上 下
6 / 44

ネコ娘、腹巻きをする

しおりを挟む
 ミノタダンジョンレアドロップ狩り、3度目のチャレンジ。
 初日、3戦目。
 ポンッ!

「でた……」
「でたね」
「でるときは、あっさりだねぇ」

 目当ての牛革のリュックがドロップした!

「どうしよ? 来てすぐだけど、戻る?」
「そっスね。続けると、ウチの盾がまた買い替えになるっス」

 ミノタダンジョンのウシは攻撃力が高いので、一瞬のミスが命取りになる。長く続けるものではない。

「撤収~」
「……ドロップ肉は2個か。今日の打ち上げで食って終わりだな」
「そうっスね」



 街に戻ると、飲み屋に直行するには早い時間だったので、ギルドに寄った。
 魔石を3つだけ換金する。

「ダンジョンに行かれたにしては、早くに戻られたのですね」

 受付がすいていたので、ルイスが話しかけてくれた。

「あぁ。目的のものがとれたんだ」
「それは、おめでとうございます」

 ルイスに祝ってもらえた。アタイの頬がゆるむ。

「そうだ。この間の焼肉のお礼」

 ルイスはアタイたちに紙袋を1つずつ渡した。
 中には、毛糸の腹巻はらまきが入っていた。
 アタイのは、虎柄になるように、黄色と黒の毛糸で編んであった。

「ふわぁ」

 キラキラした目で腹巻を見つめる。

「女冒険者さんは、お腹をだしている人が多いので、風邪をひかないように、ね」
「受付で暇なときに編み物をしていたのは、これを作っていたのか」

 モコモコの白い腹巻を広げながらメリーが言う。そっか、これ、ルイスの手編みなんだ。

「ありがとう、ルイス。大事にする!」

 アタイはさっそくルイスの腹巻を身に着けて、スキップしながら通りに出た。

「ボンキュッボンへそ出し女冒険者に腹巻……。エルザ姐さんの唯一の取り柄であるスタイルを殺すアイテムっスねぇ」

 ササミがボソボソと失礼なことを言う。

「何だと? アタイは他にも良いところだらけだろがっ!」
「……エルザ、その腹巻を着けたまま酒場に行くのか? 汚さずに飯が食えるの?」

 ササミに怒鳴っていると、メリーに冷静に指摘された。

「はっ、マズい! 先行ってて。部屋に保管してから飲みに行く」

 アタイは慌てて、借りているアパートの部屋まで走って帰るのだった。



* * *



 翌日、情報収集に、アタイは冒険者ギルドの掲示板を眺めていた。おなかには、ルイスがくれた腹巻をしている。冷やさないように言われたからね。
 鼻歌まじりにドロップ品の相場をチェックしていると、知り合いに声をかけられた。

「エ…エルザちゃん、その腹は……」

 ネズミ獣人のチュウキチだった。彼はネズミのイメージに反し大柄で、よくいる筋肉自慢の男冒険者だ。

「ふふふ。いいだろう、似合うか?」

 アタイは腰に手を当ててチュウキチに腹巻を自慢する。

「え、いや……。何で急に腹巻なんて……」
「もらったんだ。腹巻してみて分かった。アタイ、お腹を冷やしてた!」
「そ……そうか。その、誰にもらったんだ?」

 チュウキチに尋ねられて、アタイは答える前にムフフと笑みがもれてしまった。

「ルイスにもらったんだ。アタイの耳と同じトラ柄だぞ!」

 知り合いにお気に入りのアイテムを自慢するって、気分がいいなぁ。
 アタイはますます上機嫌になるのだった。
しおりを挟む

処理中です...