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黒鳥の湖
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しおりを挟む「そうだよ、俺と 那智黒を身請けできるくらいお金持ちの人を掴まえて、一緒に出て行くんだよ。でも、薄墨に言われて思ったんだ。身請けされない立場になればここで那智黒とずっと一緒に居られるんだって」
ぎゅう と肩に食い込む指は細い分だけ鋭い痛みを伴って、オレを押し潰すかのようだった。
「馬鹿なこと言うな!蛤貝は個室持ちにだってなれるって 」
「個室持ちなんて興味ないよ」
体重が掛けられて、頬ずりをされるけれどその体温を受け入れ難くて突っぱねる腕に力を込める。
「どうして嫌がるの?」
「いやがってなんて って言うか、お腹 を、押さえないで」
体重をかけられて圧迫されるのを避けるために体を捻って腹を守るように身を縮めると、蛤貝はきょとん とした顔をして体を離す。
その視線から逃げるように両手で腹部を庇った瞬間、はっと見開かれた両目が腹の方を見て、
とっさに逃げようとしたのは、勘だった。
蛤貝の振り下ろされた拳が腹部を狙っていたんだって、避けた先で振り返って分かった。
「う 蛤貝?」
「那智黒が俺以外の世話をするなんて、許さない」
「なに、何言ってるの!」
「時宝様の子?それとも、ここに来てからもうお客様を取ったの?」
ぞわ と背筋を駆け上がった悪寒に促されて後ずさるも、散々吐いたせいで体に力が入らずに這いずることしかできない。
「一緒に津布楽先生のとこに行こうよ!他のアルファのフェロモンに中ててもらえたら流れるって言うし、ね?」
着物の裾を掴まれてバランスを崩してばたんと畳に倒れ込む。
「時期が早いと痛みもないって言うし、俺が手を繋いでてあげるから怖くなんかないよ?」
逃げようとしているのにうまく体が動かなくて、後ろから近づいてくる蛤貝の気配に自然と体が震え出す。
物心ついた時にはもうお互いすぐ傍に居て、誰が親とか兄弟だとかあまり教えられない『盤』の中では珍しく血の繋がりを教えられていたオレ達は、他の白手達よりも親密で仲が良かった。
だから、お互いがお互いのことをよく見てきたはずなのに……
腕を掴んでくる蛤貝は見たことがないような昏い表情をしている。
「しな しないよ!この子は、産むんだからっ」
触れられそうになって慌ててその手を弾くと、こちらに伸ばした手をぎゅっと握り込んで蛤貝は怯みそうになるほどきつい眼差しでオレを睨みつけてきた。
「時宝様は契約を破棄してもうここには来ないよ!那智黒のことももう忘れて今頃別のオメガを番にしてるよ!那智黒が幾ら子供を大事にしたって時宝様はその子のことを疎んじるだけだよ!」
「 ────っ」
ぐ と言葉が詰まる。
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