いばりんぼうとおこりんぼう 〜殺人現場でボーイ・ミーツ・ガール〜

もーりんもも

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第41話 優里③

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 妹尾のターンは終わったなと、堤がやんわり切り出した。

「お母さん。優里さんはまだお若いのに、お見合いをされているんですね。何か理由がおありですか?」
「え?」

 母娘が同時に堤を見た。急な話題転換に戸惑っている。

「別に。理由なんて――。然るべき相手を探すには、それなりの方に頼むのが間違いありませんから。それに、優里はもう二十五で、今年の誕生日で二十六です。ぐずぐずしていると、あっという間に三十になってしまいます。そうなると良い縁談がどんどん少なくなるのです」
「ああ、なるほど。それで――」
「それが事件と何か関係があるのですか? 高木家を紹介してくださったのは、お仲人さんで、私どもから望んだ訳ではありません」

 景子は、まるで自分たちが高木家に狙いを定めていたと言われたようで、憤慨している。

「ああ、すみません。実は、仲人さんに少しだけお話をお聞きしたのですが、あの仲人さんは、お似合いのお相手を紹介するために、結婚相手に求める条件を細かくお聞きになるそうですね。優里さんからの条件はどなたが考えられたんですか?」
「もちろん、私たち二人で相談して決めました。初めから妥協してしまうと、その条件より良い方には会えませんから。きちんとお伝えしました」
「なるほど――」

 堤が立川に目配せすると、立川が何やらびっしりと記入されたA4の用紙を二枚ずつ、妹尾と景子の前に置いた。
 妹尾と佐川が驚いている。配布した用紙は、仲人からもらった優里の結婚相手に求める条件だった。


・安定した年収が八百万円以上。一千万円以上であればなお良い。もしくは預貯金が一億円以上あること。(目減りする可能性のある固定資産や、現金化が難しいものは考慮に入れない)
・毎月の生活費は、家賃等の住居費を除いて四十万円以上で相談したい。
・職業は要確認。一流企業の会社員や士業でなくとも、その道の第一線で活躍されているプロフェッショナルであれば問題ない。
・学歴は四年制大学卒業以上で可。
・英会話が得意であればなお良い。
・身長は百七十五センチ以上を希望。百七十センチ以上であれば問題ない。百七十センチ未満の場合でも、他の条件が著しく良い場合は可。
・獣人ドックでB判定以下がないこと。特にBMIは十九から二十二の間が望ましい。
・裸眼視力が1.5以上を希望。1.0以上なら可。レーシックでも可。
・運動をする習慣があること。週に何度かジムに通っていればなお良い。
・デンタルクリニックに最低でも年四回以上はクリーニングに通うこと。現状、虫歯がないことが最低条件。
・喫煙の習慣がないこと。
・一日あたりの飲酒量が適正な量であること。
・新居のインテリアについては、デザイナーと相談して決めること。
・義両親との同居は、二世帯住宅であれば可。
・エアコンの室温設定については、夏は二十四度、冬は二十六度を希望。
・夫婦の誕生日と結婚記念日は、毎年欠かさずお祝いをすること。
・週に一度、最低でも二週に一度は外食をすること。
・月に一度、最低でも二ヶ月に一度は宿泊を伴う旅行をすること。
・半年に一度、最低でも年に一度は海外旅行をすること。
・LINEやメールの返信は、なるべく早く返すこと。
・親族に要介護者がいる場合、施設に預けるか、ケアできる方を雇っていただけるなら可。
・料理のメニュー、味付けについては文句を言わないこと。
・清掃に関しては、家事代行業者に依頼すること。
・情緒が安定し、気分にムラがないこと。
・妻を労り、さりげない気遣いができること。「さりげない気遣い」が何か分からないようならば不可。
・誰に対しても穏やかに丁寧に接すること。
・約束を忘れたり、物を紛失したりしないこと。
・最低限の整理整頓ができること。
・読みやすい筆跡であればなお良い。
・入籍前に、婚前契約を締結することが必須条件。
・浮気をしないこと。浮気をする前に、婚前契約に定める条件で離婚すること。


 石山によれば、これ以外にも細かな要望を延々と伝えたらしい。一緒に出かけた際は、階段ではなくエスカレーターを使うとか、時々、花をプレゼントするとか。
 結婚適齢期の立川と佐川が、食い入るように読んでいる。

「随分じゃありませんか。プライバシーの侵害です!」

 景子はそう言うと、ローテーブルの上に配布されていた用紙を全て回収し、両手で丸めてゴミにした。

「いえね。別にお見合いがどうこうと言うつもりはないんです。そういう考えもあるでしょうから」
「だから、お見合いがどうしたっていうんです!」

 景子は割と頭に血が上りやすいたちのようだ。

「仲人さんによると、中には細かい条件を挙げる人もいるにはいるらしいのですが、優里さんは、頭一つ抜き出て多かったそうです」
「先ほども申し上げましたけど、私たちは妥協せずに伝えたまでです」
「なるほど。ただ、たいていは、明るいとか優しいとか、まずはそういう要望を出されるものらしいですが――」

 景子は、「ふっ」と、鼻で笑うように言い放った。

「ま、そうでしょうね。真剣に考えていないから、そんな、ぼんやりとしたことを言うんですよ。多分、そういう方たちは、そもそも、「優しさ」を理解していないんでしょうね。私たちは割り箸を割ってくれたり、傘を広げて渡してくれたりするような、そんな優しさを求めている訳ではないんですよ。幸せな人生を歩むために必要なものを、お伝えしただけです」

 仲人は、『だいたい優先順位の高いものから順に仰ることが多いですね。なので、最初の三つの要望については、なるべく満たすような方をお探ししています』と、言っていたと言う。
 そうなると、畑野優里の条件は、ズバリ「金」ということになる。
 仲人も苦笑いをしていたそうだが頷ける。

 普段は、希望条件を全て書き出した後、どうしても譲れないものだけに絞っていく作業をするところ、優里の条件の多さに驚き、一言、『お会いしてみると印象が変わることもあるので、まずはお会いして、印象がよければ条件面はそれから』と、背中を押すことにしたらしいのだ。

「失礼ですが、こちらのお宅は、お金に困っているようには見えないんですが、何故、金銭面に拘っていらっしゃるんですか?」

 堤が感じた素朴な疑問だった。ずっと優里に対して感じていた「何か」を、解明する糸口になりそうな気がしていた。
 実家が裕福な場合、相手の経済条件など無視して、ただ好きだから結婚したいと、親を困らせる方が普通だろう。
 優里はすっかり黙り込んでいる。その横で景子が気丈に踏ん張っている。

「私が結婚生活で感じたことです。『愛があれば貧乏でも構わない』などと言う方は、貧乏な生活を送ればいいんです。私は、優里にそんな生活を送ってほしくありません。お金は必要ですよ。何にも増して。格好をつけてどうするのです」
「なるほど。確かにそうかもしれませんね」

(やれやれ。どうしたものか。母親は「お金は必要だ」の一点張りで、他の話は聞けそうにないな……)
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