後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第二話 玄武宮の賢妃は動じない

06-10.

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 藍洙の遺体は見れたものではなかった。

 墨のような色の灰が残り、原型を留めていない。それなのにもかかわらず、鼻が曲がるような異臭を放っていた。

 それには収監されている牢を訪ねた俊熙も眉を潜めてしまっていた。

「黄昭媛が灰になる前の姿を覚えている者はおりませんか?」

 香月はすぐに行動に移した。

 人の記憶というのは変わりやすい。それも強烈な印象が与えられてしまえば、元の姿形がどのようなものであったのか、具体的に語れる者は減ってしまう。

 それを香月は知っていた。

 醜く変貌した遺体の解剖現場に連れて行かれたことがある。

 仙術を扱う道士として、呪術を扱う術師と対峙しなければならない時もある。そのことを踏まえ、相手と渡り合う為の知識として呪術に関する知識や見分け方を身に付けていた。

「指がすべてなくなっておりました」

「顔が膨れて、青く、それは醜くなっておりました」

「異臭を放っておりました。今よりも酷いものでした」

 宦官たちは次々に声をあげる。

 検死作業は進んでいたようだ。

 検死台の上に横たわっている姿の黒い灰は、酷く醜い姿を晒していたことだろう。生前、藍洙が大切に磨いていた美貌は見るも無残の姿に代わり、誰もその美貌を惜しむことはない。

 ……呪術を使っていたのは、黄昭媛だけではない。

 隣の台に視線を向ける。

 藍洙よりも黒く変色した灰が遺体の形のまま残されている。同時に検死を進めていたのだろう。

「黄昭媛の隣は誰のものですか?」

 香月は問いかける。

 ……昭媛宮の術師だろう。

 藍洙を誑かし、呪術を教え込んだ者がいた。

 それは心身ともに呪術に捧げた者の死の特徴と一致していた。

 呪術に関わった者の遺体が灰となる時、必ず、黒くなる。それは他人を呪い、他人を疎んだ者の末路であるとされていた。

 ……黄昭媛を利用するだけではなく、自身も駒として使っていたのか。

 黒幕は他にいる。それを示しているようだった。
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