22 / 25
第二十二話 ユウレスカ視点
しおりを挟む
あの人はなんだったんだ。
クラウス様と訪れた休憩室で、先程の出来事を思い返す。せっかくクラウス様が私を支えて歩いてくれていたのに、邪魔をしようとして。近衛だかなんだか知らないけれど、放っておいてほしい。
でもまあいい。気持ちを切り替えて、やることをやろう。この機会を逃してはいけない。
「クラウス様、先日は申し訳ありませんでした」
私に住処と美味しい食事を与えてくれたのに、大して役にも立てずに屋敷を去った。恩知らずにも程がある。別れた時に何も言えなかったことが、ずっと気になっていた。
「……君が謝ることなどない。こちらは命を救われたんだ。心から感謝している」
私がシヴァンさんに無理を言って看病させてもらっただけだ。そのせいで、屋敷の皆に迷惑をかけもした。……それに加えて。
「いいえ。不快な思いをさせてしまったのですから、謝らせてください。意識のない方に口付けるなんて……私が非常識でした」
ただ薬を飲ませたかったのなら、薬を布に含ませて口に突っ込めばよかったのだ。まあ、それも少々問題あるかもしれないけれど。
「奴隷の身でありながら許可なく主人に触れるなど、そもそも許されることではありません。クラウス様が優しくしてくださったから、私は勘違いして……いえ、甘えていたんです」
座ったままでは失礼か。私は立ち上がって「本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げる。クラウス様は私の謝罪をどう受け止めるべきか悩んでいるようで、無言で立っていた。
──コンコン。
ノックの音がして、クラウス様が動き出した。私の向かい側のソファに腰掛けて、訪問者の入室を促す。
「二人ともここにいたのか」
現れたのはシヴァンさんだ。
「挨拶はもう済んだのか?それにしては早いな」
「急いで来たんだ。国王様に妹を王子の婚約者にしないかと打診されてね。どうやら一目惚れされたらしい」
ええ!?……今日の私は超絶美少女に変身させられているので、そういうこともあるのか。私は所詮偽物令嬢だというのに、どうすればいいんだ。
「それ、受けたのか?」
返答に困る私の代わりに、クラウス様が聞いてくれる。
「いいや。婚約が内定していると言って断ったよ」
そんな話は聞いたことがない。まさか、国王様に嘘を教えた……?
私の心の声が聞こえたかのように、シヴァンさんは続ける。
「心配ない。今から婚約してしまえば、嘘にはならない。……そこでクラウス。ちょっと頼まれてくれないか」
「……俺には関係のない話のようだが」
「大いに関係がある。その婚約者は誰かと問われたから、クラウス。お前だと答えた」
「は!?」
「今から共に顔を見せろとの仰せだ。そうすればその場で婚約を認めてくれると。だから私は二人を呼びに来た」
ちょちょ、シヴァンさん!?何をしちゃってるんですか?私はともかく、クラウス様の意向を無視してこんなことをするなんて……!
「勝手に決めて申し訳なかったが、お前たちなら大丈夫だろう。それとも、二人は嫌なのか?……クラウスは?」
「俺は……構わないが」
「ユウレスカは?」
「……私も嫌ではありません」
むしろ嬉しいです!!とか言っちゃダメな雰囲気なので自重する。そして、冷静になって考えてみる。今日が過ぎてしまえば、私は貴族令嬢でもクラウス様の婚約者でもなくなる。だから、このハプニングを喜んでも悲しんでも、無意味。これは私の人生ではないのだ──。
そう思っていた。満足気に頷くシヴァンさんに、「妹さんは納得しているのですか?」と耳打ちして、「問題ない。私の妹は君だけだから」と言われるまでは。
シヴァンさんの計画的犯行です。
クラウス様と訪れた休憩室で、先程の出来事を思い返す。せっかくクラウス様が私を支えて歩いてくれていたのに、邪魔をしようとして。近衛だかなんだか知らないけれど、放っておいてほしい。
でもまあいい。気持ちを切り替えて、やることをやろう。この機会を逃してはいけない。
「クラウス様、先日は申し訳ありませんでした」
私に住処と美味しい食事を与えてくれたのに、大して役にも立てずに屋敷を去った。恩知らずにも程がある。別れた時に何も言えなかったことが、ずっと気になっていた。
「……君が謝ることなどない。こちらは命を救われたんだ。心から感謝している」
私がシヴァンさんに無理を言って看病させてもらっただけだ。そのせいで、屋敷の皆に迷惑をかけもした。……それに加えて。
「いいえ。不快な思いをさせてしまったのですから、謝らせてください。意識のない方に口付けるなんて……私が非常識でした」
ただ薬を飲ませたかったのなら、薬を布に含ませて口に突っ込めばよかったのだ。まあ、それも少々問題あるかもしれないけれど。
「奴隷の身でありながら許可なく主人に触れるなど、そもそも許されることではありません。クラウス様が優しくしてくださったから、私は勘違いして……いえ、甘えていたんです」
座ったままでは失礼か。私は立ち上がって「本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げる。クラウス様は私の謝罪をどう受け止めるべきか悩んでいるようで、無言で立っていた。
──コンコン。
ノックの音がして、クラウス様が動き出した。私の向かい側のソファに腰掛けて、訪問者の入室を促す。
「二人ともここにいたのか」
現れたのはシヴァンさんだ。
「挨拶はもう済んだのか?それにしては早いな」
「急いで来たんだ。国王様に妹を王子の婚約者にしないかと打診されてね。どうやら一目惚れされたらしい」
ええ!?……今日の私は超絶美少女に変身させられているので、そういうこともあるのか。私は所詮偽物令嬢だというのに、どうすればいいんだ。
「それ、受けたのか?」
返答に困る私の代わりに、クラウス様が聞いてくれる。
「いいや。婚約が内定していると言って断ったよ」
そんな話は聞いたことがない。まさか、国王様に嘘を教えた……?
私の心の声が聞こえたかのように、シヴァンさんは続ける。
「心配ない。今から婚約してしまえば、嘘にはならない。……そこでクラウス。ちょっと頼まれてくれないか」
「……俺には関係のない話のようだが」
「大いに関係がある。その婚約者は誰かと問われたから、クラウス。お前だと答えた」
「は!?」
「今から共に顔を見せろとの仰せだ。そうすればその場で婚約を認めてくれると。だから私は二人を呼びに来た」
ちょちょ、シヴァンさん!?何をしちゃってるんですか?私はともかく、クラウス様の意向を無視してこんなことをするなんて……!
「勝手に決めて申し訳なかったが、お前たちなら大丈夫だろう。それとも、二人は嫌なのか?……クラウスは?」
「俺は……構わないが」
「ユウレスカは?」
「……私も嫌ではありません」
むしろ嬉しいです!!とか言っちゃダメな雰囲気なので自重する。そして、冷静になって考えてみる。今日が過ぎてしまえば、私は貴族令嬢でもクラウス様の婚約者でもなくなる。だから、このハプニングを喜んでも悲しんでも、無意味。これは私の人生ではないのだ──。
そう思っていた。満足気に頷くシヴァンさんに、「妹さんは納得しているのですか?」と耳打ちして、「問題ない。私の妹は君だけだから」と言われるまでは。
シヴァンさんの計画的犯行です。
31
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

何を言われようとこの方々と結婚致します!
おいも
恋愛
私は、ヴォルク帝国のハッシュベルト侯爵家の娘、フィオーレ・ハッシュベルトです。
ハッシュベルト侯爵家はヴォルク帝国でも大きな権力を持っていて、その現当主であるお父様にはとても可愛がられています。
そんな私にはある秘密があります。
それは、他人がかっこいいと言う男性がとても不細工に見え、醜いと言われる男性がとてもかっこよく見えるということです。
まあ、それもそのはず、私には日本という国で暮らしていた前世の記憶を持っています。
前世の美的感覚は、男性に限定して、現世とはまるで逆!
もちろん、私には前世での美的感覚が受け継がれました……。
そんな私は、特に問題もなく16年生きてきたのですが、ある問題が発生しました。
16歳の誕生日会で、おばあさまから、「そろそろ結婚相手を見つけなさい。エアリアル様なんてどう?今度、お茶会を開催するときエアリアル様をお呼びするから、あなたも参加しなさい。」
え?おばあさま?エアリアル様ってこの帝国の第二王子ですよね。
そして、帝国一美しいと言われている男性ですよね?
……うん!お断りします!
でもこのまんまじゃ、エアリアル様と結婚させられてしまいそうだし……よし!
自分で結婚相手を見つけることにしましょう!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる