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狼の枷
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しおりを挟む痛いだろうに、その睨む目は力を失ってはいない。
「面白い子だろ?」
「そうですね」
「ふざけんな!まだ叩かれたりないのかっ!」
左手を振り上げたところを直江に押さえられ、うたは悔しそうだった。
「この ど腐れが!」
あかに語りかけた雰囲気は微塵もない。
その豹変ぶりを面白いと表した瀬能の感性はどうかと思うが、興味が湧くか湧かないかで言えば、大神の興味を引くには十分だった。
「うたくん、その辺にしとこうか、一応その人スポンサーだからね」
「金で人の横っ面叩いて罷り通ると思うなよ!」
「はいはいはい、大声出すとあかくん起きちゃうよ」
「あ、 」
はっと口を押さえて瀬能の方に向き直ったうたは、最初の通りの雰囲気に戻っており、先程の一幕が幻のようだ。
長い真っ直ぐな髪をさらさらと揺らして、瀬能の前で頭を下げる。
「しばらくは私があかの傍に居ます」
「そうだね、その方が良さげだね。抑制剤を出しておこうか。ヒートに効いてくれるといいんだけどね」
心配そうに眉を落とし、瀬能は鞄の中を漁り出す。
「熱は?」
「少し出てきているようです、浅い咬み傷と痣がほとんどでした」
改めて言われると、噛み付いたあかの皮膚の感触蘇るような気がして、口の中の煙草に歯を立ててそれを押し殺そうとした。
ギリギリと歯が立てる音が響いたのか、瀬能の視線が不躾に注がれる。
「いい歯医者、紹介しようか?」
「間に合っています」
硬い声を出して、大神は煙草から口を離した。
深い眠りからわずかに覚醒して、あかは怠い体を持て余しながらうとうととしていた。
目を開けるには抵抗があるし、眠るには中途半端な睡魔なせいか眠れない。
ふかふかとした滑らかな肌触りの布団が気持ち良くて、頬を擦り寄せてはその感触を楽しんでいた。
ふと、この感触に覚えがないことに思い至った。
「 ぇ」
自分の寝ているいつもの布団は、毛玉のできた古いもので、少しざらりとした手触りのもののはずだった。
滑らかではないものの慣れ親しんだそれはそれで心地の良い物で、どうしてそれじゃないんだろうと疑問に思う。
「 っ」
はっと体を起こし、周りを見渡す。
そこは飾る物のない、よく言えば控え目な、悪く言えば殺風景すぎる部屋だ。
観葉植物の一つでもあれば雰囲気が変わるだろうに、そう言った物すらない。ただ必要最低限の物があるだけの部屋だった。
ただ使われている物の質だけは良いようで、肌に当たるシーツの感触は触れたことがないような程滑らかだ。
「 ここ、は」
微かに残る記憶を手繰り寄せ、うたと名乗った少女に縋りついて泣いたのを思い出し、あかは恥ずかしくなって俯いた。
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