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かげらの子
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しおりを挟むしっかりと受け取ったのを確認してから離れて行こうとした伊次郎の手を掴み直し、掠れる声を喉から何とか絞り出す。
「ご っごは ?」
「まず喉を潤してください、大丈夫です。私も飲みました、ただの水でしたよ」
「…………」
内心を見透かすような言葉を返す伊次郎は、何をどこまで把握しているのだろうと捨喜太郎は思わず寄った眉間の皺を隠しもしないで声の方を睨みつける。
そんな不躾が出来たのも辺り一面が真っ暗闇だったお陰なのだが、捨喜太郎はそれに感謝を感じる事はなかった。
竹の中に入れられている温い水を口元に運び、何か異変を感じたらすぐに吐き出せるようにそろりそろりと含んで行く。
「ここは、穴倉です」
「蔵 ?」
「貯蔵庫代わりの土中の穴です」
「どうしてそんな場所に……」
自分ならまだしも……と、慣れてきた目でようやっと見えるようになった伊次郎の朧げな影に視線を遣った。
「逃げられないように」
そう呟くように言う伊次郎の声は忌々し気に棘を含んでおり、その敵意が誰に向けられた物なのか感じ取った捨喜太郎は更に「どうして」と繰り返す。
「逃げられたら、全てが無に帰す と思っているからですよ」
「ま 待って下さい!話が見えなくて……なんの事だかさっぱり……」
見えないと分かっていても手を振って言葉を遮り、渇きを訴える喉にもう一度水を流し込む。
「 貴方方は……何を隠しているんですか?」
一つ、一際大きな溜息が聞こえ、それからまたとんとんと叩く音が聞こえる。そうすると一瞬だけ細い光が差し込み、天井を叩いている伊次郎の横顔が垣間見えた。
「……やはり誰も助けに来ませんね。いや、分かっていて見ないふりをしているか でしょうか」
「あのっ」
問い掛けに応えずに他所事を言い出した伊次郎に対して、捨喜太郎はいらいらとした声を上げる。
常時ならば気長に待ても出来たろうが、訳も分からず薬を盛られて監禁されているこの状況で、伊次郎の態度は酷く気に障る物だ。
もう一度、今度は捨喜太郎の方を向いて溜め息を吐いた気配がした。
「……誰も来ない内に、お話しましょう」
伊次郎は唇を湿らせたい と竹筒を強請るとそれを受け取ってちゃぽちゃぽと音を立てる。
「敢えて、お聞かせしなかった村の話です。……いえ、と言うより、ここに滞在して頂く為にわざと情報を伝えないよう、皆に言い聞かせてありました」
「は ?」
好奇心からではあったが遊びで来ているのではない と、怒鳴り上げそうになったのを寸でで堪えたのは、「申し訳ない」と伊次郎が素直に言葉を口にしたからだった。
上背のある大人が二人いても苦しさを感じさせないこの暗闇で怒りを募らせても詮無い事なので、捨喜太郎はふつふつと湧き上がるような怒りを抑える為に拳を握り締める。
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