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ヒュムニナ王女の不調
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ルイスを追放した王女のその後。
とある迷宮の最深部。
場違いに派手なデザインのドレスを着て、クリスティーナ王女はボスを前にため息をついた。
「ダンジョンって、どこも同じような薄暗い洞窟。嫌になるわ」
王女の手には宝石のように輝く魔石をちりばめたステッキがあった。ヒュムニナ王国の国宝の1つだ。
「クリスティーナ姫の活躍で、王国民は皆、平和に暮らせているのです。高貴な身でありながら人類の敵と戦われる姫こそ、至高の存在です」
ミルクティー色の髪の貴公子、パトリックが王女の手をとると、
「弱っちー国民どものために働かされるなんて、クリスティーナが可哀そうだろ。でも、年寄りの王侯貴族まで、姫に期待してるからな」
負けじと、豪華な装備をチャラく着くずしたアンディが、王女の肩に手を置いた。
2人とも、ルイスの追放に賛同したメンバーだった。
「嫌になるわ。若者を働かせて威張るどうしようもないオジサンばっかり」
王女はムスッと唇を尖らせる。
「そうカリカリすんなよ。これ倒して帰ったら、国王に退位を迫っちまえ。クリスティーナの活躍を考えたら、王位はもうお前のもんだって」
アンディがキザな笑みを見せると、王女の気分が少し浮上した。
「仕方ないわね。アンディ、私、がんばるから、たくさん褒めてね」
王女はきらめく杖を迷宮のボスに向けて構えた。敵は3つ目の巨大なトロールだった。
「戦闘を開始します。敵の注意を引いてください」
「はっ。かしこまりました」
大盾を持った騎士が2名、トロールに向かって走りだす。
「<挑発>!」
トロールが振り下ろすこん棒を、騎士の1人が盾で受けた。
「ぐっ……。長くは持ちません。攻撃を……!」
ときどきくる重い一撃をかわしながら、騎士たちは必死に敵の攻撃に耐えた。
「しょうがないわね。<サンダーシャワー>!」
クリスティーナが魔法を放つと、広範囲に激しい雷撃が降り注いだ。その光は一瞬、ダンジョンを明るく照らす。
しかし、魔法がおわってみると、トロールに大したダメージは入っていなかった。
「……? どうした、クリスティーナ。何かミスったか?」
「分からないわ。もう1度いく」
再び広範囲に雷撃が広がる。しかし、またもモンスターはピンピンしていた。
「何なの、どうなってるのよ、もうっ」
何度クリスティーナが魔法を使っても、結果は変わらなかった。そのうちに、
「ぐふっ……」
トロールの攻撃を防いでいた騎士の1人が深手を負った。
「ちょっと、何やって……」
「まずい。逃げるぞ、クリスティーナ!」
アンディがクリスティーナの腕をとった。
「転移のクリスタルは持っているな?」
「えぇ。でも、私はこんな雑魚よりずっと強いボスも倒したことがあるのよ!?」
自分の魔法に自信のあったクリスティーナは混乱していた。
「ぐ……ぐわぁっ」
もたもたしている間にもう1人の騎士もダメージを負う。
「言い訳は後でだ。死ぬ前に脱出するぞ!」
「……何かの間違いよ、こんな……」
クリスティーナが持っていた転移のクリスタルを発動すると、一瞬でパーティーはダンジョンの外に緊急脱出した。
* * *
「クリスティーナ姫がダンジョン攻略に失敗した!?」
ヒュムニナ王国の王宮で、急報を聞いた国王が驚きの声をあげた。
「それで、王女は無事だったのか?」
「はい。脱出アイテムを使われたので」
「そうか……」
周囲の家臣がざわついている。
王女はこれまでにいくつものダンジョンボスを討伐し、名声をほしいままにしていた。
それが、突然の失態。
「王女の周囲に、何か変化があったのか?」
国王がたずねると、大臣が言いにくそうに口ごもりながら、
「その……、侯爵家のご子息の件が……」
「あれか。王女が捨てた男が思いのほか優秀だったということか?」
「いえ……。彼の魔力量はあまり高くなかったようです。それに、彼は混ざりもので……」
混ざりもの。
ヒューム至上主義の王国で、他種族との混血は差別されていた。たとえ貴族であっても、混血の立場は低い。
「ふむ。王女の不調の原因はおいおい調査するとして、ダンジョンの管理に王女のあけた穴を埋める方が急務か」
国王はひとまず目先の問題に対処することにした。
「国外のA級冒険者に依頼する許可をお願いします」
臣下の提案に、国王は顔をしかめた。
「野蛮な他種族を我が国に招くと?」
「いたしかたありません。ダンジョンブレイクを起こすよりはマシです」
「ふん。まあ、よいわ」
長年ヒュームだけを優遇してきた王国に活力はなく、他国の力を借りなければダンジョンの処理もままならなくなっていた。国王と家臣たちはその事実に見て見ぬふりを続け、とりあえずの対応を続けるのだった。
とある迷宮の最深部。
場違いに派手なデザインのドレスを着て、クリスティーナ王女はボスを前にため息をついた。
「ダンジョンって、どこも同じような薄暗い洞窟。嫌になるわ」
王女の手には宝石のように輝く魔石をちりばめたステッキがあった。ヒュムニナ王国の国宝の1つだ。
「クリスティーナ姫の活躍で、王国民は皆、平和に暮らせているのです。高貴な身でありながら人類の敵と戦われる姫こそ、至高の存在です」
ミルクティー色の髪の貴公子、パトリックが王女の手をとると、
「弱っちー国民どものために働かされるなんて、クリスティーナが可哀そうだろ。でも、年寄りの王侯貴族まで、姫に期待してるからな」
負けじと、豪華な装備をチャラく着くずしたアンディが、王女の肩に手を置いた。
2人とも、ルイスの追放に賛同したメンバーだった。
「嫌になるわ。若者を働かせて威張るどうしようもないオジサンばっかり」
王女はムスッと唇を尖らせる。
「そうカリカリすんなよ。これ倒して帰ったら、国王に退位を迫っちまえ。クリスティーナの活躍を考えたら、王位はもうお前のもんだって」
アンディがキザな笑みを見せると、王女の気分が少し浮上した。
「仕方ないわね。アンディ、私、がんばるから、たくさん褒めてね」
王女はきらめく杖を迷宮のボスに向けて構えた。敵は3つ目の巨大なトロールだった。
「戦闘を開始します。敵の注意を引いてください」
「はっ。かしこまりました」
大盾を持った騎士が2名、トロールに向かって走りだす。
「<挑発>!」
トロールが振り下ろすこん棒を、騎士の1人が盾で受けた。
「ぐっ……。長くは持ちません。攻撃を……!」
ときどきくる重い一撃をかわしながら、騎士たちは必死に敵の攻撃に耐えた。
「しょうがないわね。<サンダーシャワー>!」
クリスティーナが魔法を放つと、広範囲に激しい雷撃が降り注いだ。その光は一瞬、ダンジョンを明るく照らす。
しかし、魔法がおわってみると、トロールに大したダメージは入っていなかった。
「……? どうした、クリスティーナ。何かミスったか?」
「分からないわ。もう1度いく」
再び広範囲に雷撃が広がる。しかし、またもモンスターはピンピンしていた。
「何なの、どうなってるのよ、もうっ」
何度クリスティーナが魔法を使っても、結果は変わらなかった。そのうちに、
「ぐふっ……」
トロールの攻撃を防いでいた騎士の1人が深手を負った。
「ちょっと、何やって……」
「まずい。逃げるぞ、クリスティーナ!」
アンディがクリスティーナの腕をとった。
「転移のクリスタルは持っているな?」
「えぇ。でも、私はこんな雑魚よりずっと強いボスも倒したことがあるのよ!?」
自分の魔法に自信のあったクリスティーナは混乱していた。
「ぐ……ぐわぁっ」
もたもたしている間にもう1人の騎士もダメージを負う。
「言い訳は後でだ。死ぬ前に脱出するぞ!」
「……何かの間違いよ、こんな……」
クリスティーナが持っていた転移のクリスタルを発動すると、一瞬でパーティーはダンジョンの外に緊急脱出した。
* * *
「クリスティーナ姫がダンジョン攻略に失敗した!?」
ヒュムニナ王国の王宮で、急報を聞いた国王が驚きの声をあげた。
「それで、王女は無事だったのか?」
「はい。脱出アイテムを使われたので」
「そうか……」
周囲の家臣がざわついている。
王女はこれまでにいくつものダンジョンボスを討伐し、名声をほしいままにしていた。
それが、突然の失態。
「王女の周囲に、何か変化があったのか?」
国王がたずねると、大臣が言いにくそうに口ごもりながら、
「その……、侯爵家のご子息の件が……」
「あれか。王女が捨てた男が思いのほか優秀だったということか?」
「いえ……。彼の魔力量はあまり高くなかったようです。それに、彼は混ざりもので……」
混ざりもの。
ヒューム至上主義の王国で、他種族との混血は差別されていた。たとえ貴族であっても、混血の立場は低い。
「ふむ。王女の不調の原因はおいおい調査するとして、ダンジョンの管理に王女のあけた穴を埋める方が急務か」
国王はひとまず目先の問題に対処することにした。
「国外のA級冒険者に依頼する許可をお願いします」
臣下の提案に、国王は顔をしかめた。
「野蛮な他種族を我が国に招くと?」
「いたしかたありません。ダンジョンブレイクを起こすよりはマシです」
「ふん。まあ、よいわ」
長年ヒュームだけを優遇してきた王国に活力はなく、他国の力を借りなければダンジョンの処理もままならなくなっていた。国王と家臣たちはその事実に見て見ぬふりを続け、とりあえずの対応を続けるのだった。
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