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ネコ娘、パンダに嫉妬する

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「エルザちゃ――んっ! 応援を連れてきたよ――!!」

 そのとき、遠くからチュウキチがたくさんの冒険者を連れて走ってくるのが見えた。

「く……、もうここに用はないわ。王宮に戻って、魔道具技師をとっちめるわよ!」

 ヒュムニナの奴らは、ルイスを置いて駅の方に逃げていった。

「おととい来やがれ!」

 アタイは奴らの後ろ姿をにらみつけたあと、すぐにルイスに駆け寄った。

「ルイス、大丈夫!?」

 急いでルイスを拘束する縄を解いた。

「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「怪我はない? 痛いところは?」

 アタイは両手でルイスの二の腕をつかんで顔をのぞきこんだ。

「こら、エルザ。近づきすぎだよ」

 たしなめるように、メリーによって彼から引き剥がされる。アタイはハッとして顔をおおった。

「ごめん、心配で、つい……」
「いえ、嬉しいです。こんな真剣に心配してもらえて」

 優しいルイスに、アタイは目を潤ませてしまった。

「まったく。アンタが泣いてたら、ルイスが感情を出せなくなるだろうに」

 メリーに呆れられてしまった。

 話しているうちにチュウキチたちが追いついてきて、ルイスの無事を確認し、みんな喜んでいた。

「皆さん、僕のために、ありがとうございます」
「いいって。いつもギルドで助けてもらってるのは、俺らの方だし」
「ルイスがいなくなったら、ワタシたちの目の保養ができなくなって困るもの~」

 冒険者たちは口々にルイスを励まし、また酒場に戻っていった。

「僕たちも戻りましょうか。居酒屋の店主の手伝いを抜けてきたから、困っているかもしれません」
「いや、ルイス、さすがに休んだら?」

 ルイスは首を横に振った。

「人がいてにぎやかなほうが、落ち着くので」
「そっか」

 アタイはまだ落ち着かなくて、無意識にルイスの服の裾をぎゅっと掴んでいた。ルイスは気にせず、そのままでいてくれる。

「アタシたちも酒場に戻ろうか。ササミを置いてきちゃったし」
「そうだな。デブパンダの面倒は、ハイパンダがみてやらねば!」

 シセンが謎の責任感を燃やしている。
 アタイたちはルイスを連れて店まで戻った。



 酒場に着くと、店主がルイスの顔を見てホッとしたように喜んでいた。
 勝手に出てしまったが、店主はチュウキチから事情を聞いたそうだ。
 テーブルには、食べかけの料理がそのまま残っていた。
 その横で、ササミが爆睡している。

「いい気なもんだね、コイツは」
「まあ、たくさん飲んでたから、しょうがない」
「テーブルの料理、追加しますね」

 ルイスは戻ってすぐにまたキビキビと働きだした。
 周りの冒険者たちや店主が、今日は休めと言っても聞かない。ケロっとしてまたホールと厨房を動き回っている。

「……さっきルイスがA級はおかしいって話になってたけど、私ちょっと、可能性はあると思うのよね」

 姉ちゃんがボソリとつぶやいた。

 アタイが参加した3回のボス戦を思い出す。
 どれも、ルイスの手助けがなければ、あんなにスムーズには勝てなかっただろう。
 ルイスほどサポート能力がある冒険者は、めったにいない。
 ヒュムニナの王女たちは、魔道具を直せばもとの強さに戻れると言われて納得していた。けど、おそらく、以前にダンジョンのボスに挑めていたのは、ルイスがいたからでもあると思う。
 奴らに気づかれて、またルイスを誘拐されたら困るから、誰にも言わないけどね。

「こんなところで寝て、風邪をひいたら大変ですよ」

 ルイスが大きなタオルを持ってきて、ササミの肩にかけていた。ササミはお気楽にいびきをかいている。
 ぐ……。ササミのくせにルイスに思いやられて、ねたましいっ!


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