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第二編第一章 辻斬り事件
運命の馬車
しおりを挟む光の街セイントピアの本町は荒れていた。
一人の赤髪の男を追って帝国軍が入り乱れ
其の渦中に彷徨い込んだロードを追って
シャーレとポアラが其の後を走る。
一度、ロードの蹴りを受けて距離を
開けた上に珍しい思案の末に初めて
ロードの背中を見失ったドーマン。
其れを確認したロードは一度の
方向転換を試みて広場へと抜けて出た。
「チッ…こっちにも帝国軍がいやがる…大掛かりだなニャロウが…!」
まだロードには気付いてないものの
正面からも帝国軍の軍兵が広場に向かって
おり、ロードは背後のドーマンの事も
あって解りやすく慌て始める。
すると、ロードの目の前に馬車が止まる。
その馬車の扉が開くと、ロードに向かって
か細い手が伸ばされ、少女の声が聞こえる。
「追われていらっしゃるのでしょう?さあ、早く此方へ」
「…え?」
「お早く!」
背後から素早い足音が聞こえて来る。
ロードはいまいち此の状況を呑み込めない
ままで、ドーマンを避けようと名も知らぬ
少女の手を握って馬車の中へと逃げ込む。
其の数秒後にドーマンと軍兵達が
広場へと駆け込んで来た。
馬車の扉は既に閉まり、緩り緩りと
ドーマン達の横を堂々と抜けて行く。
「奴は何処へ行ったのだ…?」
完全にロードを見失ったドーマンは
辺りを見渡して居たが、ロードの乗った
馬車は完全にスルーしてしまう。
其のドーマンの元へ一人の軍兵が
駆け寄って来るなり、切らした息も
整えぬまま、報告を始める。
「ドーマン少将…お耳に入れたい事が…」
ドーマンは部下の報告を聞いてほんの少し
だけ目を大きくさせた後に、周りへと
集まって来た部下に指示を下す。
辻斬り事件の犯人の疑惑を立てられた
赤髪の男を追う部隊と別に。
今さっき耳に入れた新たな火種の存在を
マークする部隊を編成。
「拙者は、一度戻る。此の場は任せ申すぞ」
ドーマンが足速に広場から離れて行く。
其の情報が馬車を先導する身なりの良い
風格を感じさせる五十路程の男性が
其の事を馬車内に伝える。
「どうやら、貴方様を追われて居た軍の者は離れた様です」
「…マジで!?ありがとう。助かったよ」
ロードを助けたのは目が丸く可愛らしい
ハーフアップの髪型をした栗毛の女性。
其の少女は、桃色と白基調のとても綺麗な
膝下丈のドレスを身に纏っており話し方も
どこか位の高さを感じさせる。
「申し遅れました。私はシェリー、貴方様のお名前は?」
「俺はロード。ロード・ヘヴンリーってんだ…何で助けてくれたんだ?」
「…ヘヴンリー…?…あ、はい。無実だ!善良だ!と言いながら走って逃げてる方が居るとお付きの者からの報告がありまして、たまたま近くを通られましたので、見過ごせないなと手を伸ばしました」
丁寧に説明されたロードは感謝の気持ちで
一杯だったのだが、一つ腑に落ちない
疑問を抱えて腕組みをして少女を見つめる。
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