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ネコ娘、ヒュームのケンカを観戦する

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 モンスターの掃討が終わると、ルイスは以前にヒュドラのダンジョンでもやっていたおにぎり屋を始めた。

 ルイスがおにぎりの具材を煮込む鍋から、美味しそうな匂いがする。

「牛肉のしぐれ煮です」

 でっかい三角形の米の中には、大量の具材がつまっていた。
 朝ごはんだ。
 みんなホクホク顔でおにぎりを受け取り、好きな場所で食べはじめた。

 アタイの頼んだおにぎりの中には、大きな唐揚げが入っていた。ルイスなら今すぐにでも店を出せると思う。

 皆が笑顔で朝飯を食っているところに、再び脱出クリスタルでヒュムニナの奴らが出てきた。

「ひ……人が苦労してダンジョンを回っている間に、のんきに飯を食いやがって……」

 赤髪の奴が怒りに震えているが、

「で、お前らはダンジョンの中で何を狩れたんだ?」
「どうせ、逃げ回ってただけだろ?」

 冒険者たちに成果を聞かれて答えられずに目をそらした。

「ボスを倒せば形勢逆転よ。行きましょう」
「しかし、脱出用クリスタルが、もう……」

 必死な姫に向かって、恐る恐る騎士が言う。
 そりゃ、あれだけ出戻りしてればな。クリスタルは高級品だし、数に限りがある。

「……もう、嫌です。帰りましょうよ」

 さっきも泣きそうだった気弱坊ちゃんが、本格的に滝のような涙を流して、性悪王女に訴えた。

「情けないこと言わないで! 私たちはヒュムニナの王侯貴族、最強パーティーなのよ」

 王女が叱咤するのに、となりの赤髪がかみついた。

「そもそも、お前の魔法が弱いのが原因だろうが! ボスどころか雑魚のワイバーンすら倒しあぐねやがって」
「何もせずに剣を持って震えていた人が文句を言わないでよ!!」

 ヒュームどものケンカを、周りの冒険者たちはニヤニヤしながら眺めていた。ケンカって見てる分には面白いからなぁ。

「コイツら、マジおもろっス」

 ササミは悪魔みたいな笑顔で、身を乗り出してヒュームのののしり合いを観戦していた。

「落ち着いてください、姫様っ!!」
「ひとまず、王都へ戻りましょう。宝物庫の武器を持って、S級冒険者に協力をあおげば勝てますよ」

 騎士の格好をした奴らがケンカする2人を必死になだめて、ヒュームたちは逃げるように去っていった。

「尻尾を巻いて逃げ出したっス」

 ササミがケラケラ笑っている。冒険者たちの笑い声が、去っていく人影を見送った。

「変なのもいなくなったし、食い終わったらダンジョンに潜って魔物の間引きをするか」

 ツキノワさんが言うのにみんな賛同して、ダンジョン内の駆除を開始することになった。
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