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かげらの子
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しおりを挟む「では、機嫌を損ねたと思っていたのは、貴男の入れ知恵だったと言う訳ですか!」
「年寄り連中は元々短気ですよ」
「 っ 貴男はっ」
呑気な反応に怒鳴り返しそうになったが、震えるように呼吸を繰り返してそれを宥めた。
「…………意図的に隠していたのは、今年の祭りの内容と先神の呪いです」
そう口にしてから、「ああ、先神様 ですね」と言い直す。その鼻白んだふうが引っかかって問い掛けようとする前に、伊次郎は話し始めてしまった。
「先神はかつて『雄雌蛇』と言う荒魂でした。この地に辿り着いた御兄弟の兄がそれを祀り先神となった訳です」
「はい」
こんな状況だと言うのに捨喜太郎は新しい話にそわりと尻を浮かし、手元にないと分かっていても書き付けておける物を探すように手を動かす。
「荒魂である『雄雌蛇』を鎮める為に、度々特別な生贄が捧げられていたそうです」
「生贄……」
治水や雨乞い、飢餓、建立祈願、様々な折に聞く言葉だったが、それが捧げられた地に居るのだと改めて言われると落ち着かない気分になる。
「特別な とは?」
「人知外の力 神通力を持った者やら と伝わっています、ただ、神の名を考えるとこの生贄は『おめが』だったのでは と。発情、男でも孕むと言うのは子孫繁栄の象徴であり、不可思議の代名詞のようなものですから」
「…………」
「ある時送られた生贄は夫婦になったばかりだったそうです、妻は生贄に、夫はそれを止めようとして四肢を潰された。蛇神に食われながらその『おめが』は夫と引き裂かれた事を嘆き、蛇神を恨み、村人を憎み、全てを呪った」
しん と静まり返った暗闇の中に滔々した硬質な伊次郎の声だけが零れ落ち、捨喜太郎は背筋に嫌な物を感じて体を震わせた。
ただの昔語りの筈なのに、何故だかそれが呼び寄せてはいけない物を呼び込んでいるような気がして、今にも腕を掴まれそうで妙な汗が出る。
「独り寂しく朽ちたくない、自分と同じ『おめが』は永久にこの村に在れ と」
そこで水を飲んだのか、ちゃぽん と小さな音がした。
「それ以後、『おめが』はこの地に縛られるようになった」
「それで……?」
「崎上が祀り『雄雌蛇』は治水の神として山の向こうに御座すのだそうです」
「神 なんて……本当にいるんですか?」
ぼんやりと、捨喜太郎は伊次郎がそう言った類を実は信じてはないんじゃなかろうか と、そんな奇妙な確信を感じながら問いかける。
「あの向こうに行く事ができるのは宇賀だけです。その宇賀曰く、あの向こうには大きな湖があり、そこに先神様がいらっしゃるそうですよ」
「いる んですか?」
自分が唾を飲み込む音が酷く大きく聞こえて、捨喜太郎は飛び上がりそうになる。
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