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雪虫
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しおりを挟む「大人だもんな」
「わかってるけどさ」
雪虫と同じ拗ね方を見ていると、どうしても会いたくなるのは困る。
人形のような顔に人間味が増して、そのギャップが可愛いんだよなぁ……
「~~~って言うか、なんで関係あった人を平気で連れてこれるのかな!無神経すぎるでしょ!」
セキの頬は膨らみすぎて、突つけば破裂しそうだ。
「や、でもちょっと機嫌悪かったぞ?」
家に入ってきたときの機嫌の悪さは、もしかしたら昔に関係のあった人間と接したせいかもしれない。そう思うと、ちょっと大神が人だったんだと思えて微笑ましい。
「だからって っ」
また泣き出しそうになったセキにティッシュの箱を渡し、知らない内に寄っていた眉間の皺を指で押して解した。
「 ごめんな?」
「なんでしずるが謝るんだよ」
「オレと雪虫の問題に巻き込んでるから」
そう言うと、はっとセキは視線を外して気まずそうに下を向いた。
セキは責任の在りどころを見つけたいわけじゃないのだろうけど、オレのこの案件がなければ会う必要がなかったかもしれない。そう思うと、申し訳ない気持ちになる。
「でも、俺も雪虫には幸せになって欲しいし」
「オレは?」
「しずるもだって」
「だから ごめん、オレの方こそ変なこと言った」
爪をプチプチと鳴らし、乱暴に目元を擦ってからこちらを向いた。
「雪虫の為ならしょうがないな!」
「ほんっと仲良いな」
「可愛いからね」
「可愛いな」
泣き止んだらしいセキにお茶でも煎れてやろうかと立ち上がったが、そうだった。お茶は禁止なんだった。
「他に何か飲むか?」
「えっと、じゃあお水」
こちらを向いて笑うセキはまだ少し無理してそうだったけれど、もう泣くことはなさそうで安心した。
「なぁ、オレはセキにも幸せになって欲しいんだ。で、さ。幸せになりましょう同盟でも作るか!」
「ナニその同盟って!」
ぷっと水を溢しそうな勢いで笑うと、セキはうーんと考えるそぶりを見せて、にまりと企むような顔になった。
「いいね!幸せになりましょう同盟」
「えっそれで名前決まっちゃう感じ?」
「俺と雪虫としずるで!」
テンションが上がったのか、セキは椅子から転がり落ちそうだ。おかげでハラハラとしつつ、いつでも支えれるように両腕を構える。
「暴走せずに雪虫と番って幸せになる!」
「大神さんに噛んでもらうんだ!」
「おーっ!」
「おーっ!」
二人で意思確認の雄叫びを上げていたら、だいぶ煩かったみたいで……
大神の片手ずつにぶら下げられて、庭へと放り出されてしまった。
「いたた って、セキだけ芝生の上だし!依怙贔屓!」
「偶然だ」
「もーー!……あーあ」
見上げた二階のカーテンが微かに動く。
白いカーテンの向こうにいる雪虫に、できる限りの笑顔を見せて、大きく手を振った。
雪虫……
まだ、顔を見ることもできないけれど、
雪虫……
でも、雪虫をこの手で抱き締めて、
大好き!愛してる!って言って、
番ってくださいっ!て懇願するその時まで、
雪虫……
会えなくて、泣いているんだろうなって思う。
だから精一杯の笑顔で手を振る。
雪虫に待ってて貰えるように願いを込めて。
END.
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