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かげらの子
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しおりを挟む睨み合いのせいか互いに何も言葉が出ず、周りの静けさは捨喜太郎と宇賀が二人きりでいた時と何ら変わりがない。
けれど、その合間を縫うように荒い呼吸が微かに漏れる。
「 宇賀、は、 人間だ」
黒い綺麗な洗い髪は枯れ葉と土に塗れて、白日の下に晒された肌は擦り傷が見て取れる。鏡のような美しい双眸も、まるで雲に隠れるかのように隠れてしまって、捨喜太郎の腕の中にいるのは身を竦ませて僅かも動きを見せない。
すべてを諦めきったような、
誰にも晒されたくないような、
影の中で息を潜める生き物のように見えた。
「宇賀は、人だ」
力に任せて抱き締めた腕の中で小さく宇賀が震えた気がして、捨喜太郎は少しだけ力を緩めて苦し気な様子はないか気配を窺う。
「んなことっ、ねぇってっ」
暴れた捨喜太郎の体のどこかが当たったのだろう、顔の左半分を押さえながら呻く男に「違うっ」と叫んだ。
「そんなんが、俺らとおんなじなわけ、ねぇが!」
項から肩甲骨の中程にかけて赤い鱗が犇めく。
それは明らかに人の皮膚の色をしておらず、鱗の隆起の一つ一つが見て取れる。
「違う!これはっ 」
「これは」の言葉の続きを言おうとして、捨喜太郎は言うべき言葉が見つからない事に気が付いた。
幾つも幾つも周りが呆れる程本を読み漁ってきたと言うのに、宇賀を庇う言葉が見つからず緩く首を振る。
視線を腕の中の宇賀に落とせば、緩い呼吸で微かに上下する白い背中が見えた。
紅い鱗と擦り傷、 ──と、
「 噛み傷……」
まだ瘡蓋も出来切っていない生々しいそれは、今朝に宇賀を凌辱していた男が果てた際に覆い被さったのは、これを付ける為だったのかと思考が邪魔をした瞬間、
「 あっ ────っ」
ごつん と横殴りに頭を蹴られ、堪える事が出来ないままに下生えの中に突っ込んだ。
酔った時のように回る視界に世界の上下が分からず、藻掻いて伸ばした手が空を切って頭を下に斜面へと転がる。
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