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第33話 頑張り時

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 クエストの完了報告をする為に冒険者ギルドへと戻った俺達。
 ここまでの帰り道、メイベルは少し落ち込んでいる様子で、あまり会話は弾まなかった。
 メイベルがどうするかは報告が終わってから聞いてみようと思う。
 俺としては別の仕事に目を向けて欲しいものだが。

「戻りました、お願いします」

「あら? 早かったですね。え~っとメイベルさん? でしたね。どうでしたか? 冒険者を希望されますか?」

「えっと……ううん、冒険者にはなりません。ヤマトさんには訓練次第と言われたんですけど、私の性格ではやっていける自信がありません……」
 どうやら自分の中でしっかりと結論は出ていたようだ。
 俺としてはホッとするところだが、働き口は見つかっていないので喜んでもいられない。

「そうですか──気に病まれる事はありませんよ。誰にでも門戸は開かれているとはいえ、"冒険者"は厳しいお仕事ですから。そういえば、体験された理由をお伺いしても?」

「わ、私、この街に住みたいんです。だからお仕事を探してて──ヤマトさんに相談して、体験させてもらったんです」

「移住希望の方だったんですね~。そういう事でしたら、まずは求人情報を確認されるとよろしいですよ、ご用意いたしましょうか?」

「そんなのあるんですか!? 是非、お願いします!」

「かしこまりました、少々お待ちください」
 キャシーがカウンターの引き出しを開け求人の条件等が記載された紙を取り出す。

「現在募集されている物はこちらになります──スス──」
 二人して求人情報を確認していく。
 役所の土木工事部署の作業員、農業組合の農具のメンテナンス要員、行商の丁稚奉公、その他様々な仕事の募集がされている。
 だが一瞥した限りでは、何かしらの技術が必要とされる仕事が多く、募集要件に男性推奨となっているものが多いようだ。

「私に勤まりそうな仕事は無いわね……」

「う~ん、確かに……結局この中には面接に行けそうな募集は無かったね」

「ご期待に沿えず申し訳ありません。求人の件数も波がありまして、今はこれだけとなっております」

「い、いえ! わざわざ見せていただいてありがとうございました」
 求人情報を閲覧出来たのは幸いだったが、やはりそう簡単には仕事を見つける事は出来なかった。

 次はどう動こうか悩んでいると、後ろから声をかけられた。

「こんにちはヤマトさん、リーフルちゃん」

「──あ、ダナさんこんにちは」 「ホホーホ(ナカマ)」
 どうやら今日は氷の納品日だったらしい。

「ヤマトさんは活動だってお聞きしていたけど、今日はパーティでのお仕事かしら?」

「こ、こんにちは。メイベルです」

「実は……」
 ダナさんにメイベルに協力している事、求人情報も空振りだった事を説明する。

「なるほどねぇ。私もこれまで苦労してきたもの、よくわかるわ。何かを始める時は大変よね」

「そうですね。中々難しいものです」

「そうね……」

「まぁ今日が最後のチャンスってわけでも無いし、諦めてしまうよりも、また行動する事の方が大事だと思うよ」
 そう慰めはするが状況を考えれば、実質職探しが出来る最後のチャンスだろう。
 何も決まらないまま村へ帰れば、辞めるよう説得されるだろうし、マーウとブランの家も新たに建てられるだろう。
 
「あ! だったら私の代わりに働いてもらうっていうのはどうかしら?」

「代わり……ですか?」

「おかげさまでかき氷を販売しているでしょう? "ヘレン"さんって理解ある方でね、パン屋さんの勤務時間を減らして、融通してくれているのよ」

「そういえばパン屋さんで働いておられるんでしたよね」
 
「そうなの、でもそのせいでヘレンさんに負担をかけてしまっていて、私としては心苦しかったのよ」
 以前ダナさんは他にも仕事をしていると言っていた。
 かき氷を販売する為の都合をつけてもらっていたのであれば、確かにそこは気に病む所だろう。

「パン屋さんってあの中央広場のパン屋さんですか?」

「そうよ。私、あそこでも働いているのよ。だから働き口を探しているのなら、私が紹介しましょうか?」

「え!? それは有難いですけど、接客業の経験なんて無いので大丈夫でしょうか……」

「大丈夫、誰だって最初はそうよ。仕事は徐々に覚えていけばいいのよ。とりあえず面接に行ってみる?」

「は、はい! お願いします!」

「かき氷の販売は大丈夫なんですか?」

「ヘレンさんにメイベルちゃんを紹介したら直ぐに戻ってくるから大丈夫よ」

「すみません、お世話になります!」

「じゃあ俺は一旦マーウ達と合流してくる。"面接"となるとメイベル個人の頑張りが必要だからね。落ち着いて気張らずに、素のメイベルで話せば上手く行くと思うよ。頑張って! 後でここ酒場に集合しよう。」
なんだか良い兆候──光明が見えた気がするので、俺はひとまずこの場を離れる事にした。

「……うん。ありがとうヤマトさん。私頑張ってくるわ!」
 メイベルの事を想えば、援護として俺が彼女の良い所をアピールしてあげる方が、より上手く行きそうだとは思う。
 だが結局、仮に採用となり働き出すのは"メイベル"であって、俺がその後をサポート出来るわけでは無い。
 だったら入り口から独力で頑張った方が後の為だろう。



「ホーホホ(タベモノ)」

「はいはい」
 
「んぐんぐ──ホ……」

「リーフルは良く食うなぁ。エサ代大変だろ」

「まぁ自分で狩りもしてるし、そこまでじゃないよ」
 
 メイベルと別れギルドを後にした俺は、程近い場所にある衣料品店の近くでマーウ達と偶然合流した。
 服を見たいと言うので、ブランは衣料品店へ、俺とマーウはベンチに腰掛け待っていた。

「──ところでどうだった? ブラン、機嫌直った?」

「ん?──あぁ、今日は元からそんなに怒っては無かったんだ。俺はそもそも村でこってり絞られたしな……今朝は思い出してぶり返しただけで、悪かったなヤマト」

「気にしないでいいよ、俺も反省すべき点があるわけだし」

「少し強気な性格だけど、可愛い奴なんだよあいつ」

「へぇ~。具体的な話は聞かないでおくよ、虚しくなるし」
 かつて飼っていたペット達のおかげか、これまでの人生で強く恋人を願った事は無いが、他人ののろけ話を聞くほどつまらない物もないので、事前に断っておく。

 そんな他愛もない会話をしていると、購入した物を携えたブランが戻って来た。
 
「お待たせ。見て! これかわいいでしょ?」
 ブランが見せてくれるワンピースは、妙に長さがあり、とても色とりどりで目がチカチカするほどだ。

(これ……前回のあの店のワンピースと似てる……)
 どうやら服のセンスは夫婦で息が合っているらしい。
 俺もメイベルもワンピースはハズレだと思っていたのだが、ガントレットでは無く、服を勧めれば丸く収まっていたみたいだ……。
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