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しおりを挟む「今日は助かったよ。君の指導や剣技を見れて新入生には、いい刺激になったよ」
教師のスリスタがアイクに近寄っていってきた。
「忙しい所ありがとう。また来年もきてくれたら嬉しいが」
「毎週きます」
アイクは手入れしていた剣を一振りする。
「え? でも君も忙しいだろう」
「いえ、毎週実技があるんですよね? 毎週来るので予定を教えてください」
教師のスリスタは大層驚いた。アイクが首席で卒業し、第3騎士団でも活躍している話は担任だったスリスタまで届いている。おまけに貴族でもある彼は後継者としてもやることはたくさんあるはずだ。
スリスタはアイクの視線の先を見た。
小柄だけど、元気で活発なレイノードだ。
「彼は小柄だけど、俊敏だし、なかなかいいものを持っている。仲間にも好かれているしな」単なる世間話としてスリスタは言った。
息がつまるのである。この卒業生は。
レイノードは今も大柄な仲間たちに肩を組まれて笑っている。
「妖精に虫がついている」
「え、妖精? 虫がいたか?」
「はい。害虫は早めに対処した方がいいですよね」
「ああそうだな」
「私に任せてください」
「た、頼もしいな」
なんだかわからないが、レイノードとその友達に同情したくなるのはなんでだろうか。
とにかくスリスタは頼りになる卒業生を、しかも将来ソードマスターになるとも偉大な魔法使いになるとも言われているアイク ローランを運良く指導者として手に入れたのだった。
(レイノード卒業後)
「また指導に来てくれるんだな」とスリスタ。
「すみません。今年からは新団員(レイノードが第3騎士団に入団してくる)の指導が忙しくって無理です」とアイク。
「そうか流石に無理か。長い間助かったよ。そういえばレイノードも第3に入るな」
「はい、彼と一緒にまた挨拶にきます(結婚の)」
「ああ、またレイノードを助けてやってくれ」
「はい(言われなくても)」
レイノードとの新しい生活に思いをはせて微笑むアイクであった。
伶俐な美貌のアイクが微笑むなんて初めて見たスリスタであった。なぜか背中がゾゾっとした。
※ ※ ※
アイゼルバッハ団長は団長室で来客用ソファに座り白髪の髪を揺らしながら笑っている。顎に伸びた白髭を撫でている。機嫌がいい。
「長い間ご苦労だったフラハム。やっと引退できそうだな」
「いえ団長こそお疲れ様でした。これでやっとお孫さんの側にいけますね」
「まったく」
第3騎士団だけでなく、一般的に騎士団は40代や50代で引退することが多い。魔獣退治はそれだけ仕事内容がキツいのもある。
実力的にも身分的にも見合っているアイク副団長が頑なに団長就任を拒否していたため、アイゼルバッハ団長は引退できなかったのだ。
曰くレイノードと一緒にいれる時間がなくなるとか、一緒に討伐に行きたいとかなんとか。
そのくせ気持ちを伝えることを怠っていたアイクはレイノードに捨てられた。それみたことか。
アイクを押さえるにはレイノードから。それを熟知していたアイゼルバッハはここ数年レイノードの動向を見張っていたため、行き先は最初からわかっていた。
レイノードの情報をアイクに行かないよう手を回していた。このままではレイノードを探すために、アイクが騎士団を辞めると、言いだしそうになるギリギリのタイミングでレイノードの居場所を教えた。
「レイノードは己の仕事も全うしない、愛も告げれないヘタレは嫌いだと思うぞ」
という言葉の中には団長に就任して責任を全うしろという意味も入っていた。
レイノードの居場所の紙をアイクに渡して数日でレイノードとレイノードの背中にベッタリ張り付いているアイク副団長が帰ってきた。
どうやらまだ一緒にいたいというアイクを、みんなに迷惑をかけているとレイノードが引っ張って帰ってきたようだ。
やはりレイノードは優秀だ。アイクの手綱を握れるのはレイノードしかいない。
「すみません。団長。急に退団届けを提出して。ご迷惑をおかけしました」レイノードは恐縮して挨拶をする。
団長は鷹揚に頷いた。二人に身振りでソファに座ることを勧める。
「レイノード、君の退団届けはまだ私のところにあるから、気にしないでほしい。ところで、君がそんなに仕事で悩んでいたと知らなかった。団長として至らない私を許してくれ。話を聞いて改善できることはしたいと思う。第3騎士団をまだ続けることを検討してくれないか」
「え、そんな、団長は少しも悪くないです」
レイノードが、焦っていう。
「仕事内容がきついのか」
「いえ、そんなこともなくて、みんな親切だし、仕事もやりがいがあります。私の私的なことで耐えられなくなって」
「その私的なことは落ち着いたのか」
「・・・はい」
隣にいるアイク副団長がずっとレイノードの肩に腕を回している。どこか体が触れていないと死ぬのか。レイノードは顔が真っ赤になっている。
「そうか。第3に残ることを検討してくれるか」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします!」
「わかった。ならばこれは新しい辞令だ。君は大層優秀だと聞いている」
開いた紙には「団長補佐次官に任命する」の字。
「環境を変えて一からやり直すのもいいだろうし、団長補佐次官として、これから団を支えて欲しい」
「光栄です」
興奮して頬を染めるレイノード。
レイノードの肩ごしに、じっと辞令の字を見ていたアイク副団長は、ジロっとアイゼルバッハ団長を睨んだ。
アイゼルバッハ団長はレイノード団長補佐次官と握手をすると「疲れただろう下がりたまえ」と言った。
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