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ネコ娘、レッサーパンダの因縁を知る
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翌日。丸一日ダンジョンに潜って外に出ると、明日にはボスを討伐してダンジョンを閉鎖すると告げられた。
「お魚ダンジョン、もったいなくないか?」
ギルドのテントで、副ギルドマスターにたずねた。
「ドロップする魔石が小さめで、ジスゴロスの街から距離もありますし、ブームが去れば冒険者が来なくなるかと」
「ああ~」
「それに、漁師の方の仕事とも競合してしまいますしね」
たしかに。今日もすごい量の魚をトラックで出荷していった。これが続けば漁業関係者にとって営業妨害だ。
「それで、エルザさんたちに相談が……」
「何?」
「ここのボスと戦ってみませんか?」
「へ!?」
驚いて副ギルドマスターを見る。となりにはルイスもいて、いつも通りニコニコしていた。
「今、ダンジョンの発生が増えていて、A級冒険者が不足しています。B級上位のエルザさんたちに、上がってほしいというわけです」
「えぇ……」
「アタシたちは3人パーティーだよ。B級3人じゃ無理だ。他に戦力はいるのか?」
戸惑うアタイに代わって、メリーが交渉しはじめた。
「それはもちろん、A級の方に助っ人に来ていただいています」
副ギルドマスターが言うのに続けて現れたのは、レトリー姉ちゃんだった。
「師匠に許可をとって、しばらくこっちに留まることにしたの。あなたたちがA級に上がるまで、お手伝いするわ」
最近見かけないと思っていた姉ちゃんは、東部にいる師匠に会いに行っていたらしい。
姉ちゃんは自信満々なようすだ。以前に姉ちゃんだけA級の状態で、ヒュドラに勝っているから。
でも、あれは他のA級冒険者が国外に出ているときで、仕方なくやったことだ。きっちり挑むなら、もうちょっと戦力がほしい。
「A級が1人だけでボスと戦うのはちょっと……」
「はい。もう1人、旅の冒険者の方にお願いしています」
副ギルドマスターに紹介されたのは、小柄な女の子だった。黒い髪をポニーテールにして、腰に刀を差している。
「拙者、ハイパンダ獣人のシセンと申す。旅の途中で通りかかったが、民のため、ご助力いたそう」
少女は聞いたこともない獣人を名乗った。
ハイパンダ?
何の動物がもとだろう。太くてシマシマな尻尾は、アライグマに似ていた。
アタイはとなりのササミをチラリと見る。
ササミはパンダ獣人だ。
でっかい身体に黒い丸耳。たれ目で、目の周りに濃いアイシャドウを塗ったような隈がある。
これがアタイの知るパンダ獣人だ。
ハイパンダのシセンと名乗る、小柄で可愛らしい少女とは、似ても似つかなかった。
「何スか、このチビ?」
初対面相手に失礼なササミが、シセンを見下ろす。
「き……きさまは……」
ササミを見たシセンは、目を丸くした。そして、親の仇にでも会ったかのように、ひどく顔を歪めた。
「きさまは、我らの仇、デブパンダではないかっ!」
激しく興奮したシセンが、ササミに向かって吠えた。
ササミに向ける目に憎悪を感じる。
ササミには心当たりがないのか、首をかしげていたが、しばらくして、ああ、と、何かに気がついた。
「よく見ればお前、レッサーパンダじゃないっスか!」
「その名を言うなぁぁっ!!!」
シセンが絶叫した。
ん? レッサーパンダ?
レッサー……。
あ……。
「きさまらデブパンダのせいで、我らに不名誉な名がついたのだ!!」
※ ※ ※
はじめ、レッサーパンダは単に「パンダ」と呼ばれていた。しかし、後にジャイアントパンダが発見されて有名になると、単に「パンダ」といった場合はジャイアントパンダを指すようになった。そこで、従来のパンダの方に「小さい方の」という意味の英語「レッサー」(lesser)を付けて、レッサーパンダと呼ぶようになった。
※ ※ ※
な……何にゃ。突然、頭にwiki情報が流れてきたにゃっ!
「……どうやら因縁のある種族が出会っちゃったようだね」
今にも取っ組み合いのケンカをはじめそうなシセンとササミを見ながら、メリーが呆れたように呟いていた。
「アンタたち、理由は分かったけど、一緒にダンジョンにもぐってボスと戦うんだよ?」
アタイはにらみ合う2人を力づくで引き離した。
「くっ……。たしかに、今は決戦前。不問に付そう」
「勝負は、街に戻ってからつけるっス」
プイと顔を背け合う2人。
明日にはボス戦だってのに、困った奴らだぜ。
「お魚ダンジョン、もったいなくないか?」
ギルドのテントで、副ギルドマスターにたずねた。
「ドロップする魔石が小さめで、ジスゴロスの街から距離もありますし、ブームが去れば冒険者が来なくなるかと」
「ああ~」
「それに、漁師の方の仕事とも競合してしまいますしね」
たしかに。今日もすごい量の魚をトラックで出荷していった。これが続けば漁業関係者にとって営業妨害だ。
「それで、エルザさんたちに相談が……」
「何?」
「ここのボスと戦ってみませんか?」
「へ!?」
驚いて副ギルドマスターを見る。となりにはルイスもいて、いつも通りニコニコしていた。
「今、ダンジョンの発生が増えていて、A級冒険者が不足しています。B級上位のエルザさんたちに、上がってほしいというわけです」
「えぇ……」
「アタシたちは3人パーティーだよ。B級3人じゃ無理だ。他に戦力はいるのか?」
戸惑うアタイに代わって、メリーが交渉しはじめた。
「それはもちろん、A級の方に助っ人に来ていただいています」
副ギルドマスターが言うのに続けて現れたのは、レトリー姉ちゃんだった。
「師匠に許可をとって、しばらくこっちに留まることにしたの。あなたたちがA級に上がるまで、お手伝いするわ」
最近見かけないと思っていた姉ちゃんは、東部にいる師匠に会いに行っていたらしい。
姉ちゃんは自信満々なようすだ。以前に姉ちゃんだけA級の状態で、ヒュドラに勝っているから。
でも、あれは他のA級冒険者が国外に出ているときで、仕方なくやったことだ。きっちり挑むなら、もうちょっと戦力がほしい。
「A級が1人だけでボスと戦うのはちょっと……」
「はい。もう1人、旅の冒険者の方にお願いしています」
副ギルドマスターに紹介されたのは、小柄な女の子だった。黒い髪をポニーテールにして、腰に刀を差している。
「拙者、ハイパンダ獣人のシセンと申す。旅の途中で通りかかったが、民のため、ご助力いたそう」
少女は聞いたこともない獣人を名乗った。
ハイパンダ?
何の動物がもとだろう。太くてシマシマな尻尾は、アライグマに似ていた。
アタイはとなりのササミをチラリと見る。
ササミはパンダ獣人だ。
でっかい身体に黒い丸耳。たれ目で、目の周りに濃いアイシャドウを塗ったような隈がある。
これがアタイの知るパンダ獣人だ。
ハイパンダのシセンと名乗る、小柄で可愛らしい少女とは、似ても似つかなかった。
「何スか、このチビ?」
初対面相手に失礼なササミが、シセンを見下ろす。
「き……きさまは……」
ササミを見たシセンは、目を丸くした。そして、親の仇にでも会ったかのように、ひどく顔を歪めた。
「きさまは、我らの仇、デブパンダではないかっ!」
激しく興奮したシセンが、ササミに向かって吠えた。
ササミに向ける目に憎悪を感じる。
ササミには心当たりがないのか、首をかしげていたが、しばらくして、ああ、と、何かに気がついた。
「よく見ればお前、レッサーパンダじゃないっスか!」
「その名を言うなぁぁっ!!!」
シセンが絶叫した。
ん? レッサーパンダ?
レッサー……。
あ……。
「きさまらデブパンダのせいで、我らに不名誉な名がついたのだ!!」
※ ※ ※
はじめ、レッサーパンダは単に「パンダ」と呼ばれていた。しかし、後にジャイアントパンダが発見されて有名になると、単に「パンダ」といった場合はジャイアントパンダを指すようになった。そこで、従来のパンダの方に「小さい方の」という意味の英語「レッサー」(lesser)を付けて、レッサーパンダと呼ぶようになった。
※ ※ ※
な……何にゃ。突然、頭にwiki情報が流れてきたにゃっ!
「……どうやら因縁のある種族が出会っちゃったようだね」
今にも取っ組み合いのケンカをはじめそうなシセンとササミを見ながら、メリーが呆れたように呟いていた。
「アンタたち、理由は分かったけど、一緒にダンジョンにもぐってボスと戦うんだよ?」
アタイはにらみ合う2人を力づくで引き離した。
「くっ……。たしかに、今は決戦前。不問に付そう」
「勝負は、街に戻ってからつけるっス」
プイと顔を背け合う2人。
明日にはボス戦だってのに、困った奴らだぜ。
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