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かげらの子
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しおりを挟む「さぁ、飽く迄 宇賀の言葉ですから」
「……それ以外は?」
「 と、言うと?……ああ、社ですか? さぁ、どうでしょうか、あるのかもしれませんが宇賀からそう言った話は聞いた事が 」
「そうではなくて!宇賀は……たった一人、蛇の出る山で……どうやって暮らしているんですか⁉︎」
食いつくように声を上げたせいか、またちゃぽん……と小さな音がした。
「何度も言った通り、そこへは宇賀でないと行けません。向こうに何があるのかは分かりませんが、奥深い山の更に奥です、あると言っても山か谷か……そんな場所で人らしい暮らしをしているとは思えない。現に宇賀は体を対価に食べ物を貰っているでしょう」
「なん っ そうやって知っているならっこの村に住まわせて、まともな生活をさせるべきでは⁉」
「貴方はっ 爪弾きにされながら!奇異の目で見られながら!この村で人に混じって生きる事が出来るとでも⁉……古くから先神に仕える巫女として生きてきた血筋の人間が⁉」
荒げた声は固く閉ざしていた感情の蓋がずれて溢れ出したようだった。思わず気圧されて言葉を飲んだ捨喜太郎は、この静寂の中で辛うじて聞き取れるような声の大きさで、「すみませんでした」と呟く。
「……いえ、こちらこそ……取り乱しました。今ですら、あんな扱いをされているのですから、常時この村に居ては 」
どう言う扱いになるのかは火を見るよりも明らかだ。
「男達は気晴らしに宇賀を犯し、巫女の証である鱗の上を噛んで勇気を試します。人の立ち入れない山ではありますが、蛇に襲われる事のない宇賀にとっては身を守る事の出来る聖域でもあります」
「っ 他所の人間が……浅慮で安易な事を言ってしまいました」
呻くようにそう言うと、「いいえ」と静かな声が返る。
表情の見えない中で聞こえてくるその声音は深い慈悲に満ちているように思え、いつもの硬質さは見受けられない。
「あの子の事を、人と言ってくださってほっとしました」
「? あの、それは 」
この村の中で伊次郎だけが異質に思えて問いかけようとした時、頭上がみしりと音を立てた。頭上を歩いているのか、ねじり込むような足音が聞こえて追うように小さな土の欠片が髪を打つ。
示し合わせた訳ではなかったが、何故だかお互いにはっと口を噤んで様子を窺った。
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