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第二十三話 クラウス視点

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 ──どうしたものか。

 俺は現在、かつてないほどの窮地に陥っていた。ユウレスカの婚約者として国王の前に連れ出されたのは先に聞いていた通り。婚約の許可を貰ってさっさと退散すればいいだろう。

 しかし、予想外にも国王が言った。「この場で騎士の誓いを立てるのだ」と。騎士の誓いとは、生涯たった一人にだけ捧げることができる特別な宣誓のことである。男性騎士が女性に行えば、プロポーズのような意味を持つ代物だ。

 傍に控えている近衛騎士が、腰の剣を外し、鞘ごとこちらに差し出す。これを使えということだろうな……。

 一生に一度のそれを行うことは別にいい。今後誰かに捧げる予定もなかったし、ユウレスカが相手ならば本望だ。しかし、彼女はどう思うだろうか。国王の命とはいえ、俺に騎士の誓いを捧げられるのは嫌かもしれない。女性の夢とも言われるその瞬間を、愛する人ではなく俺に、こんな形で受けることをつらく思うかもしれない。

「何を躊躇う?彼女を愛しているのだろう?」

 事の発端となった王子が、剣を取れと催促する。助けを求めてシヴァンを見ても、真剣な顔で頷くだけ。俺はどうすればいい。

 その時、ユウレスカが握る手の力をぎゅっと強めた。本物の婚約者に見えるように密着していたのだ。……そうだった。彼女はさっきもこうやって俺の存在を許してくれた──。

 俺は覚悟を決めて、剣を取ってユウレスカの前に跪いた。

「私、クラウス・フォン・ヴェルトランは生涯あなただけを愛し、慈しむことを誓います。そして、この身を尽くしてあなたのすべてを守り抜くことを、この剣に誓います」

 この言葉に一片の偽りなし。そうして、頭の上に剣を掲げ、恭しく差し出す。鞘に入ったままだから、誤って彼女が傷つく心配もない。

「承諾する場合はその剣に触れて『受け取った』と言いなさい。断る場合は言葉ではっきりと示しなさい」

 近衛騎士がそう指示を出すと、ユウレスカはそっと手を伸ばした。

「受け取りました。……私もあなただけを愛し、慈しむことを誓います」

 それを聞いて、なんだか泣きたいような気持ちになった。彼女がくれる言葉はいつもあたたかくて優しい。

「……ありがとう」

 ユウレスカが俺と同じように誓いを立ててくれたこと、本当に嬉しい。だけど、これを受け取る訳にはいかないな。突然に結ばれたこの婚約は、いつ破棄されてもおかしくないのだから。

「国王様、婚約の承諾をいただきたい」

 シヴァンがそう一声発した。大きな声を出さずとも、静まり返ったこの場にはよく響く。

「……許そう」

「感謝いたします」

 俺とユウレスカ、そしてシヴァンは肩の力が抜ける。会場も次第に元の喧騒を取り戻した。

 今日ばかりは、仮面をしていて本当によかったと思う。色んなことがありすぎて、自分がどんな表情をしているのかよく分からない。

「もう十分だろう。俺は帰る」

 シヴァンにはじっくり話を聞く必要があるが、今日はひどく疲れた。後日でいいだろう。

「ユウレスカ、私たちもお暇しようか」

 親しげな二人の様子を見て、嫉妬心が湧く。だが、それがただただ嬉しかった。もはや俺は彼女と無関係ではなく、嫉妬する権利があるということが。



お読みいただきありがとうございます。更新お待たせしました。
視点を切り替えつつ話を進めている為、一話が短くなりがちです。読みにくい部分もあるかもしれませんが、楽しんでいただけるよう努力していきますので今後ともお付き合いください。
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