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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.50 second farewell

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 その時、俺はポケットに入れた端末に気がついた。これって検索とかできるんだっけ。

 そう思って画面を見ると、真っ赤な空の下、美頼の顔が反射して映る。思った程余裕がない顔だった。

 「お、通知来てるじゃん」

 [ミッション7:人面ムカデを倒せ]

 [ミッション8:マンホールを開けろ]

 だいぶ殺伐とした通知だ。タップしてみると、詳細が表示される。

 [ミッション8:マンホールを開けろ//危険度☆☆//周りにいるゾンビのどれかが、鍵を握っているかもしれない]

 一気にゲーム感が出た気がする。

 とにかく時間もないので、辺りに倒れている死体の山を見回すが、相変わらずの光景だ。

 ボロい桃色ワンピースを着た女性は、首が完全に折れ曲がっている。同じセーラー服を着て、黄色いリボンをつけた女子高生が2人、泥と血にまみれて倒れている。その横には学ランの高校生らしき姿もあった。

 ──こいつのカバンか?

 そう思って横に落ちている学生カバンのチャックを開ける。得体の知れない液体で染みがついてひしゃげたノートや教科書が入っていた。それだけだった。

 苛立ちながら振り返ると、小さな赤ちゃんが上半身と下半身に分裂しているのが目に入り、顔をしかめる。

 「一体何が鍵なんだよ……」

 そう呟いた時、少し離れたところで何かが光った。俺は目を凝らす。今思えばこれもゲームのギミックだったのかもしれない。

 会社員らしい男性のスーツが破れていて、ついでに皮膚も破れていて、中身がもろに出てる場所。その隣。ランニングとトランクス姿でガタイの良いおじさんが、血色悪い顔でこういった趣旨のゲームによく出てくるものを手に握っていた。ゾンビに対抗しようと持ち出したのだろうか。

 ──バール。

 「あれをマンホールの穴に差し込んで開けるのか……?」

 急いで死体を踏み越え、そのおじさんの元へ走っていく。ちょうどそのタイミングで、美頼と優衣さんも最後の角を曲がってきた。携帯に通知が来る。

 [後方50m先に超大型危険生物の反応。危険度レベル30]

 [続けて敵23匹の敵の反応]

 「はいはいはい」

 俺はバールを取ろうと手を伸ばす。ランニングおじさんの手が離そうとしないので、無理やりこじ開けようとした。

 うがぉぁぁぁぁああ゛!!!

 「ひゃっ!?」

 やばい。生きてた。てか今聞こえた叫び声はまさか俺じゃないよな。まるで女みたいじゃないか。

 ともかく時間がないので、素早く腰からハンドガンを引き抜き、銃口をこめかみに当てる。もちろんおじさんのこめかみに。

 ダン。

 撃つとすぐに静かになった。わけも分からずバールに思いっきり噛み付いていたおじさんをどけて、俺はすぐにマンホールへ向かった。俺の腕に噛みついていたかもしれないと思うと、ゾッとした。

 「アキあんた何やってんの!?」

 「うるせえ!!!」

 無我夢中の我武者羅で、何回かミスりながらも、マンホールについた穴にバールを差し込む。引っかかる感触と共に持ち上げると、なんとか開けることが出来た。俺は振り返る。

 その間にもムカデは迫ってきていた。優衣さんと彼女に抱えられた美頼もすぐそこだ。

 「ってなんでお前お姫様抱っこされてんだよ!?」

 「うるせえっ!!!」

 美頼が答えながら地上に降りる。

 「優衣さん無限の体力だからほんと……ゲームなのに私めっちゃ疲れちゃった」

 「いいから早く入れ!!」

 優衣さんが初めて怒鳴った。当たり前だ。口を動かしている場合じゃないし、一刻を争う事態だ。

 マンホールの下にはハシゴが付いていた。少し離れているが、底は明るいのが見えている。美頼を先に行かせると、優衣さんは俺に先に行くよう言った。

 言いながら、ショットガンをまた撃ち込んだ。ムカデが痛そうな顔をする。効いているのか?

 美頼が降りるのにはそんなに手間取らなかった。順調に、俺もすぐに穴に入って降り始めた。だが、またもや上手くいかない。

 ちょうど穴に俺の体、つまりリアルでの美頼の体が肩まで入った時だ。

 ムカデが低い声で叫びながら、声を轟かせながら、尻尾を振り上げるのが見えた。

 そして、空に数十匹のゾンビが舞い上がったのも見えた。何が起こったのだろうか。だが俺はとにかく降りるのを止めなかった。

 今度こそ優衣さんを危険な目に合わせてはいけない。

 マンホールの周りに彼らは雨のように降り注ぐ。骨が折れる音も聞こえる。優衣さんがロープで縛ったのだろう。マンホールの蓋を閉めながら、優衣さんが降りてきた。

 正直ホッとした。

 「アキ!なんかすごい綺麗だよここ。下水道とは思えない」

 そうでないと困る。ここでまた普通の汚い下水道だと、終わりが見えない。俺も白い床に足をつけながら言った。

 「なんとか無事やり過ごせたな」

 そしてさらに上から優衣さんの足が降りてくる。

 「2人ともごめん」

 謝罪とともに。

 優衣さんはハシゴから飛び降りた。そして哀しそうに笑って言った。

 「肝心なとこでチートが切れちゃったわ」

 目の前の光景に目を覆いたかった。

 信じたくなかった。

 見たくなかった。

 「優衣さん……それ……」

 美頼が小刻みに震えながら声を漏らす。

 優衣さんの右腕は血だらけだった。えぐれた二の腕から、骨が剥き出しになっていた。

 「私の役目、もう終わりだわ」

 彼女は案外平然と、そう言った。
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