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フラハム団長補佐官は「相変わらず悪どいですね」書類を整理しながら言う。
団長は「作戦と言いたまえ」とお茶を飲む。
ドタバタとドアの外が騒がしい。
たぶん無表情がデフォルトで、何ごとにも動じないと言われていたソードマスターで氷の魔法使いである副団長が登場するのだろう。
「チェックメイトだ」
待望の孫の顔を見に行けると、それ以降のアイゼルバッハ団長の機嫌は大層麗しいのだった。
※
(後輩視点)
副団長補佐次官のレイノード先輩は、大柄で強面が多い第3騎士団の中では癒し的存在だった。
可愛いくてやさしそうな顔がサラサラで柔らかそうな髪で縁取られている。
俺たちみたいな新人にも、優しい声かけをしてくれる。
何か悩んでいそうな団員の話を親身になって聞いたり、怪我をした団員の手当てをしたり、身体的にもメンタル的にも頼れる先輩だった。
突然一ヶ月ほど休養されていて心配していた。戻った時には団長補佐次官になっていた。休養していたのではなく、どこかで研修でもしていたのだろうか。
とにかく戻ってきてくれて、ホッとしたし嬉しい。俺たちは駆け寄ってレイノード先輩に飛びつきながら、嬉しくて泣いた。
ごつい男たちに囲まれてアップアップしているレイノード先輩が可愛い。
それなのに一人一人にきちんと受け答えをしてくれる。俺の名前も覚えてくれていて「ルクラ、足の傷は大丈夫か」ってそんなことまで覚えてくれていた。先輩大好きだ、と感激していたら、突然突風と雹が降ってきた。
結構雹が痛くて、みんな飛び跳ねる。
これはアイク副団長の魔力が漏れているんだろう。
俺たちがはしゃいでいるから怒ってるのか。怒り方が陰湿だ。振り返ると腕を組んで無表情の副団長の周りでブリザードが吹き荒れている。
怖い。
レイノード先輩が「みんなありがとう。でもごめんね。みんな仕事に戻るように」と慌てて謝りながらも嗜めてきた。
はぁー本当に先輩いい人。
※
入団して一年目の俺たちの初めての魔獣討伐があった。俺らにとっては初めてだから緊張していたが、付いてきてくれている先輩たちは、流石に余裕だ。
なんだかんだと先輩たちのフォローありだけど、一年目が中心になって魔獣を打ち破り、俺たちは歓喜の声を上げた。
行軍も長きに渡っており、天幕や地面に寝ることにもなれたが、体と服の汚れや匂いがきつくなってきている。
王都に戻る前に、湖で行水をしてもいいと上から許可が出た。
俺たちは歓声をあげて、次々に湖に飛び込んだ。この暑さなら服もすぐ乾くし、汚れているのは体も服も一緒だ。
上半身裸や、水に浸かってから服を脱ぐ者、最初から裸のやつもいる。
先輩たちも含めて俺らが騒いでいると、レイノード先輩も湖に入ってきて、他の団員から水をかけられて笑っている姿が見えた。
レイノード先輩の周りの水滴がなぜかキラキラして、先輩も輝いて見える。笑顔が眩しい。
レイノード先輩が水をかけられて笑いながら、団服の上衣を外していく。
え、先輩脱ぐんですか。
細くて白い指がボタンを外していく。シャツの隙間から覗く白い肌に目が吸い寄せられる。
「あ」
どこまで脱ぐのか、期待で胸がドキドキする。
いつも制服をきっちり着こなしている先輩のあどけない笑顔と濡れた髪と制服が色っぽく見える。
気づけば湖岸で遊んでいた大半の団員が先輩を赤らめた顔でみていた。
ゴクリと喉が鳴る。
突風が吹き、急に団員たちの周りの湖が凍りついて、団員たちは俺も含めて体が氷で固まる。突然の氷点下の気温と水温に体がついていけない。
俺たちの周囲だけブリザードが吹き荒れる。
またアイク副団長だ。
魔力有り余ってるからって、俺たちに使わないでほしい。
アイク副団長は若くしてソードマスターとして認められ、氷魔法まで使いこなしている第3騎士団の最終兵器みたいな人だ。
魔獣の襲来が多い時に、副団長が無表情で戦っているのをみた。白く輝くオーラーが副団長の体から立ち上り、神々しい。強すぎて人間レベルじゃなくて、副団長が味方で安心したけど、どこかでゾッとした。
整いすぎた顔に無表情で何考えているかわからない。人間味がなくて、レイノード先輩はよく側で働けるなって思った。
一度レイノード先輩にそれを言ったら「確かに」と激しく同意してくれていた。
「でも優しいとこもあるんだけどね。たぶん? まあ頼りになるのは間違いない」って笑っている。本当に先輩は優しくて懐が深い。
今もレイノード先輩は慌てることなく、落ち着いている。先輩だけは、凍ってなかったけど、流石に寒いみたいで、団服を脱ぐのはやめたみたいだ。
でも、いつも制服をきっちり着ている先輩の、胸元が少し空いてるだけで眼福ものだ。ドキドキする。
いつの間にか先輩の隣に無表情のアイク副団長がいて、まるで王子様みたいにレイノード先輩に手を差し伸べ、凍りつく湖の上を二人で歩いて湖岸に戻っていった。顔とスタイルがいいから絵になる。
あの人は魔王か。
建国祭の後には、アイク副団長が団長に就任するらしい。うわー!!
どうなるんだ第3騎士団は。レイノード先輩は。
そして俺たちと、周辺の湖はまだ凍っている。
溶かしていけよ!
自然と太陽の熱ですぐに氷は溶けたが、俺たちが湖岸に戻った時には、着替えて団服をきっちり着込んだレイノード先輩が、アイク副団長にお茶を入れていた。
アイク副団長は横暴だ。きっとさっきもお茶を入れさせるために、レイノード先輩を連れて行ったんだろう。
アイゼルバッハ団長にもお茶はふるまわれているが、それは気にならない。
アイク副団長の横暴さに、いつかレイノード先輩を救ってあげなければと誓う。苦労しているに違いない。
レイノード先輩と同じ同期の先輩たちにこの話をしたら、「おま、それ地雷。絶対やめろ」とガクガク震えていた。
なぜだ。
終わり
団長は「作戦と言いたまえ」とお茶を飲む。
ドタバタとドアの外が騒がしい。
たぶん無表情がデフォルトで、何ごとにも動じないと言われていたソードマスターで氷の魔法使いである副団長が登場するのだろう。
「チェックメイトだ」
待望の孫の顔を見に行けると、それ以降のアイゼルバッハ団長の機嫌は大層麗しいのだった。
※
(後輩視点)
副団長補佐次官のレイノード先輩は、大柄で強面が多い第3騎士団の中では癒し的存在だった。
可愛いくてやさしそうな顔がサラサラで柔らかそうな髪で縁取られている。
俺たちみたいな新人にも、優しい声かけをしてくれる。
何か悩んでいそうな団員の話を親身になって聞いたり、怪我をした団員の手当てをしたり、身体的にもメンタル的にも頼れる先輩だった。
突然一ヶ月ほど休養されていて心配していた。戻った時には団長補佐次官になっていた。休養していたのではなく、どこかで研修でもしていたのだろうか。
とにかく戻ってきてくれて、ホッとしたし嬉しい。俺たちは駆け寄ってレイノード先輩に飛びつきながら、嬉しくて泣いた。
ごつい男たちに囲まれてアップアップしているレイノード先輩が可愛い。
それなのに一人一人にきちんと受け答えをしてくれる。俺の名前も覚えてくれていて「ルクラ、足の傷は大丈夫か」ってそんなことまで覚えてくれていた。先輩大好きだ、と感激していたら、突然突風と雹が降ってきた。
結構雹が痛くて、みんな飛び跳ねる。
これはアイク副団長の魔力が漏れているんだろう。
俺たちがはしゃいでいるから怒ってるのか。怒り方が陰湿だ。振り返ると腕を組んで無表情の副団長の周りでブリザードが吹き荒れている。
怖い。
レイノード先輩が「みんなありがとう。でもごめんね。みんな仕事に戻るように」と慌てて謝りながらも嗜めてきた。
はぁー本当に先輩いい人。
※
入団して一年目の俺たちの初めての魔獣討伐があった。俺らにとっては初めてだから緊張していたが、付いてきてくれている先輩たちは、流石に余裕だ。
なんだかんだと先輩たちのフォローありだけど、一年目が中心になって魔獣を打ち破り、俺たちは歓喜の声を上げた。
行軍も長きに渡っており、天幕や地面に寝ることにもなれたが、体と服の汚れや匂いがきつくなってきている。
王都に戻る前に、湖で行水をしてもいいと上から許可が出た。
俺たちは歓声をあげて、次々に湖に飛び込んだ。この暑さなら服もすぐ乾くし、汚れているのは体も服も一緒だ。
上半身裸や、水に浸かってから服を脱ぐ者、最初から裸のやつもいる。
先輩たちも含めて俺らが騒いでいると、レイノード先輩も湖に入ってきて、他の団員から水をかけられて笑っている姿が見えた。
レイノード先輩の周りの水滴がなぜかキラキラして、先輩も輝いて見える。笑顔が眩しい。
レイノード先輩が水をかけられて笑いながら、団服の上衣を外していく。
え、先輩脱ぐんですか。
細くて白い指がボタンを外していく。シャツの隙間から覗く白い肌に目が吸い寄せられる。
「あ」
どこまで脱ぐのか、期待で胸がドキドキする。
いつも制服をきっちり着こなしている先輩のあどけない笑顔と濡れた髪と制服が色っぽく見える。
気づけば湖岸で遊んでいた大半の団員が先輩を赤らめた顔でみていた。
ゴクリと喉が鳴る。
突風が吹き、急に団員たちの周りの湖が凍りついて、団員たちは俺も含めて体が氷で固まる。突然の氷点下の気温と水温に体がついていけない。
俺たちの周囲だけブリザードが吹き荒れる。
またアイク副団長だ。
魔力有り余ってるからって、俺たちに使わないでほしい。
アイク副団長は若くしてソードマスターとして認められ、氷魔法まで使いこなしている第3騎士団の最終兵器みたいな人だ。
魔獣の襲来が多い時に、副団長が無表情で戦っているのをみた。白く輝くオーラーが副団長の体から立ち上り、神々しい。強すぎて人間レベルじゃなくて、副団長が味方で安心したけど、どこかでゾッとした。
整いすぎた顔に無表情で何考えているかわからない。人間味がなくて、レイノード先輩はよく側で働けるなって思った。
一度レイノード先輩にそれを言ったら「確かに」と激しく同意してくれていた。
「でも優しいとこもあるんだけどね。たぶん? まあ頼りになるのは間違いない」って笑っている。本当に先輩は優しくて懐が深い。
今もレイノード先輩は慌てることなく、落ち着いている。先輩だけは、凍ってなかったけど、流石に寒いみたいで、団服を脱ぐのはやめたみたいだ。
でも、いつも制服をきっちり着ている先輩の、胸元が少し空いてるだけで眼福ものだ。ドキドキする。
いつの間にか先輩の隣に無表情のアイク副団長がいて、まるで王子様みたいにレイノード先輩に手を差し伸べ、凍りつく湖の上を二人で歩いて湖岸に戻っていった。顔とスタイルがいいから絵になる。
あの人は魔王か。
建国祭の後には、アイク副団長が団長に就任するらしい。うわー!!
どうなるんだ第3騎士団は。レイノード先輩は。
そして俺たちと、周辺の湖はまだ凍っている。
溶かしていけよ!
自然と太陽の熱ですぐに氷は溶けたが、俺たちが湖岸に戻った時には、着替えて団服をきっちり着込んだレイノード先輩が、アイク副団長にお茶を入れていた。
アイク副団長は横暴だ。きっとさっきもお茶を入れさせるために、レイノード先輩を連れて行ったんだろう。
アイゼルバッハ団長にもお茶はふるまわれているが、それは気にならない。
アイク副団長の横暴さに、いつかレイノード先輩を救ってあげなければと誓う。苦労しているに違いない。
レイノード先輩と同じ同期の先輩たちにこの話をしたら、「おま、それ地雷。絶対やめろ」とガクガク震えていた。
なぜだ。
終わり
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