河合が顔を顰める。
「昨日、皐月に飯作ってもらっちゃって。逆に世話になっちゃったみたいで」
と言って笑うと。
なぜか、その場の空気が固まった。
「―――あれ?俺、何かまずいこと言った?」
河合の顔が、心なしか引きつっていた。
「―――樫本さん」
関が、低い声で俺の名前を呼んだ。
「え?」
「いつから・・・皐月って?」
「あ・・・・・」
やば。つい・・・・・
「いや、あの、これは―――」
「俺が、そう呼んでって言ったんだよ」
皐月が、俺と河合の間に入るようにそこにあった机の上に腰かけた。
「え・・・・・」
河合が驚いて皐月を見る。
「昨日、俺勝手にこの人の家のビール飲んで、酔っぱらっちゃって。あんまりよく覚えてないんだけど、たぶん俺がそう言ったんでしょ?俺、良く言うんだ。酔っぱらった勢いで、一緒に飲んだ人に『名前で呼べ』とかって」
皐月の言葉に、河合はようやく笑った。
「あ、ああ・・・・そういえばそうだったな。俺の時も、陽介と3人で飲みに行って・・・・陽介はもう名前で呼んでたけど、俺はなかなか呼べなくて。そしたら、酒飲んでるときにお前にそう言われて・・・・それから皐月って呼ぶようになったんだっけ」
―――なんだ・・・・。そうなんだ。酔っぱらうと、誰にでもああなんだ・・・・・。
そんなことを思い、俺は自分が特別じゃないことに勝手にへこんでいた。
俺の後ろで、関がじっと俺を睨んでいたことにも気付かずに・・・・・
出勤した俺が見たのは―――
天宮皐月を連れて出勤して来た樫本さんの姿だった。
その朝の署内のざわつきっぷりは尋常じゃなかった。
突然モデルかと見紛うよなスタイル抜群のイケメンが現れたのだから。
特に女性職員たちの騒ぎ方と言ったらなかった。
きゃあきゃあ言いながら、後ろをついてくる女性たち。
天宮はそんな女性たちの存在に気付いてるのだろうが、動揺することも、振り返ることもせずにただ樫本さんの後にぴったりとついて歩いていた。
「―――ええと、樫本・・・彼が、例の・・・・・」
課長が、天宮の方をちらちらと見ながら樫本さんに聞く。
強面の課長の頬が、微かに赤く染まっているのが不気味だった。
「天宮皐月さんです。すいません、ちょっと寝坊しまして・・・・あとで、探偵社の方へ送っていきますので」
「あ、いや・・・・構わないよ、うん。そうだな、狙われてるんだもんな。お前と一緒にいた方が安全だ、うん」
にやにやとだらしない笑みを浮かべながら、必要以上にでかい声でまくし立てる課長に、その場にいた刑事たちはみんな引いていた・・・・・。
「まったく、朝から大騒ぎだったじゃないですか」
関が、車を運転しながら呆れたように言った。
「―――悪い」
素直に謝る俺を、皐月が横目でちらりと見て、微かに笑う。
バックミラー越しに、関が俺を睨んでるのがわかる。
―――そんな目で見るなって・・・・・俺だって大変だったんだ。
昨夜、自分から『一緒に寝よう』と言ったまでは良かったが―――
いざ同じベッドで2人横になると、とたんにドキドキしてしまって・・・・
けど、そんな俺をよそに皐月はさっさと夢の中。
しかも、俺の方に体を向けて、口を半開きにしたまますやすやと気持ち良さそうに眠るもんだから・・・・
もう、ドキドキなんてもんじゃない。
初めて女と寝たときだって、あんなにドキドキしなかった。
近くで見る皐月の寝顔がこれまたきれいで。
ドキドキしすぎて眠れないのに、目が離せなくて。
何度その白い肌に触れたいと思ったことか。
だけど、やっぱりそれはできなかった。
触ったら、皐月が汚れてしまいそうで・・・・・・
おかげで、寝不足。
皐月はそんな俺の事情を知ってか知らずか、俺の寝不足の顔を見ては楽しそうにくすくす笑ってる。
その笑顔がまた超絶可愛いもんだから、俺は何も言えないでいた・・・・・。
「皐月!」
「おはよ、浩斗くん」
探偵社につくと、きっと昨夜からずっと気をもんでいたであろう河合が、皐月を出迎えた。
そして、上機嫌に入っていく皐月の後ろから現れた俺を見て、微かに顔を顰める。
―――意外と、わかりやすい男だな。
「・・・・ご機嫌だね、皐月。樫本さん・・・・昨日はどうも」
「いや、こちらこそ・・・・・」
「こちらこそ?」
俺の言葉に、河合が顔を顰める。
「昨日、皐月に飯作ってもらっちゃって。逆に世話になっちゃったみたいで」
と言って笑うと。
なぜか、その場の空気が固まった。
「―――あれ?俺、何かまずいこと言った?」
河合の顔が、心なしか引きつっていた。
「―――樫本さん」
関が、低い声で俺の名前を呼んだ。
「え?」
「いつから・・・皐月って?」
「あ・・・・・」
やば。つい・・・・・
「いや、あの、これは―――」
「俺が、そう呼んでって言ったんだよ」
皐月が、俺と河合の間に入るようにそこにあった机の上に腰かけた。
「え・・・・・」
河合が驚いて皐月を見る。
「昨日、俺勝手にこの人の家のビール飲んで、酔っぱらっちゃって。あんまりよく覚えてないんだけど、たぶん俺がそう言ったんでしょ?俺、良く言うんだ。酔っぱらった勢いで、一緒に飲んだ人に『名前で呼べ』とかって」
皐月の言葉に、河合はようやく笑った。
「あ、ああ・・・・そういえばそうだったな。俺の時も、陽介と3人で飲みに行って・・・・陽介はもう名前で呼んでたけど、俺はなかなか呼べなくて。そしたら、酒飲んでるときにお前にそう言われて・・・・それから皐月って呼ぶようになったんだっけ」
―――なんだ・・・・。そうなんだ。酔っぱらうと、誰にでもああなんだ・・・・・。
そんなことを思い、俺は自分が特別じゃないことに勝手にへこんでいた。
俺の後ろで、関がじっと俺を睨んでいたことにも気付かずに・・・・・
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