13 / 44
ネコ娘、ボス戦を決意する
しおりを挟む
3日ほどかけて、4層と5層の調査を終えた。
新ダンジョン前のギルド出張所で、ドロップアイテムを職員に見せる。
「パイソンレザーですか。そこそこ良い物が出たのですね」
ギルドの副マスターが、アタイたちの持ってきたドロップ品をルーペで観察しだした。
副マスターはひげの長いヤギ獣人のおじさんだ。
ギルドマスターは外部向けの交渉役で、現場を仕切るのは、いつもこの副マスターだった。
「マムシ酒も出たっス。参考品に出すやつ以外は、持ち帰って飲んでも良いっスよね?」
ササミは酒を手放す気がないらしい。横でメリーも頷いていた。
「構いません。うーん、提出していただいた品を見ると、魅力のあるドロップが出ていますが……」
副マスターは腕を組んで考えだした。
危険が少なければ潰さないダンジョンだ。
「でも、出現モンスターは全て毒持ちだったのでしょう?」
レトリー姉ちゃんが指摘する。毒持ちが多い時点で、余程のリターンが得られない限り、そのダンジョンは閉じられる。
理由はシンプル。毒消し薬の数に限りがあり、常に品薄気味なのだ。
「そうです。今回は1層がいちばんまずかったです。弱い毒蜂の魔物なのですが、大群で出るので、D級冒険者が刺されずに狩るのは難しそうでした」
毒消し薬を浪費するほど良いドロップではなかった。
「閉鎖で決まりかしら?」
レトリー姉ちゃんが尋ねると、副マスターはあごに手をやり、探るように姉ちゃんをうかがった。
「レトリーさんは、A級冒険者でしたよね。すぐに討伐は可能でしょうか?」
「いいえ。こちらには休暇で来ているだけよ。私のボス攻略パーティーは、ここよりずっと東に拠点を置いているの」
「そうですよね……」
姉ちゃんの言葉に、副マスターはガックリと肩を落とした。
「何か問題があるの?」
「実は、隣国のヒュムニナからボス討伐の要請が大量に来まして、西地区のA級パーティーが出払っているのです」
アタイたちは国の西側の地域で活動している。さらに西に行くと、ヒュムニナ王国という国がある。ヒューム至上主義国家だから、距離は近いがうちの国とは疎遠だった。
だが、そちらから突然、ボス討伐の依頼が来たそうだ。
「ヒュムニナといえば、王族のすごく強いパーティーがいるって、噂があったわよね」
「はい。王女を中心とした攻略チームが目覚ましい活躍でした。しかし、そのチームに異変があったようで……」
へぇ。姉ちゃんも副マスターも、外国のことまでよく知ってるな。
「国外へA級パーティーを貸し出すのは構わないんです。困ったときはお互い様ですし、お金もちゃんといただいているので。しかし、今回はタイミングが……」
毒魔物のダンジョンさえ発生しなければ、そんなに困らなかった。B級以下の冒険者に多めの報酬を出して、しばらくダンジョンの魔物を間引いておけばいいだけだから。
「討伐までに時間がかかると、街とギルドが備蓄する毒消し薬が底をつきます」
「……大問題ね」
副ギルドマスターが頭を抱えている。
毒消し薬がなければ、助かる命も死んでしまうかもしれない。
「……ボスの討伐は、A級が1人でもいれば、他はB級以下でもよかったわよね」
「規定ではそうなっています。……そうか、強いB級なら、目の前にいますね」
副ギルドマスターがキラキラした瞳でアタイたちの顔を見回した。
「マジか……」
アタイはポカンと口をあけた。
「調査で5層に潜ったときに、ボスも調べたでしょ? ボスは毒ヒュドラだった。トリッキーなモンスターって、単純な物理攻撃力や防御力は低いの。対策さえすれば、弱い冒険者でも死ににくいし、攻撃が通りやすいわ」
姉ちゃんの説明に、
「ヒュドラでしたら、攻略法が作られていますね!」
副マスターがすごく乗り気になってしまった。
「……分かった。やるよ」
大勝負になる。でも、誰かが解決してくれるなんて思っていたら、世の中まわっていかない。やれる奴がやる。今回は、アタイたちに役目がきたんだと思おう。
「エルザ1人を死にに行かせるわけにはいかない。アタシも参加するよ」
「ウチもやるっス。連携のとれるパーティーの方が、勝率が上がるっス」
メリーとササミも協力を申し出てくれた。
「僕も参加します。僕がいれば、ギルド所有の緊急脱出クリスタルを持ち出せる。ですよね、副マスター?」
ルイスが副マスターに確認すると、
「はい。でも、貴重アイテムなので、1つしか出せませんよ」
「大丈夫です。全員無事で、1回で決着をつけます」
ルイスの自信はどこからくるんだろう。彼はこんな状況でも落ち着いて、ニコニコ微笑んでいる。でも、ルイスが大丈夫って言うなら、大丈夫な気がしてきた。
アタイたちは一度休憩をはさんで、ボス戦に行くことに決めた。
新ダンジョン前のギルド出張所で、ドロップアイテムを職員に見せる。
「パイソンレザーですか。そこそこ良い物が出たのですね」
ギルドの副マスターが、アタイたちの持ってきたドロップ品をルーペで観察しだした。
副マスターはひげの長いヤギ獣人のおじさんだ。
ギルドマスターは外部向けの交渉役で、現場を仕切るのは、いつもこの副マスターだった。
「マムシ酒も出たっス。参考品に出すやつ以外は、持ち帰って飲んでも良いっスよね?」
ササミは酒を手放す気がないらしい。横でメリーも頷いていた。
「構いません。うーん、提出していただいた品を見ると、魅力のあるドロップが出ていますが……」
副マスターは腕を組んで考えだした。
危険が少なければ潰さないダンジョンだ。
「でも、出現モンスターは全て毒持ちだったのでしょう?」
レトリー姉ちゃんが指摘する。毒持ちが多い時点で、余程のリターンが得られない限り、そのダンジョンは閉じられる。
理由はシンプル。毒消し薬の数に限りがあり、常に品薄気味なのだ。
「そうです。今回は1層がいちばんまずかったです。弱い毒蜂の魔物なのですが、大群で出るので、D級冒険者が刺されずに狩るのは難しそうでした」
毒消し薬を浪費するほど良いドロップではなかった。
「閉鎖で決まりかしら?」
レトリー姉ちゃんが尋ねると、副マスターはあごに手をやり、探るように姉ちゃんをうかがった。
「レトリーさんは、A級冒険者でしたよね。すぐに討伐は可能でしょうか?」
「いいえ。こちらには休暇で来ているだけよ。私のボス攻略パーティーは、ここよりずっと東に拠点を置いているの」
「そうですよね……」
姉ちゃんの言葉に、副マスターはガックリと肩を落とした。
「何か問題があるの?」
「実は、隣国のヒュムニナからボス討伐の要請が大量に来まして、西地区のA級パーティーが出払っているのです」
アタイたちは国の西側の地域で活動している。さらに西に行くと、ヒュムニナ王国という国がある。ヒューム至上主義国家だから、距離は近いがうちの国とは疎遠だった。
だが、そちらから突然、ボス討伐の依頼が来たそうだ。
「ヒュムニナといえば、王族のすごく強いパーティーがいるって、噂があったわよね」
「はい。王女を中心とした攻略チームが目覚ましい活躍でした。しかし、そのチームに異変があったようで……」
へぇ。姉ちゃんも副マスターも、外国のことまでよく知ってるな。
「国外へA級パーティーを貸し出すのは構わないんです。困ったときはお互い様ですし、お金もちゃんといただいているので。しかし、今回はタイミングが……」
毒魔物のダンジョンさえ発生しなければ、そんなに困らなかった。B級以下の冒険者に多めの報酬を出して、しばらくダンジョンの魔物を間引いておけばいいだけだから。
「討伐までに時間がかかると、街とギルドが備蓄する毒消し薬が底をつきます」
「……大問題ね」
副ギルドマスターが頭を抱えている。
毒消し薬がなければ、助かる命も死んでしまうかもしれない。
「……ボスの討伐は、A級が1人でもいれば、他はB級以下でもよかったわよね」
「規定ではそうなっています。……そうか、強いB級なら、目の前にいますね」
副ギルドマスターがキラキラした瞳でアタイたちの顔を見回した。
「マジか……」
アタイはポカンと口をあけた。
「調査で5層に潜ったときに、ボスも調べたでしょ? ボスは毒ヒュドラだった。トリッキーなモンスターって、単純な物理攻撃力や防御力は低いの。対策さえすれば、弱い冒険者でも死ににくいし、攻撃が通りやすいわ」
姉ちゃんの説明に、
「ヒュドラでしたら、攻略法が作られていますね!」
副マスターがすごく乗り気になってしまった。
「……分かった。やるよ」
大勝負になる。でも、誰かが解決してくれるなんて思っていたら、世の中まわっていかない。やれる奴がやる。今回は、アタイたちに役目がきたんだと思おう。
「エルザ1人を死にに行かせるわけにはいかない。アタシも参加するよ」
「ウチもやるっス。連携のとれるパーティーの方が、勝率が上がるっス」
メリーとササミも協力を申し出てくれた。
「僕も参加します。僕がいれば、ギルド所有の緊急脱出クリスタルを持ち出せる。ですよね、副マスター?」
ルイスが副マスターに確認すると、
「はい。でも、貴重アイテムなので、1つしか出せませんよ」
「大丈夫です。全員無事で、1回で決着をつけます」
ルイスの自信はどこからくるんだろう。彼はこんな状況でも落ち着いて、ニコニコ微笑んでいる。でも、ルイスが大丈夫って言うなら、大丈夫な気がしてきた。
アタイたちは一度休憩をはさんで、ボス戦に行くことに決めた。
0
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

配信者ルミ、バズる~超難関ダンジョンだと知らず、初級ダンジョンだと思ってクリアしてしまいました~
てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
女主人公です(主人公は恋愛しません)。18歳。ダンジョンのある現代社会で、探索者としてデビューしたルミは、ダンジョン配信を始めることにした。近くの町に初級ダンジョンがあると聞いてやってきたが、ルミが発見したのは超難関ダンジョンだった。しかしそうとは知らずに、ルミはダンジョン攻略を開始し、ハイランクの魔物たちを相手に無双する。その様子は全て生配信でネットに流され、SNSでバズりまくり、同接とチャンネル登録数は青天井に伸び続けるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる