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かげらの子
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しおりを挟む頭の中が揺れてどう身を守ればいいのか分からない中でも、捨喜太郎は宇賀の身を離さないようにとぐっと胸へと押さえつけた。
乾いた小枝の折れる音や、生木の撓る音、枯れ葉の擂り潰される音が目まぐるしく過ぎ去り、斜面の端で止まった時には土の中に埋められたのではないかと思える程に土の臭いが鼻を突く。
「宇賀っ う 」
腕の中のひやりとした体温の無事を探るように腕に力を籠めると、捨喜太郎のすぐ傍で小さく呻く声がした。
自分の体の痛みも顧みず捨喜太郎はさっと体を起こすと、眉間に皺を寄せて同じく体を起こそうとしている宇賀の顔を覗き込む。
「怪我は⁉ 怪我はないのかっ?痛む所はっ?」
大声を出すと殴られたこめかみが疼くように痛んで吐き気が襲ったが、ぐっと奥歯を噛み締めて堪えながら宇賀の体に触れる。頭や肩、手足に大きな怪我もなく、また歪みもない事を見て取ると安堵からかほっと大きな息が口を吐いて出る。
けれど安堵したのも束の間の事で、訛りの強い怒鳴り声が幾つも聞こえて木の枝の折れる音が響き……
宇賀を抱えて逃げ出そうとした所で多勢に無勢ではどうに出来ず、目が回るのか未だに呻いてふらつく宇賀を抱き締めて捨喜太郎はぐっと息を飲んだ。
突き飛ばされて広間に放り出されると、斜面を転がった際に付いたのかぱらぱらと枯れ葉の滓が畳の上に散らばった。
「 これは 」
頭上から聞こえてくるのは震えを押し殺したような伊次郎の声で、捨喜太郎は訳の分からない暴力の解決を願って顔を上げたが、いつも以上に冷ややかな情の薄そうな表情に一瞬でその期待が萎んで行くのを感じ、視線を上げたままにしておけずに項垂れる。
傍らに、同じように突き飛ばされた宇賀がいたがその顔には感情らしい物がなく、まるで表情を持ち合わせていない蛇のように見えた。
「どう言う事ですか?お客人は丁重にと 」
「なんや分からん、よそもんがかっ⁉」
「……それでも、村の為にそうしようと言う話ではなかったですか?」
「なんや分からん奴が、何言うんや!」
「こやん、なしじゃ!」
一人の声にその後ろにいた男達も「そうや」「そうや」と怒声を上げ、その勢いは伊次郎の口を閉ざさせるには十分だった。
伊次郎はちらりとした一瞥を、訳も分からないまま畳の上で蹲っている二人に向けた後、敢えてなのか大袈裟な程の溜息を吐いて見せ、それからふい と捨喜太郎達の傍らに膝を突く。
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